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サタンとカイン

昨日の投稿予定だったものです

「そうだよ。ゼロくん」


 その言葉と同時にゼロの体は宙を舞っていた。何が起きたのか理解できなかったが、1つだけ分かることがあった。そう、それはほぼ100%死ぬということだ。この勢いで地上に落ちていけば無事では済まないが、今急に速度を落としてしまえばそのまま地面に突き刺さることになる。よって、待っている結末は死だ…


「開け、我が癒しの扉、“ハートフルワールド”」


 ゼロは回復魔法の展開に少し驚いたが、それがミコトのだとわかった途端に速度を落とし、そのまま回復魔法の中に飛び込んでいった。カインはハートフルワールドを消そうとしたが、自分の魔界術で吹っ飛ばしたために落ちる速度が速すぎて、強制中止(ファントムキャンセル)を発動できなかった


「チッ…それにしても君、生きてたんですね?すごいです」

「殴られたぐらいで死ぬわけないじゃない」


 カインは殴ったわけではない。最小の魔法陣を飛ばしただけだ。それが発動した途端に吹っ飛んで行ったのだ。そんな簡単に吹っ飛ぶ奴などたいしたことないと思ってが案外そうではないようだった。吹っ飛んだにもかかわらず服も何もかも傷一つ付いていなかったのだ。たいした回復者(ヒーラー)だと感心してしまうほどだった。回復魔法は上級魔法の次に難しいと言われる初級魔法の一つだ。初級魔法にもかかわらず会得できたものは全体の10%前後しかいないのだ。ナナも使えるがここまで完璧には治せないだろう。


「ミコトって言ったけ?お前だけは許さないよ。ルイをあんなにした罪は償ってもらわないとね」

「あれをやったの私じゃないわよ?」


 “は?なにを言ってるんだこいつは、お前以外に誰がいるんだよ⁉︎”と声に出してしまうところだった。落ち着いて考えれば確かにこいつにルイを倒すことはできないとわかった。こいつは回復系魔法は最強だが、体力も攻撃力も著しく低い、ブーストがあればナナを上回るが、ブーストがあったとしてもルイには指一本触れられないだろう。これではどんなに頑張ってもルイにダメージは与えられないのだ。


「じゃあ、誰がやったんだよ?」

「俺だよ、カイン」


 背中に一筋の汗が垂れていくのがわかった。後ろにいる者の声に怯えているのだ。頭では怯えてなくても、体は、心は確かに怯えていた。後ろにいる、“天上魔界王、ゼルク・サタン”に…


「なんで、じいちゃんがここにいるだよ?」


ハッキリ言ったつもりだったが声は震えていて、はりがなかった…


「孫が、地上界の国王になったと聞いて、駆けつけてきたのよ」


 この人がそんなことをするはずがない。魔界王のことですから無関心で、カインに何かあっても駆けつけたりしない人が、地上界の国王になったぐらいで来るはずがないのだ。


「本当はなにしにきたの?」

「孫に嘘は効かぬか。フッ…わしはな、前に失敗した事をやりに直しに来たのよ。そう、地上界の制圧をな」


 ふざけるな、今更なにを言っている。わざわざ魔界王を留守にして、公平なやり方で支配しようとしている最中なのに、この爺さんに攻められてはせっかくの計画が無駄になる。何としても止める必要があった。


「それは困るんだけどな〜」

「お前の都合など知らん。止めたければ力を持って止めればいいのよ」


 予想通りの答えだった。昔からカインの祖父は力の強い者を優先してきたのだ。まさに弱肉強食の考えだった。しかし今のカインにサタンを止める力はなかった。ナナさんやレンがいても、魔界のものには早々勝てるものではない。さらに相手は魔界の最深界、天上魔界の王だ。昔失敗したとはいえ昔と今では強さも数も倍以上になっている。まだ結成仕立てで半分はまだ魔法もうまく使えないものばかり誰だ。そんな中で戦うのは不可能だった。


「俺たちに勝ち目がないのを知ってて言っているのか?」

「無論その通りだ」


 魔界の者はやる事がえげつないと思った。サタンが行おうとしていることは力による支配、それはいつの時代も失敗がつきものだった。今回の支配も失敗するだろうがそのあとでカインが支配するのでは遅い。


「どんな手段を使っても勝てばいいってことですか?」

「その通り、勝てばいいんだ」

「じゃあ、俺が勝ったら天上魔界王になりますね」

「勝てたら、そうなるだろうな」


 神話に出てくるような人物に勝負を挑まれてそれに乗るような者は魔界に今までいなかったのだろう。カインには勝つ自信があったのだ。今までサタンの下で修行していたカインだからこそわかる、唯一の必勝法が。


 その頃ナナたちは国保の事務局の地下にいた。そこでルイの回復治療にあたっていたのだ。だが、治療は難航していた。ナナは回復系魔法が得意ではない、精一杯やってはいるがどうしても最終段階まで行きつけずにいた。このままでは、病院に着く前にはルイは死んでしまうであろう大怪我なため、ここで治療を止めるわけにはいかなかったが、これ以上はナナの魔力が持ちそうになかった。


「そんな簡単な回復魔法が使えないなんて、ナナさんも落ちたわね」

「攻撃魔法と防御魔法は得意なのだが回復系はどうもうまくなくてな」


 ミコトがなにをしにきたのかはわからないが、今はミコトの挑発に乗っている場合ではなかった。


「ちょっとどいて」

「何をする気だ?」

「静寂の中でゆっくり休め“エレメントヒール”」


 ミコトが唱えたのは回復魔法だった。ナナも同じ魔法を使っていたが、ミコトの方がはるかに上だった。致命傷だった傷が完全に治っていただけでなく、服も何もかも完璧に治っていたのだ。


「感謝する。だが、なぜ私たちを助けるのだ?」

「正直言うと私あの人たちの仲間じゃないし。雇われてただけだしね〜。それについさっき契約もきれたから」

「そうか、私はてっきり敵にまわったのかと思った」

「あはは、敵じゃないけど味方でもないよ」


 予想通りの答えだった。ナナはミコトの事を死んだと思いそのままにもしていたのだ。そんな師を許す弟子がいるはずないと思っていたからだ。


「早く病院に連れて行きなよ。私の術はただの応急処置だから」

「そうか、では急ぎ向かうとしよう」


 そのままナナとレンはルイを抱え病院へと向かった。ふと振り返った時ミコトはもういなかった。


一方カインとサタンはまだお互いににらみ合っていた。が、それもナナから報告が入ると同時に終わった。


「では、侵略の際は連絡をください」

「フッ…いいだろう。連絡してやる」


 意外な返事に少し驚いたがすぐに次の言葉を発した。


「では、今日は帰ってください」

「そうだなもう用はないからな、もう帰るさ」


 サタンの足元に赤い魔法陣が展開され、そのままサタンとゼロは消えていった。カインは最初に発動された魔法陣がサタンの魔法陣だとここで気づいたのだった。

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