金曜日
ドラゴンのデザインが施された荘厳な鍵が、それ以上に重厚で仰々しい宝箱に差し込まれる。
慎重に蓋を開け、思わず息をのむ。
「これが……伝説の剣……」
ズシリと手に伝わるのは、剣自体の重みか、歴代の勇者達の栄光か。
「すっげぇ! これに比べたら、今までの武器なんかみんなヒノキの棒と大差ないじゃん!」
「そのヒノキの棒と大差ない武器で挑もうしてたんスよ。」
「うん、マジごめん。いやぁ、これは持ってないと絶対勝てないわぁ。」
「ホントッスよ。鍵6ヶ月待ちって言われた時は、本気で世界滅ぼそうかと思ったッス。」
『……し、もしもーし?』
「……はいはい、聞こえてるッスよ。」
『あれ? もしかして怒ってる?』
「そうッスね。怒りなのか何なのかよくわからない感情がグルグルしてるのは確かッスね。」
『そっかぁ。なんかごめん。』
能天気な謝罪に気が抜ける。
「連絡取れる状態で、どっかで待機しててもらっていいッスか? 鍵のことはこっちでどうにかするんで。」
『マジで? お手数かけまーす。よろしく-。』
全っ然よろしくないッスよ、まったく……
鍵の落とし主、イッコマエ・ノ・チューボスの元へ行き、蘇生させる。
「あ、魔王さん。すみません、勇者にやられて……ん? 何で私、生きてるんでしょう?」
「あー、ゴメン。ちょっとワケあって復活させてもらったッス。実は伝説の剣が入ってる宝箱、あの鍵、勇者が交番に届けちゃって。」
「えーっ!? 何やらかしてんですか、あの残念勇者は!」
「規格外ッスよね。で、申し訳ないんスけど、交番まで行ってきてもらえるッスか? 落とし主でーす、って。」
「伝説の剣がなけりゃどうにもならないですからね。わかりました。行ってきます。」
「……で、鍵返してもらったから連絡入れたら圏外とか。おかげで、昨日達成するハズだった世界征服が、今日まで延期ッスよ。」
「しちゃえば良かったじゃん、世界征服。」
「いやいや、世界征服するからには、ベストコンディションの勇者を倒してからじゃないと。」
「そういうモンなのかぁ。じゃあさ、世界征服した後ってどうすんの?」
「……えっ?」
「えっ?じゃなくて。まあ、お前の予定通り、本日ただいま、俺を倒したとして、世界を手にいれました。はい、その後。」
考えもしなかった。
世界征服した後のことなんて。
「……まさかのノープラン?」
魔王の家系に生まれて、魔王になって、魔王なんだから何となく世界征服しなきゃいけないモンだと思っていた。
「おーい、聞いてるかー?」
オヤジやじいちゃんや、先祖代々の夢だし、って思ってて……
「……どうするんスかね、世界征服、その後。」
「知らねぇよ。」
「ッスよねぇ……」
「今日のところは一旦帰ろうか?」
「そうしてもらえるとありがたいッス。」