魔女の涙
あの夜以降二人の距離は一気に縮まった
ほとんど毎日会って話しをしたり幸与が人助けするのを手伝ったり都会に繰り出して遊んだり
賢人はこの町に越してきて初めて充実した日々を過ごせてると感じ、そして3ヶ月の時が流れた
この日も幸与と賢人は二人で人助けをして、日も暮れてきたのでそれぞれ帰宅した。
幸与は祖母から大事な話しがあると居間で呼び止められた。
もしかして賢人との事がバレたのではと心臓の鼓動が速くなる。
「ユキ、いいかい。心して聞くんだよ?」
「う、うん。」
「どうやら今日、日本のいくつかの場所で災いが訪れる前兆が観測された。この付近も含まれてる」
「え?」
「近いうちに災いがやってくる。戦闘に備えて魔物に有効な魔法の特訓をする。いいかい?覚悟をしておくんだよ。」
いつかは訪れると昔から聞かされていたし覚悟はしてたつもりだったがいざやって来るとなると怖くてたまらなかった。逃げ出したいという気持ちで胸がいっぱいになった。
幸与は恐怖で肩を震わせながら黙って頷いた。
そんな幸与の脳裏にふと賢人の顔が浮かんだ
自分がしっかりしないとこの町が、賢人が大変な目に合ってしまう。
しっかりしなきゃと幸与は自分の頬を両手で叩き気合を入れた。
「おばあちゃん!私頑張る!」
「おぉ!随分やる気だねぇ」
さっそくその日祖母から対魔物用の魔法の指南を受けた
勿論明日以降も続くので町に降りて人助けをしたり賢人と会う時間は今までより減らさなくてはならなかった。
翌日、幸与はすこし休憩がしたいと祖母に伝えて山を降り、賢人の元へ向かった。
下校中の賢人は正面から歩いてくる幸与を見つけると、幸与の方へ走り寄った。
「おーい幸与さん!」
「あ...賢ちゃん...おかえり...」
いつもは笑顔で迎えてくれる幸与が今日は浮かない表情だった。
「あれ?どうかしたの?」
「うん...」
今日は賢人にちゃんとこれからのことを伝えるために来たはずだった
なのにいざとなると言葉が出てこない。
情けなくて瞳に涙が浮かぶ
「えぇ!?幸与さん?どうしたの?」
こんな辛そうな幸与は初めて見た
きっと何かあるに違いない
賢人は幸与と共に近くの公園に入り二人でベンチに腰掛けた
「あのね...大事な話しがあるの...」
「うん...」
幸与は瞳を閉じて大きく深呼吸をし、心を落ち着かせると話しを続けた。
「前に災いが襲ってくるかもしれない。それを阻止するのが私達の役目って話したじゃない?」
「うん...」
「もうすぐ来るんだって...この町に...」
賢人は驚いて何も言葉が出なかった。
「この町だけじゃないんだけどね。日本のいくつかの場所で前兆が観測されたって...だからね。災いがやってきたら私戦わなきゃいけないの。でも戦いなんてしたことないしやっぱり怖いよ...もしかしたら死んじゃうかもしれない...」
幸与の瞳から涙が溢れ出した。
賢人とこの町を守るために自分が戦わなければいけないと覚悟を決めたハズなのに、いざ賢人に会って、その事を伝えようとすると、恐怖と不安が溢れ出してきた。
「怖いよ...私...どうしたら...」
泣き続ける幸与に賢人はどんな言葉をかければ良いかわからなかった
無責任に頑張れなんて言えるわけもなく
泣きじゃくる幸与の横で何も言わずうつむいた
ここ数ヶ月の間、帰りに香田からちょっかいを出された時には必ず幸与が助けてくれた
それだけじゃない。夜景を見に連れていって貰ったことも
幸与には何度も何度も助けられている。今度は何とかして自分が助けないと
賢人は考えた。考えて考えて
そして一つ思いついた。
「あのさ...幸与さん...」
賢人は真っ直ぐに幸与の目を見つめながら言葉を続けた。
「俺、明日香田にやり返すよ。」
それが賢人の出した答えだった
「え?なんで?」
「幸与さんに勇気出して欲しいから。だから俺が香田と喧嘩する所見届けてほしい。」
「そんな...賢ちゃん...」
「大丈夫、幸与さんの方がもっと怖い奴と戦うんだから。それに比べたら香田なんてちっぽけだよ。それに幸与さんずっと言ってたじゃん、やり返そうよって」
賢人は膝の上で握りこぶしを強く握った。
「だから俺が香田に勝ったら...幸与さんも頑張って災いに勝ってほしい!勇気を出して戦ってほしい!」
賢人の思いを聞いて幸与は更に涙が溢れた。
泣いて泣いて泣いて、日が暮れるまで泣いた




