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世界征服、明日から  作者: にしじま
8/9

日曜日のその後

 「ただいまー、って、なんスか、これ……」

 移動魔法でカメラ前から速攻退散して部屋に戻ったオレ様は、その様子に自分の目を疑った。

 「お帰り-。軽く片付けといたから、あと細かいトコは自分でやれよー。」

 頭にバンダナを巻き、どこから見つけてきたのか、ハタキを手に、本棚をパタパタしながら勇者が言った。

 「もう充分綺麗ッスよ。あざーっす。マジ大助かりッス。勇者より、こういうコトのがむいてるんじゃないッスか?」

 ふざけんな、的な返しがくるかと思いきや、

 「……ああ、そうかもな。」

 自嘲気味な笑みでそう返され、戸惑った。

 「あれ? 後ろにいる人、さっきの……」

 「うん、リポーターさん。タイプだから連れてきたッス。」

 「おいおい、誘拐はヤバいだろ。」

 「まあまあ。紹介しまーす。度胸座りまくりのリポーターさん……の姿形声仕草を完全コピーで変身した……」

 「えーっ! イッコマエ・ノ・チューボスぅ!?」

 「そ。オレ様にインタビューしてたの、イッコマエさんだったんスよ。」

 「イッコマエさん、そんな能力あったのかよ。すっげぇ!」

 「……本気発言ッスか、それ。」

 「えっ? なんかヘンなコト言ったか? 俺。」

 「イッコマエさんとの戦闘、思い出してもみるッス。」

 「えっと……自分が魔王だ、ってバトル始まって、倒してみたら別人だった……って、ああっ、アレ! あの能力か!」

 「……ホント、残念勇者ッスね。」

 「悪かったな、残念な勇者で!」

 あ、今度は反発してきた。

 「ホンモノのリポーターさんはちゃんと向こうにいるッス。あ、イッコマエさん、代役、おつかれっしたー。」

 「魔王さんも初のテレビ出演、お疲れさまでした。」

 「超緊張したッスよ~、カメラの前。思ってたことの半分も言えなかったッス。」

 「どこが超緊張だよ。めっちゃノリノリでしゃべり倒してたじゃねぇか!」

 「え、そう見えたッスか?」

 「バッチリカメラ目線で、なぁ、イッコマエさん。」

 「そうですね、いつも通りの魔王さんでしたね。」

 「マジッスか?」

 「マジッス、です。それでは、そろそろ夕食の準備に行きます。」

 「飯、イッコマエさんが作るのかよ!?」

 「勇者さんの分も用意しますね。」

 「ゴチになります!」

 馴染みのある勇者の様子に、なぜかホッとしているオレ様がいた。

 


 「しっかし、驚いたぜ。急に呼び出されて、何かと思ったら、派手な戦闘シーンで死ね、って。」

 「迫真の演技だったッスよ。」

 「わりと本気だったっての。しばらく動けなかったんだぞ、あの後。」

 「えっ、オレ様1割の力も出してなかったッスよ。」

 「えーっ、マジかよぉ~。」

 バンダナを外し、髪をくしゃくしゃっとしてため息をつく勇者。

 「バトって死ね、もビックリだけど、何よりも驚きなのは、お前の世界征服計画な。魔王城を観光スポットにして、村起こし町起こし、豊かで明るい世界を!……って、これ、征服っつーか、救済じゃね?」

 「そうかもだけど、イヤなんスよね、オレ様。暴力で制圧、とか、恐怖で支配、とか、そういう陰湿なの。そんな世界を手に入れても楽しくないなぁって。ダメッスかね?」

 「いや、ダメじゃねぇけど、ホントに魔王か? お前。」

 「らしくない魔王でゴメンねー、残念勇者さん。」

 ついさっき誰かに向けたようなセリフを吐いて、その時と同じくニヤリとしてみせる。

 「あー、それそれ! 笑ってるけど笑ってないその悪そうな目! やっぱ魔王だわ、お前。」

 「先祖代々魔王の家系ッスからね。」

 少しの沈黙のあと、勇者がポツリとつぶやいた。

 「……なんか、いいな、そういうの。自分が何者なのか、ってのがはっきりしてる感じ。」

 「えっ?」

 「俺さ、親の顔知らねぇんだ。物心着く前に亡くなったって聞いてんだけど、詳しいことは全然。」

 「…………」

 「教会で面倒みてもらってて、10才の時里親に引き取られたんだけど、里子というか、労働力、奴隷扱いみたいな? 朝から晩まで、休みの日なんてもちろん無しで、打っ倒れるまで、いや、打っ倒れても働かされた。おかげで、掃除洗濯重労働、すっかり得意になったけどな。」

 この顔。

 さっきの自嘲気味な笑みと一緒……

 そうか。

 あの時、昔のことを思い出させちゃったんスね……

 「……ごめんッス。」

 「ん? なにが?」

 「なんでもないッス。」

 「……ま、いっか。で、5、6年くらい前、16才の頃、世の中がなんか騒がしくなって。魔王が降臨しただの、魔王城が降ってきただの、凶悪なモンスターが世界中で暴れてるだの、って。」

 「その降臨した魔王っていうの、オレ様のコトッスね。」

 「あ、やっぱお前だったのか。その魔王降臨ってのが、何のために生きてんのか、自分は何者なのかわかんねぇ、モヤモヤした毎日に絶望してた俺には物凄い希望に思えた。魔王打っ倒してくる、っつって、すぐさま飛び出した。で、現在に至る……って、何気にお前の救済的世界征服って、当初からだったんだな。」

 「?」

 「お前の登場がなかったら、俺、今もあの家で、死んでるみたいに生きてたか、この世から消えてたか、ろくなコトなかっただろうからさ。知らないうちに、世界征服計画に救われてた。」

 「感謝してくれていいッスよ。『魔王様、あざーっすっ! マジ感謝!』って。」

 「調子に乗んな!」

 あーあ、と特大のため息をつきながら、勇者はゴロンと床に寝転んだ。

 「打っ倒しにきた魔王はバカみてぇに強いし、いいヤツなんだか悪いヤツなんだかわかんねぇから倒し辛いし、どーすっかなぁ、これから。」

 「一緒に来るッスか? 『ニコマエ・ノ・チューボス』として。」

 「だぁれが、魔王の手下になんかなるかよ!」

 差し出した手を、バシッと払われる。

 「でも、新天地で、お眼鏡にかなう勇者が来なかった時のためになら、着いていってやってもいいぜ。」

 勇者のほうから手を差し出される。

 「派手な戦闘シーンを演じる、勇者役俳優として。」

 その手をグッと掴んで、引っ張り起こす。

 「よろしくッス!」

 「おう。」

 「魔王さーん、勇者さーん、ごはんですよー。」

 「はーい。ほら、行くッスよ、残念勇者。」

 「いい加減その呼び名、やめろよ。」

 「おっと失礼。行くッスよ、残念。」

 「後半部分略すなっ!」

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