戦いは始まったばかり
カインたちが本陣営に帰ってきた時、制裁者の人材を総括している幹部が来ていた
「ニイナ・ナナさんについて聞きたいことがあります」
聞かれる内容はほぼ理解できていた。何故、制裁者でも、防衛本部のものでも無い人が、戦いに参加しているのか?だろう。だが、今は聞いている暇がなかった。
「今は、それどころでは無い。人民の安全確保が優先だ。話なら終戦後に聞く」
「それでは困ります。急を要することなのです」
何故、急ぐのか了解できなかった。参加している理由など後でも良いのでは?そう思ったが、その疑問はすぐに解決した。ナナが仕掛けた防護特殊巨大魔方陣が再起動を始めていたのだ。防護特殊巨大魔方陣の再起動には10年単位の時間がかかるため、何か特別なことがない限り発動しないのだ。そんな魔法陣が、解除されてすぐに再起動を開始していた。
「5分で済ませてくれ、それ以上は待てない」
「感謝します」
カインはナナを呼んだ。国保の人が2人きりがいいと言ってきたが了承しなかった。ナナを守るためでなく、カインの威厳を守るためだ。
「申し遅れましたが、わたくし制裁者人材係の神崎と申します」
聞き慣れない言葉だった。この周辺の国はほとんどがカタカナの名前だ。漢字を使うのは、極わずかな国だ。漢字名を使う国で制裁者に加盟しているのはシンの国しかなかった。しシンの国は各国主要街の防護特殊巨大魔方陣の管理をしている国だ。
「して、何の用だ?」
「あなたの展開した防護特殊巨大魔方陣の再起動を開始したのは何故ですか?防護特殊巨大魔方陣の再起動には10年単位の時間がかかるはずです。こんなに早く再起動するなんてありえません」
「再起動が速いことに害はなかろう?何が問題だ?」
「あなたの魔法は、この世界に大きな影響を与えます。秩序や法を壊しかねません」
確かにこれだけ再起動が速いとなれば他の国が黙ってはいないだろ。むしろその力を狙って戦乱を招くだろう。今の状態で新たな戦乱が起こるのは非常に良くない。
「法や秩序が乱れようと私からすればどうでも良い」
「制裁者が国を守る組織である以上それでは困ります。あなたは制裁者じゃないからいいかもしれませんが、こちらとしては、戦乱を招きかねないあなたの魔法は監視の対象です」
「神崎さん」
「なんでしょうか?今大事な話を…」
制裁者の開設者であるカインに挨拶もないと言うことは神崎はカインがどんな事物が知らないようだ。まだ入ったばかりなのだろう。
「制裁者をすべて管理している言わば世界の大総統。ユーク・カインと言います。先ほどから聞いていましたが、あなたはこちらのニイナ・ナナさんが誰の管轄下にいるかご存じないようですね?ニイナ・ナナさんはアルスタ王国、つまり私の管理下にいます」
「なっ…それは大変失礼いたしました。ですが、防護特殊巨大魔方陣の管理を行なっているものとしては捨て置けないことでして…」
「わかりました。こちらでなんとかいたしましょう。ですから今日はおかえりください。今は戦いの真っ最中ですので」
「わかりました。失礼いたします」
神崎が立ち去ろうとしたとき、カイン、ナナ、レンは何がこちらに向かってきているのに気づいた。それも、とてつもない速さでだ。
「防護結界を展開!解析班は発射地点を特定しろ!」
カインの指示で防護結界が展開された。そこに何かがぶつかってきた。10数まいあった防護結界の半分くらいは消し飛んだが、城への直撃は免れた。そこに解析班からの報告がきた。位置的に魔界軍の拠点があるとこだとわかった。
「何やら新たな兵器を投入したらしいな」
「魔界の最強兵器、ヘロイースだろうな」
「ヘロイース?なんだそれは?」
「魔界王のくせにそんなことも知らんのか?ヘロイースは魔界の最強兵器だ。最大出力でさっきのが撃たれれば地上界は98%が消えるだろうな」
「そのヘロイースとやらに魔力がチャージされているようだぞ」
「じゃあ、チャージが終わる前に潰さないとね」
「任せろ、城は守ってやる」
「1人で行かせる気か?無理がありすぎる」
ナナが心配するのは無理もない。たった一発で世界の98%を破壊するほどの威力を持つ兵器に1人で向かうなど死にに行くようなものだ。カインの魔法はナナよりだいぶ下である。魔界の軍に魔界術が効くとは思えないし、ほぼ勝ち目はゼロだ。
「大丈夫だよ。ナナさん。じゃあ、行ってくるね」
カインは何も持たずにゆっくりと歩いて行った。その姿は狂気をまとった鬼に見えた。静かだが、確かにそこには何かがあるようだった。それが憎しみか、怒りかはわからない。
「カインなら大丈夫だろう。あいつは俺たちが思ってるほど弱くない」
「あぁ、そうだな」
カインは喜んでいた。今まで余裕でいたはずの魔界軍がついに本気になったのだ。今までない喜びだった。だが、じぶんが支配しようとしている地上界を壊されるのは許し難かった。だからカインは潰すと決心した。この喜びくれた軍を殺すのは勿体無いだから潰すのだ。
「敵の出現!敵数1。攻撃しま…」
通信はそこで途切れた。すぐにそこに仲間を向かわせたらしいが、そこに敵の姿はなかった。敵の姿も無かったがゼロの姿も無かった。代わりに通信機が落ちていた。
「やはり、来たか…」
「当たり前じゃないですか」
「途中で送った兵士はどうした?」
「気絶させて城に幽閉してあります。あなたもすぐに合流できますよ」
話しながらもカインは攻撃していた。前回使用していた破人鎌ではなく、今回はカインが最も得意とする刀系武器の白虎刀を使っていた。白虎刀は刀系武器の中でも中の上ぐらいの武器である。刀系武器の最上級は魔界の悪魔刀と天界の天使刀である。
「悪魔刀じゃないのかい?」
カインはサタンの挑発も無視をして切り続けた。だがどうしても当たらなかった。惜しいところまでは行
くがその先が進まなかった。“これがサタンの実力なのか?”そう思っていると
「結界が張ってあるな」
通信機からナナの声が聞こえてきた。何かに気づいたナナが解析をしてくれたようだ。
「解除は簡単か?」
「かなり難しい。強制系も使えない」
「そうか…分かったどうにかしよう」
「無理だろうな」
カインは武器をはなし両腕を肩幅に開いた。その間に魔力がたまっていく。
「フル・ディザイア!!!」
カインが胆略詠唱をするとその周辺の魔法が全て消えていくのが分かった。フル・ディザイアは術者を含んだ特定範囲の魔法全てを消す魔法だ。カインは普段魔武器と呼ばれる召喚武器を使っているが、今回の白虎刀は魔武器ではなく、所有武器のためフル・ディザイアの対象外だった。
「ほぅ、魔武器である悪魔刀を使わなかったのはこのことがわかってたからか?」
「いや、たまたまだ」
「フッ…運のいい男だな」
「あぁ、さてこれで終わりだ」
「結界が消えたくらいで負けはしないさ」
話しながらもカインは攻撃を続けたが一切当たらなかった。話をやめ攻撃に集中したがやはり当たらない。
「ナナさん、結界消えたよな?」
「あぁ間違えなく消えている」
サタンはカインが思っているほど簡単に倒せる相手ではないのだ。本来なら戦うどころか、目を合わせた時点でもう死んでいてもおかしくない相手だ。
「さぁて、私も本気で行こうかな…」
「ルイ!あれを転送してくれ」
「はいよ、“強制転移”」
カインのところに一本の薬らしきものが転送されてきた。




