賢人の決戦
今日は待ちに待った終業式の日、そして決戦の日
いつもより軽い鞄をさげて家を出る
少し先を曲がった所に幸与がいた
「おはよう、賢ちゃん」
「おはよう幸与さん。あ、そうだ今日は終業式で学校終わるのいつもより早いから間違えないでね」
「了解」
幸与は唐突に賢人の右手を両手で包み込んだ
「賢ちゃんが頑張れるようにおまじないをかけてあげるね」
幸与は目を閉じて静かに賢人の手を包み続ける
「えぇ!?魔法に頼るつもりは無かったんだけどなぁ」
賢人は包み込まれた手に視線を落としたが照れくさくてすぐに視線を外し左手で頭をかいた
「はい、これで大丈夫。いってらっしゃい!」
「うん、ありがとう。いってきます」
長い長い校長の話が終わった後教室に戻り成績表、夏休みの課題、その他プリントが配られそして下校の時間になった。
いよいよ夏休みが始まると皆浮足立ち香田も取り巻き達とこの後の予定を話し合っていた
賢人は香田に声をかける
「なぁ、この後ちょっと一緒に来てよ」
「あぁ!?」
香田は賢人を睨みつけた。賢人は足が震え言葉に詰まったがなんとか捻り出す
「俺とタイマンしろ!香田!」
一瞬の静寂のあと香田達が一斉に吹き出す
「お前マジでいってんのか!?」
「マジだよ!」
大きく溜め息をついた香田はやれやれという感じで答える
「わかったわかった、おいお前ら、すぐ終わらせるから先帰ってていいぞ。また連絡するわ」
香田は取り巻きを先に帰らせて、賢人と近くの川の土手へ向かった
「はい、じゃあどっからでもどうぞ」
賢人を馬鹿にするように両手を広げて誘う香田
攻撃の届く範囲まで近づき賢人は握りこぶしを振り上げ顔を目掛けてパンチを繰り出そうとした
しかし賢人に一瞬迷いが生まれた
顔を殴ることを躊躇したのだ
結局そのまま顔ではなく腹を目掛けて拳を繰り出したがあっさり防がれる
二人の体格はほぼ同じ。互角の勝負になってもおかしくないはずなのだが賢人と香田の間には喧嘩の経験、度胸の差があった
香田のローキックをモロに受け体制を崩したところを追撃されて倒れ込む
「オラオラどうした!挑んできたくせにこんなもんか!?」
賢人は起き上がりパンチを繰り返した
香田は避ける事も防ぐこともせず賢人の拳を腹で受けた
「全然いたくねぇな!お前喧嘩したことねぇだろ!?」
再びローキックを受け賢人がよろめく
(幸与さんも何処かで見てる、負けるわけには...)
その後も賢人の攻撃は軽くあしらわれ、香田の重い一撃を何度も受けるがそれでも香田へ向かっていく
我武者羅だった、手を振り回し突っ込んでいくのを繰り返すだけ
まるで小さな子供の喧嘩のようだった
ただヤケクソに不格好な攻撃を繰り返す
普段の自分ならとっくに力尽きているハズだが、今の自分には今朝かけてもらったおまじないの力がある、自分は一人で戦っている訳ではないんだと歯を食いしばって何度も香田へ立ち向かった。
さすがの香田も疲弊してきた様子だった。
「クッソ!何なんだよ!もういいだろ!お前じゃ勝てねぇよ!俺だっていつまでも時間使ってられねぇんだ!さっさとあきらめろ!」
「ハァ...ハァ...じゃあ...もう二度と俺に嫌がらせしないと誓え!」
「はぁ!?」
「もう二度としないと言うまでつづけるからな!」
「あーもうわかったよ!もうしねぇよ!何なんだよお前、気持ち悪いな!」
「それで...いいんだ」
賢人は力尽きて倒れ込んだ。それを見た香田は自分の鞄を回収し去ってゆく
「賢ちゃん!」
どこからか幸与が駆け寄ってくる
「ゆ...幸与さん...勝てはしなかったけど...負けなかったよ...まぁカッコ悪い姿見せちゃったけど...」
幸与は座り込み賢人の頭を自分の膝の上に乗せた
「ううん!賢ちゃんは勝ったんだよ!カッコ悪くなんてなかった!」
「そうかな...」
幸与の頬を伝う涙が賢人の顔に落ちる
「すごかったよ...私たくさん勇気もらっちゃった...」
「ハハっ...ならよかった...まぁ幸与さんが朝魔法かけてくれたおかげなんだけどね...」
「ううん、あれは魔法なんかじゃないよ。ほんとにただのおまじないだよ。けんちゃんが勝てますようにって祈っただけだよ」
「ホントに?...そうか...そうだったんだ...」
賢人は静かに瞳を閉じた
自分の力で勝ったんだという満足感に満たされ、気が付けばそのまま眠ってしまった




