夜空で
約束の時間、賢人が集合場所に行くと既に幸与が待っていた
しまった、待たせてしまった。こういうのは男が先に着いておくべきだったか
いやいや、ただ友達と待ち合わせしてるだけなんだから気にすることじゃないよな
いや、でも年上を待たせてしまったのは失礼だよな
と、一人考え込む賢人の心中を察してか幸与が声をかける
「いやぁちょうど私も今来たばっかりでさ、タイミングバッチリだったね。」
恐らく気を使われてしまった事を察した賢人は次からはもう少し早めに着くように心掛けることを胸の内で誓った
「で、見せたいものってなに?」
「うん、まぁいいからこれに乗って」
と幸与が自販機の陰から箒を取り出す
「え?これってまさか」
「そう!ちょっと空を飛んでみない?」
と、幸与が箒にまたがる。
いきなり空を飛ぶといわれ困惑しつつも、本当に箒で空を飛ぶなんて本や映画の表現は間違ってなかったんだなと感心しながら賢人も後ろにまたがった
「人目についたらマズイから空まで一気に上昇するよ!しっかりつかまっててね?」
「え、ちょっと待って」
慌てて幸与の腰にしがみつこうとしたがなんだか恥ずかしさが込み上げてきて結局少し幸与との間を空けて箒の柄をしっかり握った
「いくよ!」
と声をかけると同時に一瞬で空高く飛び上がり、あまりのスピードに恐怖を感じる間も無かった
「ほら、見て!」
幸与が前方を指差しながら振り向く
その指の先には遠くの都会の街明かりが見えた
「すごい...」
「もうちょっと近付こっか」
そのまま真っ直ぐ街の方へ向かい、だんだん街の景色がハッキリと見えてきた
「なんか、ホントにすごい...」
飛行機に乗った経験が無い賢人は空の上から夜景を見下ろすのは初めてで素直に感動をしていた。
まさか初めて空から街を見下ろすのが箒にまたがりながらになるなんて想像してもみなかったが。
「もしかして見せたいものってこれのこと?」
「そう。」
幸与が微笑む
「なんかこの広い光の海を見てると自分なんてちっぽけに思えるよね。色んな人間の生活があって、この明かり一つ一つが点灯してる。その中には幸せな人もいるし辛い人もいるんだろうね。」
いつになく真剣な声色の幸与の言葉を賢人はただ黙って聞き続けた
「ほら、あそこのビル。多分会社なんだろうけど明かりがついてる所とついてない所がある。あの明かりがついてる階の人はしんどい思いをして残業してるんだろうし逆に明かりのついてない階の人は帰ってのんびりしてるのかなぁ。本当に色々な人がいてそれぞれ色々な人生を送ってるんだよね。」
幸与の言葉に耳を傾けながら賢人はじっと夜景を見つめる
「もしかして俺を元気付けようとしてくれてるの?」
賢人は今日こうして幸与に連れ出された意味を何となく理解した
「まぁね。こうして今見下ろしている街に暮らしている大勢の人間みんなそれぞれ何かしら悩みを抱えてるだろうし、もしかしたら賢ちゃんよりずっとしんどい思いをしてる人もいるかもしれないね。」
「まぁそりゃあ...」
「だからさ、賢ちゃんの悩んでる事なんてこの広い光の海に比べたら案外ちっぽけな物なのかもね。」
「うーん、まぁ完全に納得は出来ないけど...ただこの景色は凄く綺麗だ。なんか今は嫌な事とか全部忘れられそうなくらい」
「そっか...」
そうして二人は時折言葉を交わしながら1時間ほど夜景を眺め続けた




