2回目の月曜日
「魔法陣はこれで……合ってるッスね。じゃあ、2代目魔王城、召喚するんで、ちょっと下がっててくださーい。」
魔王城建設(?)予定地に移動したオレ様達3人。
準備を整え、夜中の0時キッカリに、呪文を詠唱し、魔王城の召喚を開始する。
えっ? 城って召喚するもんなの?とかいうツッコミは……
「よくわかんねぇけど、城って召喚するもんなのか?」
とまあ、残念な感じになっちゃうから、よい子のみんなはしちゃダメッスよ。
「勇者さん。」
イッコマエさんが人差し指を口の前に立て、静かにするよう示す。
召喚には集中力が必要ッスからね。
「コノ・ケタノ・ゴ・ウロ・シオル・ク・テデ……出でよ、魔王城!」
地面に描いた魔法陣が光を放ち、ゴゴゴという低い地鳴りと共に魔王城がゆっくりとその姿を現す。
「おお~……すげぇー、あっ。」
慌てて口をふさいだ勇者に向けて、親指と人差し指でマルを作って見せる。
「もうしゃべってOKッスよ。」
1分とかからずに、2代目魔王城が完成した。
「召喚っつーと、悪魔とか精霊とか、そういうモンを呼び出すイメージしかなかったけど、まさか建築物まで出てくるとは……」
「正しくは召喚とはまたちょっと違う術なんスけど、使ってるオレ様自身も詳しい原理は……」
「わかってねぇのかよっ!」
「細かいコトはいいじゃないッスか。フグの卵巣を塩漬けして、さらに糠に漬けておくと無毒化できるんスけど、なぜ毒が抜けるのかは謎のままなんスよ?」
「いきなりなんの話だよっ!」
「まあまあ、いいじゃありませんか、勇者さん。無事お城が完成した、そういうことで。」
「ああ、まぁ、そうだな。でも、なんでこの場所にしたんだ? 建設地公募するとか言ってなかったか?」
「それは3代目魔王城からッスね。」
「何代目まで建てる気だよ?」
「そもそも2代目だって予定なかったッスよ! ようやくやってきた勇者が残念だったばっかりに、こんな憂き目に……」
「俺のせいかよ!」
「ああ、魔王さん、お気の毒に……」
「イッコマエさんまでっ! はいはい、色々とすんませんでした! 2代目魔王城完成おめでとうございます!」
「あざーっすっ! さて、新居に入ってみるッスか。」
「……目新しさ、ないんだけど。」
「外装も内装も間取りも、まったく一緒ッスからね。」
「では、私は今までと同じ部屋を使わせていただきます。」
「了解ッス。はい、部屋の鍵と、伝説の剣入れとく宝箱の鍵ッス。」
「はい、確かにお預かりしました。では、魔王さん、勇者さん、お先に失礼します。」
「おつかれっした~。」
自室に戻っていくイッコマエさんを見送っていると、勇者が首をかしげた。
「ん? あれ? 伝説の剣、また仕舞うのか?」
「当たり前ッスよ。次の勇者が来て、箱開けたらカラッポでした、じゃ困るっしょ。」
「えっ、そしたら俺、丸腰なんだけど。」
「自分で調達するッス。」
「マジかよぉ~。売らなきゃよかったぜ、呪いの剣……」
「……それは売って正解ッス。ま、武器のコトは置いといて。オレ様も今まで通り最上階の部屋使うッスけど、残念勇者は……地下牢と屋根裏、どっちがいいッスか?」
「2択っ!? 9階建てでアホほど部屋数あるのに、2択っ!?」
「寝袋があるから、外でもいいッスよ。」
「野宿ぅっ!!?」
朝6時 起床
魔王城の朝は早いッス。
起きて何かするコトがあるワケじゃないッスけど、早寝早起きは健全な征服生活の基本ッスよ。
さて、勇者は起きてるッスかね。
7階の部屋なら、どこ使ってもいいってコトで話着けたッスけど……
「あ、起きてた。早いッスね。あれ? なんか目の下、血色悪いッスよ。」
「……寝てねぇからな。」
「徹夜ッスか? ダメッスよ-、徹夜は。どうしたんスか?」
「どうしたんスか?じゃねぇよ! 1部屋目を覗いた瞬間思い出したわ。7階っつったら、攻略するのに1番苦戦した階だ、ってな!」
「へー、7階ってそうなんスかー。知らなかったッス。」
「把握しとけよっ! で、最後の部屋開けたら、これだよ、これ! 何だよ、この超汚部屋はっ!」
「汚部屋じゃないッス。そのうち使うかなーってものとか、必要ないけど、ゴミとして出すにはもったいないものとか、収集日に出し忘れたゴミを一時的に置いてあるだけで。で、そのゴミが袋からあふれちゃったりしてるだけで。」
「世界はそれを汚部屋と呼ぶんだぜーっ!」
「え、なんスか? サンボなんとか、ッスか?」
「サンボでもマンボでもどうでもいいわっ!」
「大袈裟ッスねー。床見えてる部屋は汚部屋とは言わないッスよ。」
「片づけたんだよ! 扉開けると同時にゴミ袋が降ってきたから、仕方なく片づけたんだよ、徹夜でなっ!」
「ああ、それで徹夜ッスか。おつかれッス。」
「ッッッダアァァァーっ!」
「おはようございます、魔王さん、勇者さん。朝から元気ですね。」
「おはようーッス、イッコマエさん。残念勇者が騒がしくてゴメンねー。」
「イッコマエさんっ! 何とか言ってやってくれよ! どう見ても汚部屋だろ、これ!」
「個性的なインテリアと捉えてみたらどうでしょう?」
「あ、白旗あげたッス。」
味方がいないと悟り、勇者はガックリと膝を折った。
「朝食ができてるので、どうぞ。」
「はーい。ほら、行くッスよ、潔癖勇者。」
「……魂抜けちゃってますね。」
「仕方ないッスねー。イッコマエさん、右手持って。」
二人で勇者を引き摺り、食堂へ。
「一日の中で、朝食は特に大事ッス。カロリー、栄養バランス共に完璧に考え尽くされたイッコマエさんのごはん、お残し禁止ッスよ。」
「どんだけ健康的な生活送ってんだよ? 本当に魔王か?」
「いつなんどき勇者が来てもいいように、常に万全の状態をキープできなければ、魔王失格ッス。」
「……結構大変なんだな、魔王って。」
「大変なんスよ、魔王って。では、いただきまー……あ、占い始まった。」
『今日の占い カウントダウ~ン 今日の1位は……乙女座のアナタ!』
「っしゃあ! 1位ッス!」
「お前、乙女座っ? 乙女座魔王っ!?」
「どんなジャンルッスか、それ。」
『新たな仲間と夢に向かってスタートを切るのに最適な日』
「2代目魔王城始動にうってつけですね。」
「地味ーに当たるんスよ、この占い。潔癖勇者は何座?って、興味ないか。」
自分の出生についてはサッパリ、って言ってたのを思い出し、ちょっと気まずさを感じる。
「牡羊座。」
「えっ?」
「生年月日くらいはわかってるし、あんま気ぃ遣わなくていいから、俺の昔のこと。」
昨日のような卑屈さを、その表情からは感じられない。
「へー、牡羊座ッスか。まだ出ないッスね。」
『今日の最下位は~残念! 牡羊座のアナタ』
「さっすが、残念勇者ッス!」
「残念言うなっ! だいたい占いなんてのは……」
『安易な選択で大変なコトに?』
「う、占いなんてのはな……」
『パートナーは慎重に選んでね。』
「……魔王に着いてきたのは、やっぱ間違いだった……か?」
『でも大丈夫 そんな牡羊座さんの運気回復フードは、せんべい! バリバリ食べて、悩みもバリバリふっとばそう!』
「あるッスよ、せんべい。」
「くれっ!」
「ほい、どうぞッス。」
「いただきますっ!」
ガギっ
「っっったぁーっ! 何だよ、この岩みたいなせんべいはっ!」
「魔王せんべいッス。何日か前におみやげとして持ってきてくれたヤツッスよ。」
「運気回復どころか、HP減るわっ!」
「やっぱ残念勇者ッスねー。魔王せんべいすら倒せないようじゃ、オレ様には一生勝てないッスよ?」
「ぐっ……やってやらぁ!」
簡単に挑発に乗り、激堅せんべいに果敢に挑む勇者を、イッコマエさんと観戦。
「残念、なんて言ってても、本当は認めているんでしょう? 彼のこと、勇者だって。」
「素質があるのは確かッスよね。じゃないと、伝説の剣に触れた時点で……」
「ですよね。」
「あ、すげー。半分いったッス。」
「凄いですね。我々、一口も食べられなかったのに。」
「なっ……お前らでも食えねぇ堅さってコトじゃねぇかっ!」
「オレ様、魔王ッスから、共食い(?)出来ないッス。」
「私、部下ですから、上司に盾突くなんてとてもとても。」
「半分いけたんだから、残りもいけるッスよ。」
「頑張ってください、残念勇者を卒業するチャンスです。」
「好き勝手言いやがって、魔族共めぇーっ! 見とけよっ! 人類の底力っ!」
前日のど派手バトルシーンと、徹夜明けの疲労の蓄積もあり、勇者は魔王せんべいにHP削られ、完食寸前で力尽きた。
最強ッスね、魔王せんべい。
※力尽きた勇者は、スタッフがちゃんと回復させました。