変わるべきか…変わらぬべきか…
「な、なぜあなたが?」
「最高神なき今、天界に法の執行者はいない。と言うことは?」
「なるほど」
法の執行者がいない今の天界では他界の罪人を裁くのは不可能となるので、他界のものはその界に送り返されたのちその界で裁かれるのだ。
「条例に基づき、ユーク・カインを魔界に連行する。他の者はじきに界の代表が来るだろう」
言い終わるのと同時に魔界へのゲートが開き、行ってしまった。残された3人は天界で始末されることは無いので一安心できた。
「代表って誰かな?」
「あいつ以外いないだろ」
カインが来ると思っていたが翌朝現れたのはルイだったカインはまだ魔界にいるため迎えに来ることはできなかった。そのため、第二聖民であるルイが代行してきたのだ。これでナナ、マリア、サラは帰還できるが、レンは違った。
「レン、もう少し待っててくれ」
「気にするな、そのうちカインが来るだろうさ」
レンとルイの握手が終わると同時に地上界へのゲートが開かれ、行ってしまった。
「さぁて、天界は誰が審判を下すのかな?」
今の天界には法の執行官どころか決定権のあるものは一人もいなかった。
一方で魔界では天界に報告を上げるため一様、尋問が行われていた。
「まぁ状況が状況なだけに疑われても無理はない」
「しかし反国家組織がやったのは事実、天界が納得するかどうかは別問題ですが…」
「まぁいい、お前は地上界へ帰還しろ。あとは私がなんとかする」
サタンが地上界に続くゲートを開きカインを送った。帰還を見届けると柄にもなく机に向かい天界へと送
る報告書を作り始めた。サタンが地上界を心配するのは訳があった。今地上界には戦えるものが少なすぎた。この機に攻めてこない者はいないだろう。しかし地上界にはもっと重大な秘密がある。それが今回の魔界戦を起こした原因となっている。
カインが地上界についたとき、地上界は反国家組織と交戦状態だった。マリアやサラは未だに天界から帰還していなかった。レンが間違えてゲートを開いてしまったためしばらく帰ってこれないとさっき連絡が来たのだ。
「なるほど、ミキトの言っていた忙しいとはこう言うことか」
大多数の聖民が不在の今、戦状は最悪であった。残っている聖民は内山、セイ、キッド、ツバサの4人だけで、そこにカインが加わったため5人になった。国保本部、城共にセイ、ツバサのバイオリン後援系魔法でなんとかダメージを防いでいるものの、ナナのように長くは持たない。
「火龍第43の構え、“ソードエンパイア”」
「水龍第3の構え、“水龍の滝」
内山とキッドも連携し反国家組織対応にあたっているが、さすがに二人だけでは限界がある。
「各自状況を報告しろ」
「大総統閣下⁉︎帰ってこられたのですね。状況報告、明け方国保本部より緊急避難信号の発令を確認、本部によると三番区域にて反国家組織クラックによる攻撃を確認したとのこと。敵数約2000」
「幹部の数は?」
「現在第3、第6にて反国家組織第6民6番隊隊長、カナリアと交戦中」
「セイ達はそのまま演奏を続けろ!ここにいる全兵士に告ぐ!これだけの数の反国家組織が来たということは何らかの意図があるに違いない。できる限りの反国家組織メンバーを捕らえよ!」
反国家組織との交戦は翌朝まで続いた、街に大きな損害はなかったものの、反国家組織幹部は捕らえることができなかった。それどころか反国家組織メンバーも半分くらいは捕り逃してしまったのだ。
「これはもう、国家安全保障連合だけでどうにかなる問題ではないのか…」
「でもどうにかするしかないんだろ?」
書斎にこもっていたカインに声をかけたのは反国家組織との交戦が終了した1時間後に帰ってきたルイだった。
「今まで捕らえられたはずの反国家組織が今は捕らえられなくなっている。それでいて聖民はほとんど何も変わっていない」
「だとしたら変わるしかないだろ」
「変わるのは聖民だけでなく、国家安全保障連合も変わるべきなんだろうな」
聖民が強くなるのはもちろんだがそれだけでは、何も変わらない気がしてならなかった。もっと組織的な何かが欠けている。そうカインは考えていた
「私と三代剣で決めいいものなのか?」
「大皇帝であり国家安全保障連合の代表はお前だ、お前以外に誰が決める?」
地上界の主な決定権はカインにある、だがその権限を乱用しては反国家組織に加担するものが増えるだけだ、しかし今まで続いてきた世の理を変えるのは簡単ではない。国家安全保障連合という組織が危うい今、それを公にしては何が起こるかわからない。間違った判断は世界に大きな影響を与えるだろうそのため慎重な判断が必要となる。しかし時間は待ってくれない、悩んでいるうちに反国家組織はさらに力をつけていくだろう。まだ若いカインには難しすぎる案件だった