新世界へ
「ミキト…なぜお前がここに?」
「ここまでやれなんて僕は言ったつもりないよ?」
アダムの攻撃を消し去ったのは反国家組織クラックのトップ、ミキトだった。アダムの慌てた様子から、
何らかのつながりがあることが分かる。
「はぁ、ここまでされては僕が国を手に入れた時に何も残ってないじゃないですか」
「お前が国を手にすることはない!」
「ありますよ、しかも意外と早くね」
ミキトとは時空を歪ませた。歪ませただけならまだしも、各界を強引にくっつけようとしているのだ。あたりの空気が圧迫されているのか、呼吸が苦しくなり始める。
「この出来事は私が神伝記に記載しておくよ。ワールドエンドとしてね」
ミキトの手には魔界、天界の両界の神伝記が握られていた。神伝記に書きこまれたことはたとえ事実でなくても、すべて事実として記録され起こってないことはその場で実現してしまう、厄介な本なのだ。
「私がいない間に魔界へ行ったか!?」
「いいや、こいつは魔界には行っていない、作ったのさ神伝記を」
「喋りすぎだよ。それに、そろそろ消えようか」
ミキトは時空を歪ませ、アダムの膝立ちをさせた。両腕を上げた状態のアダムは一切の身動きが出来ない状態になってしまった。この先に待っているのは誰がどう見ても最悪の結末だろう
「じゃあね、色々助かったよ」
ミキトは懐から一丁の銃を取り出すとアダムの心臓を狙って撃った。歪まされた時空はびくともせず、避けることすらできなかった。あたりに赤い飛沫が飛び散り、アダムの生命反応は消えた。
「貴様ァ!どこまで!」
「次はあんただよ、国家安全保障連合総司令、ユーク・カイン」
先程と同じように、時空を歪ませずにカインを膝立ちの状態にさせ、銃を構えた。ミキトが引き金に手をかけた。
「じゃあね、世界は僕がいただ…⁉︎」
ミキトは突然の出来事に倒れてしまった。先程から界が一つになろうと強い力で押し合っていた。その結果地上界には強い重力が働き、今にも潰れそうなのだ。あたりは大きく揺れ、立っているのすら困難を極めた。このままではミキトがどうこうという前に地上界は消えてなくなるだろう。
「まさか本当にこうなるとは…ははッ」
ミキトはオリジナルの移動魔法陣の入った瓶を懐から取り出し地面に叩きつけた。魔法陣は見事発動し、ミキトをその場から消した。
「マジかよ…どうすりゃいいだ」
カインたち四人は強い重力がのしかかり、一切動くことはできない。しかし、全て灰になった今この状態を打開できるのはカインたちしかいない。
「私たちしかいないなら、私たちがやるしかない!」
「でもどうやって!?身動きすらとれないんだぞ」
「勝手に殺すなよ、私たちを」
だれもいないはずなのに確かにナナの声が聞こえた。しかしあたりを見てもだれもいない、でも通信機からは確かに声が聞こえていた。
「全てを再構築しろ!因果再築」
ナナと思われる声の主が、術を発動したらしく、全体に赤い魔法陣が広がった。すると本来国保本部があった場所から生えるように塔が現れた。それだけに収まらず、城も家も全てが元に戻り始めていた。
「さて、これくらいで大丈夫かな、あとは...無重力化!」
世界にかかていた重力が解除されようやく身動きが取れるようになった。そして声のした方をふと振り向
くと、そこにはナナをはじめとする聖民がいた。
「レン…ナナ…マリア…」
「まだ泣くな」
「全てが終わったわけじゃない」
重力も解除され街も本部も戻ったが、世界の衝突は終わってはいなかった。そしてその衝突は今にも地上界を押しつぶそうとしていた。
「第40番楽章!世界分離!」
第9聖民のツバサが得意のバイオリンを使った術で世界の衝突による歪みを戻そうと奏でるが、あまり効果は見られなかった。
「第2番楽章!森羅万象」
内側からの反発では弱いと判断した第5聖民のセイはその側から二つの界を引っ張り、衝突そのものを終わらせようとした。
「二人の演奏が合わさっていく」
二人の演奏はユニゾンしていき新たな楽章となった。しかし二人は演奏に夢中で一切気づいていない様子だった。
「少し離れたな。神は作った世界は壊さないし戻さない、いつだって壊すのは人類だ。ならば!戻すのも人類にできる!“エンジェルウォール”」
ナナの術の発動により、衝突していた世界の間に優しい空気の層が発生した。その空気は二つの世界を包
み込むように広がっていた。
「たとえ元どうりにならなくても!何かが変わるなら!」
空気の層はどんどんかさなり、厚くなっていく。さらにユニゾンにより力を増したツバサ、セイ双方の術により、世界は元の姿に戻った。さっきまではっきりと見えていた天界と魔界の姿が見えなくなっているのがその証拠だ。これでやっと終わった。誰もがそう実感した。
「やっと、終わったな」
「いいや、始まりだよ、新世界のね」
カインとレンの後ろからは朝日が昇り始めた。これからいろいろなことが起きるかもしれない、でも世界は止まらない。それは、ついていくのに精一杯だったとしても例外ではないのだ。




