プロローグ ~それは想いが集う場所~
初めまして、あまやすずのりと申します。
この小説は野球を題材にした連載小説となっております。
現在、他の連載小説を行っており本来であればこちらは
その連載が終了した段階で始めようと思った小説なのですが、
まぁいつまでも自分の中で溜め込むのもあれなので、
と、いい加減な理由で投稿してしまいました。
なので、こちらは不定期更新となることを予めご了承頂き、お読み頂ければ幸いです。
よろしくお願いします。
青空、雲一つ無い晴天の中で光り輝く太陽が
これでもかと自己主張する快晴。
カンカンに照らされた大地にはたくさんの人が
時にはタオルで汗を拭き、
時にはキンキンに冷えた氷を首筋に当て、
時には大声を張り上げメガホンを鳴らし、
時には手を組み懸命に祈る。
頑張って来た仲間達の勝利を夢見て
今日もここ兵庫にある球場は朝から熱気にあふれていた。
『さあ9回裏大変な事になりました。
得点は5−4、海山高校が1点リードながらツーアウト満塁のピンチ、
帝東高校は逆に一打サヨナラのチャンス』
本日最大の見せ場に球場内から歓声が上がる。
割れんばかりの声援を受けながら一人の高校生がその舞台に上がる。
『ここで迎えるは帝東高校が誇る最強のクリーンナップ』
ゆっくりと左バッターボックスに入る彼を見ながら
実況者が声を張り上げる。
彼自身も興奮と期待に彩られ声が自然と上擦っていく
『3番、2年生の野田昌也君が静かに構えます』
けたたましく鳴るブラスバンドと期待の込められた声援を
一身に受ける彼。
しかし、その顔は至って冷静に見えた。
甲子園という大舞台での最大で最後のこのチャンス。
普通ならどこかしらにプレッシャーが垣間見れるものだが、
彼からは微塵にも感じない。
至ってシンプルに獲物を確実に仕留めようとする
姿勢だけが伺えた。
『対する投手在原君、ここが最後の踏ん張りどころです』
すでに球数は120球越え。
肩で息を整える姿からもう限界なのは目に見えている。
だが、海山高校の柴田監督は代えなかった。
エースを信じているから。
『捕手からサインが送られて…一つ頷き在原君がセットします』
自分のタイミングを計るようにランナーと打者を交互に確認し、
投げる。
『これは…ストライクっ!いいコースに決めています!』
内角低め、左打者の膝元に滑り込むようなスライダーを決める。
プロでもなかなか見られない見事な投球に
自然と実況者も興奮する。
『さすがに今の球は手が出ませんでしたか、野田君』
そう言いながら見た彼の姿からは焦りの色は伺えない。
一度ボックスを離れ軽く一振り、
先程と同じ位置に立ち直す。
『続いて2球目を、投げた!…これもストライクっ!
今度は外角低めギリギリ一杯のところです』
スピードに多少衰えが見えるストレート。
だが、コースが良かったためか見逃した。
観客からは追い込んだ投手を称える拍手と
追い込まれた打者へのため息が入り交じる。
だがまだ終わってはいない。
それは球場全体が理解しており、
それが分かっているからこそ
観客は未だ必死に両者へ応援を続けている。
『後が無くなった帝東高校野田君、だが声援は衰えていません』
球場内はまだ諦めていない、
その思いを伝えるのも実況者の仕事。
立場上中立を維持しなければならないが、
それでもこの場面、球場の雰囲気には引き込まれてしまう。
『サヨナラの一打を信じて野田君を応援しています』
そう、皆が信じていた、彼が一振りで決めることに、
決めてしまう存在であることに。
そして、それは現実となる。
キンッ!
酷く滑稽で透き通った金属音が球場内に響く。
それはボールがバットに当たった音。
それを理解した者はすぐに球の行方を目で追い、
ある者は口を開け、ある者は祈りを捧げ、
ある者は振り返り、ある者は必死に追い、
そしてある者は口の端をつり上げながら
ゆっくりとダイヤモンドを回り始める。
時間にして僅か数秒の出来事が
様々な形でそれぞれの景色をゆっくりと描き、
現実へと戻された。
『は……入ったーっ!』
アナウンサーの言葉と共にセンター方向に鎮座する
スコアボード下へと消えていく白球。
それを確かめる前に球場内は盛大に震えた。
怒濤のような歓声と悲鳴。
まるで波紋のように広がった声は弱まること無く
悠然と走る殊勲者へと注がれる。
『今ナインに迎えられながら…野田君ホームインっ!』
バチバチと様々なところを叩かれる手荒い祝福を
嬉しそうに受け、しかし、即座に整列する。
そう、試合はまだ終わっていない。
『今、在原君をチームメイトが支えながら整列しています』
打たれた瞬間膝から崩れ落ちた彼を
抱きかかえるように運ぶ仲間達。
悔しさと後悔が混じった顔の彼らを見ると、
なんとも残酷な気持ちになる。
勝者の影に敗者あり。
勝負である以上必ずどちらかになる。
未だ10代の彼らが懸命に必死に練習しここまで来た。
だが喜びの涙で帰れるのはたった1高のみ
それ以外の、全国の高校球児は悔し涙で去っていく。
その現実は目の前で何度も繰り広げられ、
熱戦として日本中を沸かす。
それが高校野球。
『海山高校ナインも最後まで懸命に戦いました、とても良い勝負でした』
だから、少しでも彼らの悔しさに報いるためにも
実況者がしっかりと最後まで両者を称える。
歓喜に頬が緩みっぱなしのナインと
未だ肩を支えられながらなんとか整列するナイン。
相反する状況の両校を一別した審判が
勝者を述べ試合の終わりを告げる。
そして球場内にはけたたましいサイレンが鳴り響いた。
『結果8−5、サヨナラ勝ちで帝東高校が勝ち進みました』
たった1球、されど1球。
その小さくだがとても大きな1球で決まったこの試合。
実況者もその重みを受け止めるかのように
最後は静かに勝者を述べ締めるのだった。
前書きにも書きましたがこちらは不定期更新となります。
今の連載小説が煮詰まった時に思いつき、チョコチョコ
書いている作品なので、というのが主な理由だからです。
そのため、こちらは定期更新開始まで告知無しの
不定期更新となります、ごめんなさい。
ちゃんと前作を終わらせたら書いていきますので。
もしよろしければ連載中『雫から始まる物語』もよろしくお願い致します。
ここまでお読み頂きありがとうございました。