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A chain of hit by pitch

 沈黙を破るかのようにして、リビングにある置き時計が正午を告げる鐘を鳴らした。


「とりあえず、彼の身体を床に下ろそう。このままにしておく訳にもいくまい」


 その場にいた全員が、その金本の言葉を黙って受け入れた。


 俺は田島と共に野口の遺体を床へと下ろし、やっとの思いで嶋の部屋まで運び込んだ。


 この島に来てからすでに二人の人間が殺されている。とてもではないが、皆ゆっくりと食事をする気分などではないようだった。


「も、もう嫌だ。こんなところ。このまま皆殺されるんだ」


 星が頭を抱えながら、一人でブツブツと呟いている。


「あの。私、部屋で休んできても良いですか? もうどうしたら良いのか」


 丸ノ内が亡霊のようにフラッと立ち上がってそう告げた。


「僕もその方が良いと思います。それに室戸さんも少し休まれたほうが良いですよ」


「はい、それではお言葉に甘えて」


 田島は丸ノ内に肩を貸しながら、室戸と共に部屋へと戻っていった。


「あ、ぼ、僕も部屋に戻ります」


 その三人の後を追い越すように、星が慌てて去っていく。



 そして、リビングには俺と金本の2人だけが残されていた。


「あの、金本さん。野口さんが昨日、あの手紙のメッセージを見た後にこう言っていたんです。『10年前の試合』って。何かご存知ではないですか」


 金本は少し考え込むような素振りを見せた後、何かを振り返るかように語り始めた。


「10年前の試合、か。おそらくは、聖蹟ライオンズと高幡ファルコンズの日本シリーズのことだろう。君も野球をしていたのなら、耳にしたことぐらいはあるはずだ」


 勿論、その試合のことは知っていた。


 当時、母親と一緒にテレビでその試合を観ていた記憶が未だに残っている。


「そういえば、あのときの最終回の高幡ファルコンズのピッチャーって確か」


「そう、野口君だった。そして、その当時の監督は嶋さんだ。だがしかし、あれは──不運な事故だ」


 金本の語気が先ほどよりも強まってきている。


「あのー、金本さん。藤川さんの荷物の中身、調べさせてもらっても良いですかね?」


 俺は金本の様子を伺うようにして、そう申し出た。


「ああ、感心はしないが事態が事態だ。何かこの事件の手がかりが見つかるかもしれん」


 金本と共に玄関へと向かい、藤川さんの荷物と思われるスーツケースを開けた。


 中身は着替えやカメラなど、別段変わったものは入ってないように見えたが、俺は一枚の写真を取り出して金本に手渡した。


「金本さん、これを!! これ見てください!」


 そこには、ユニフォーム姿の二人の野球選手の姿。そしてその二人を囲うようにして小さな子供達が写し出されていた。


「ほう。懐かしいな。これはかなり昔の写真じゃないかね。だが、この写真が一体どうしたというんだい」


 金本が不思議そうに首を傾げている。


「ここです、この部分を見てもらえませんか?」


 そう言って俺は、写真に写し出されていた一つのグローブを指差した。


「いやぁ、最近目が遠くてね。ふむ、これは誰かの名前の刺繍かな?」


「はい。この名前、どこかで見覚えがありませんか?」


 金本は少しの間、考えこんだ後、何かに気づいたかのように声をあげた。


「な、まさか。そんな偶然が」


「僕もまさかと目を疑いました。でもこの写真を見て確信しました。今回のこの一連の殺人事件は、きっと十年前のあの試合の復讐なのだと」


「馬鹿な。そんなことが」


 金本はその写真を見つめたまま、しばらくの間、ただその場で呆然と立ち尽くしていた。


「だ、だが一体どうやって」


「この写真のおかげで、ある程度の察しはつきました。続きは今晩、皆を集めてからお話します」


 もっと色々と詮索されるのではないか、と思っていたが、金本は目を見開いたまま、それ以上もう何も問いかけてくることはなかった。


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