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世界征服、明日から  作者: にしじま
7/9

日曜日

 「大型連休最終日の今日はこちら、今話題の魔王城前にやってきましたー。ご覧下さい、この大勢の人、人、人。」

 「あらーっ、お姉ちゃんべっぴんさんねー! これ、どうどう、これ。魔王城まんじゅう!」

 「なんだかとっても元気なお母さんに声をかけられましたよ。こんにちは-。え、何ですか? 魔王城まんじゅう? 見て下さい、ほら、おまんじゅうにお城の焼き印が捺してあるんですよ、ほらー。」

 「一番人気のおみやげなのよぉ。あとね、これも人気。」

 「魔王せんべいに、こちら、何ですか? STP48クッキーって?」

 「下っ端よぉ、し(S)たっ(T)ぱ(P)! そこいらにいる、かわいい感じのモンスターをイラストにしてね、プリントしたの。48種類あるけど、なかなか揃わないって、何度も買いに来てくれる人も結構いるのよぉ。」

 「商売上手ですねー、お母さん。こんな感じで、露店とかお土産屋さんもたくさんあって、キャッ!」

 突如響く爆音。

 テレビカメラがいち早く爆音の原因を映し出す。

 「今、何かが爆発したような音がしました。魔王城の上のほう、煙が上がっています。」

 冷静に実況を続ける女性リポーター。

 「みなさーん、お城から離れてくださーい! こちらに集まってくださーい!」

 冷静に客を誘導する添乗員。

 「爆発音が聞こえた辺りなんですが、壁に大きな穴が空いています。中の様子なんですが、カメラで捉えられるでしょうか。人影が……魔王? 魔王ですか、あれ!」

 「魔王だって!」

 「えっ、ホンモノ?」

 「『速報 魔王城、なう。爆発で穴あいた。』」

 「もう一人いるようです。あれは……」

 「勇者じゃない? 最近、あんな格好の青年を見かけたわ。」

 「えー、目撃者の情報によりますと、魔王と対峙しているのは勇者ではないか、とのことです。」

 「なになに? 勇者と魔王、バトってんの?」

 「写真写真!」

 「動画だろ、動画!」

 「『特報 勇者と魔王のバトル ライブ配信!!』」

 「えー、大型連休最終日、大変な事が起こりました。魔王城で、魔王と勇者のバトルが始まったようです。あっ、勇者が剣を大きく振りかぶり、魔王に斬りかかりました! 魔王、剣で勇者の攻撃を防ぎ、ああっ! 勇者が飛ばされましたっ!」

 城周辺にいる人々からどよめきが起こる。

 「勇者、圧されてる?」

 「このまま魔王が勝ったらどうなるの?」

 「魔王が支配する世界になるんじゃね?」

 「え、それヤバくない?」

 剣を支えにするようして立ち上がる勇者。

 肩を大きく上下させ、かなり消耗した様子だが、剣を構え直し、魔王をキッとにらみつける。

 対する魔王は、


 「勇者、なんとか立ち上がったようです。魔王のほうは……左手の辺りに光が集まって来ているような状態、何かしらの攻撃呪文でしょうか、どんどん光が強くなっていきます!」

 「ここにいて大丈夫かな?」

 「離れた方が良くない?」

 「ツアー参加者のみなさーん、バスに戻ってくださーい!」

 「あっ、勇者が魔王に向かって駆け出しました! 床を蹴り、大きく跳躍! 魔王も左手を勇者に向けました、凄まじい光です! キャーッ!!」



 城全体が光に覆われ、辺りが真っ白になる。

 初めのものとは比べ物にならないほどの爆音が轟き、城はおろか、町全体を揺らす。

 突然の出来事に、人々は逃げることも出来ず、頭を庇うようにしてその場にうずくまる。

 少し顔を上げると、リポーターが倒れているのが見えた。

 実況に集中していたため、防御する間もなく、衝撃をもろに受けたのだろう。

 「大丈夫ですか?」

 脈も呼吸もある。

 目に見える大きな怪我もないようだし、気を失っているだけのようだ。

 私は揺れが小さくなるとすぐ、カメラを手に立ち上がり、魔王城にレンズを向けた。

 さらに壁が崩れ、見通しが良くなった魔王城。

 だが、先ほどまでの二人の姿がない。

 「どこに行ったんだ?」

 「オレ様ならここッスよ。」

 「うわぁっ!?」

 目の前に突如現れたその顔に、カメラを構えたまま、尻もちをつく。

 「大丈夫ッスか?」

 差し出された手に助け起こされたが、コイツって……

 「あ……あなた、もしかして……」

 いつの間にか復活したリポーターも気付いたらしい。

 そう、この男は……

 「ども、オレ様、魔王ッス。」

 屈託のない笑顔が逆に怖い。

 「きょ、許可も取らずに撮影してしまってすみませんっ! あ、あの、今からでもカメラとめま……」

 「全然OKッスよ、撮ってくれて。ああ、一般の方もどーぞ。写真も動画もSNSにバンバン上げちゃっていいッスよ。」

 「あ、ありがとうございます。厚かましいお願いですけど、ちょっとお話お伺いしても……」

 おいおい、そりゃ無理だろう、リポーター!

 「いいッスよ。」

 軽っ!

 本当に魔王か? コイツ。

 と、思った瞬間、

 『チャラい魔王でゴメンねー、カメラさん。』

 「!!」

 な、なんだ?

 脳に直接声が届いてきたような……

 カメラ越しではなく直接見ると、男はニヤリと笑った。

 だが、その目はとてつもなく冷たい。

 慌ててカメラを構え直すが、不覚にも手が震える。

 そんな見えないやりとりを知るよしもない、度胸の座ったリポーターは、マイクを手に、魔王の横で笑顔を見せる。

 「大型連休最大のサプライズ、今話題の魔王様ご本人が、なんと、カメラの前に来て下さいましたよー! どうも、初めまして-。」

 ……本っ当ーに度胸座ってんなぁ、コイツ。

 「どーもー。あ、『様』なんてガラじゃないんで、呼び捨てでいいッスよ。なんかすんません、城見に来てくれたのに、騒がしくしちゃってて。」

 「急にお城に穴が空いちゃってビックリしたんですけれど、なにがあったんですか?」

 「なんか、勇者だとかいうヤツがケンカ売ってきて、オレ様的にもビックリッスよー。」

 「私達も外から、勇者さんと戦ってるのかなぁ、って見てたんですが、やはりそうだったんですね。で、今ここに魔王さんがいらっしゃるということは?」

 「きっちり始末させていただきましたーっ!」

 「さすが魔王さん、強いですねー!」

 「あざーっす!」

 おいおい、軽いやりとりを繰り広げてくれちゃってるけど、とんでもない発言てんこ盛りだぞ!

 「勇者さんとのバトルに勝利したということは、明日からこの世界は魔王さんの物、ってことですか?」

 「そうッスねぇ、明日、いや……」

 リポーター寄りだった視線をまっすぐカメラに向け、魔王は言った。

 「今、この瞬間から、オレ様のモンっしょ。」

 笑顔だが、目は、笑ってない。

 その変化を感じ取ったのか、和やかだった周辺の空気が瞬時に凍りつく。

 「って、思ったんスけど、あっけなく勝負ついちゃって、不完全燃焼なんスよねー。つーワケで、引き続き、勇者募集ッス。」

 「……えっ?」

 魔王のあっけらかんとした物言いに、張り詰めた空気がフッと緩む。

 「オレ様が納得のいく闘いができるまでは、世界は今まで通りみなさんのモノ、ひとまずみなさんに預けとくッス。」

 リポーターから再びカメラに向き直る魔王。

 「今回の勇者は一人で乗り込んで来たけど、何人で来ても構わないッスよ。でも、100人とかはさすがに無理ッス。オレ様の部屋、それほど広くないんで。どっかの空き地でならありッスけど。つーワケで、我こそは!ってヒト、どんどん来ちゃってくださーい。オレ様、城で待ってるんで。」

 勇者募集の告知をする魔王の笑顔は無邪気そのもので、先ほど一瞬見せた冷たさは一切感じさせない。

 どちらが本当の貌なのか。

 「あ、そうそう。オレ様、この城を卒業するッス。」

 「えっ? どういうことですか?」

 「ここに城を構えて結構経つけど、なっかなか来ないんスよねー、勇者。オレ様のトコまで辿り着いたの、さっきの人がお初ッスよ? しかも、劇弱ッスよ? だから、もっと手応えのある勇者を探しに、オレ様のほうから出向いちゃおうかなーって。」

 「お引っ越しってことですか?」

 「そうそう。まだどこに行くか決めてないんでー……これも募集しちゃっていいッスかね? 魔王城カモンっ!って市町村、都道府県、州、国、ご連絡くださーい! 場所さえ提供してもらえれば、城はこっち負担で建てるんで。じゃ、そろそろ戻りますね。部屋ん中、めっちゃくちゃだから、片付けないと。」

 「そうですね。長々とお付き合いいただいてありがとうございました-。以上、魔王城前から、魔王さんと一緒にお送りしましたー。」

 「引っ越してもこの城は残しておくんで、お好きに利用してくださーい。」

 

 

 中継が終わると同時に、魔王は姿を消した。

 なぜかリポーターも。

 背後からうめき声が聞こえ、振り返ると、さっきまで魔王と漫才さながらのトークを展開していたリポーターが倒れていた。

 わけがわからないながらも、リポーターに駆けより、抱き起こす。

 「大丈夫ですか?」

 「あ、はい、大丈夫です。……えっと、どうなりました? 勇者と魔王の対決。」

 本当にわけがわからない。

 私以上にわけがわからず不安げな顔のリポーターに、かける言葉を必死に探す。

 「圧倒的な力の差で、魔王の勝利です。」

 「えぇーっ!!!!」

 ……再び、気を失わせてしまいました。

 

   

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