天界対戦〜ヘル〜part1
カインは走っていた。本部からの情報では国内にある小神殿から天界人が現れているということが判明したからだ。小神殿は天使や神を祀ってあるため天界にも通じていると言われていた。ただの昔話だと思っていたが今回の件で本当だと証明された。
「国保本部から大総統閣下へ。第2区にて第8聖民、マリアさんが偽り(クラウン)ヘルとの戦闘を開始しました」
「(負けるなよ、マリア)」
カインは入電に応えることなく走り続けた。
「やあやあ、君はあれかな?私のことを倒しに来た子かな?」
にたにたと笑みを浮かべマリアの前に立っているのは四聖剣の1人偽り(クラウン)のヘルだ。カインたちの調べによるとヘルは自身の嘘を本当に変えてしまう力を持っているらしい
「貴方が四聖剣ね、私はマリア、マリア・アイリアスよ」
「ほうほう、君はマリアちゃんて言うんだね」
薄気味悪い笑顔を浮かべて、話している姿を見る限りでは明らかに弱そうだが一様彼女も天界の権力者の1人だ。侮ることはできないだろう。
「さてさて、実は私は戦いは嫌いなものでねぇ、願わくば君に他の聖剣のところへ行って欲しいわけなのだよ」
「そんな嘘に誰が乗ると思っているの」
「本当に嘘かなぁ?実は本当だったりしないかなぁ?」
「嘘に決まっている」
「へへ、嘘を見破ってくれてありがとう。これで準備は整ったわけなのだよ」
マリアは嘘や偽りの類に本気になってしまう正確なのだ。本気になると肝心なことを忘れてしまう。この性格はヘルとの戦いではあだとなるだろう。
「しまった。嘘を嘘と認めてはいけないんだ」
「もう遅いわけなのだなぁ」
ヘルの周りには謎のオーラが集まっていた。そのオーラの影響かヘルの後ろは紫がかって見えた。
「嘘は虚空へと消え、真実を見抜く手段は消えた。全ては真実となる」
詠唱を終えたヘルの手には一冊の本が握られていた。
「神刀・百丸」
神刀・百丸は、神を殺したとされる者が使っていた最古の刀を復元したものだ。本当に神殺しの刀かどうかなどは誰も知らない。
「初めてみる刀だねぇ。強いのかな?強いのかな?」
「試してみましょうか」
マリアが一振りするとあたり一帯に衝撃波が走り多くの家屋が崩れ落ちた。ヘルももちろん飛ばされたが、甚大なものではなかった。
「面白い刀だねぇ、それ私にくれないかなぁ?」
「譲るわけないだでしょう?」
「そうだよねぇ、じゃあもう一本作っちゃうか」
ヘルはさっき召喚した本に何かをさらさらと書き、それを読み始めた。
「神刀・百丸虚空より現れ、世に二本となる」
ヘルが読み終えると上空に魔法陣が現れ、そこから百丸が落ちて来た。
「おぉ〜、これが百丸かぁ」
ヘルが一振りするとマリアの百丸と同じようにあたり一帯に衝撃波を放ち、家屋を崩した。
「これが、貴方の魔法なのね」
「そう!ヘルちゃんはこの本に嘘を書くことにより、それを本当にできちゃうのでぇす。」
正確に言うとヘルの魔力はこの世界の常識を覆しすべてを真実に変えることが出来る。しかしそれは嘘が嘘とバレた時だけで相手が嘘を見抜けなかった時点で水の泡となる。そこで活躍するのがこの宵闇の書だ。これに書かれたことは嘘であろうと全てが本当になる。たとえばこの本に相手が自滅すると書けば相手に確実な死を与えられる。しかし、天界の主、最高神はそんな簡単に命を奪うことを禁じた。だからこの本に直接相手の魂を奪う力はない。
「だったらその本を奪えばいい!」
マリアは百丸を抜き、ヘルのところへ向かって行った。激しく打ち合う音が響いている。ヘルの刀の使い方がうまく、なかなか当たらない。当てようとしても弾かれてしまいまるで遊ばれているようだった。
「その程度なのかなぁ?」
「まだまだッ!」
マリアはヘルの上を捉え上から切りつける態勢をとった。マリアの勝利がうっすらと見えたが、ヘルも甘くはなかった、マリアが上から来ることを見越して刀を頭より高く掲げた。このままでは刀がマリアを貫くのは避けられない。
「甘いなぁ。上からなんて、ふふっ」
刀の先に若干マリアの腹部が触れた時に誰かがマリアの腹部に障壁をつけてくれた。
「だから、隙を作るなって行ってるだろ」
和装魔法の使い手で第6聖民のキッドが防御障壁を張ってくれたおかげで多少のかすり傷で済んだ。
「私の物語に君は出てこないんだけどなぁ」
「だが、俺はここにいる。貴様の物語は終わりだ」
「ここで終われないのが私の物語なんだよねぇ」
ヘルが本に何かをさらさらと書いた。書き終わったと同時に魔法陣が展開され、ヘルの後ろに一本の刀が刺さった。
「まさか、これに本当のことを書くなんてねぇ」
ヘルが刀を地面から引き抜くとさっきまで持っていた本が音も立てずに灰になった。
「さぁて、最終章を始めようか」
ヘルが刀を抜くと最初に感じた嫌なオーラが刀に纏わりついていた。
「これはねぇハンガクって言うんだよ」
ハンガクは百丸と同じく神殺しの刀の一つで打ち合った刀の刃をボロボロにしてしまうの
だ。
「ハンガクならば刀を使わなければ良いだけだ」
マリアが鞘にしまおうとするが刀から手が離れなかった。なんども試みるがやはり離れない。
「マリア、それはハンガクの呪いだ。ハンガクは、百丸との戦いを望んでいる!」
「おぉ、君よくハンガクの気持ちがわかるね。じゃはハンガクが気持ちよく戦えるように君はおとなしくしていてね」
ヘルが指をキッドの方にはらうとハンガクに纏わりついていたオーラがキッドに纏わりついた。
「なっ…体が…」
キッドはその場に倒れてしまった。
「キッドさん!」
「私も構ってよぉ〜」
ヘルが攻め入って来たので相手をするしかなかった。一撃一撃が先ほどまでとは比べ物にならないくらい重かった。力を抜けば刀諸共へし折られそうなほどだ。
「(くッ…これまでなの?)」
あとがないマリアは気持ちにすら負けそうになっていた。