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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

御風激闘伝3 淫ラナ契約

作者: 井村六郎

 要望があったので再び書きました!!今回は全編通してエロいです。鼻血注意!!

「はぁ……」


 片平真由美はため息を吐いた。お泊まり会で、真由美はいつも御風に、いいようにやられてしまっている。


(私だって、御風を気持ち良くしてあげたいのに……)


 だが、女性を感じさせるテクニックなら、御風の方が遥かに上だ。なぜなら、男へのトラウマが原因で女性しか愛せなくなってしまった御風は、その分女性の愛し方というものを、深いところまで徹底的に学んだからである。最近突然内なる百合が咲いた真由美とは違い、御風はずっと昔に百合を咲かせ、以来欠かさず育ててきているのだ。


(でも、やっぱり御風を気持ち良くさせたい。だって私、御風が好きなんだもん)


 真由美の同性愛は、どちらかというと御風に対して限定されていると言える。前に他の同性にもレズ行為をしたことがあるが、真由美が本当に愛している相手は御風だけだ。だから、御風がどれだけ自分より上手であろうと、真由美が御風に快楽を与えたいという想いは変わらない。


「どうすればいいのかな……」


 自室のベッドに寝転んで、真由美は呟いた。

 明後日はまた、お泊まり会がある。今度もまた、御風に気持ち良くさせられてしまうのだろう。そう思うと、期待半分、劣等感半分といった感じだ。 真由美の意識は微睡み、明後日のお泊まり会を待ち遠しく思いながら、眠りについた。




 その頃、真由美の家の近くの家の、屋根の上に、女性が腰掛けていた。


「あ~あ。そろそろまた、お腹空いてきたなぁ……」


 女性は屋根の上で、その細い足をぶらぶらさせながら、退屈そうに呟く。黒いブーツの爪先が、空を蹴り上げる。


「ん?」


 と、女性は足ぶらぶらをやめて、鼻をひくひくと動かし始めた。匂いを嗅いでいる。


「……近くから、アタシと同じ匂いがする」


 女性は背中から、二枚の黒い翼を生やし、浮かび上がった。匂いの源を探して、家々を嗅いで回る。

 やがて女性は、一件の家で止まった。真由美の家の、それもちょうど真由美の部屋がある壁の前だ。


「ここね。アタシと同じ性癖の人間を見つけられるなんて、ラッキーだわ」


 女性は舌舐めずりをすると、まるで溶けるかのようにして、壁の中に吸い込まれていった。




「……ん……んん……?」


 真由美は寝苦しくて目を覚ました。何かが自分の上に乗っていて、重い。それが何なのか確かめるため、自分の上を見る。


「うふふ……」


 そこには、一人の女性がのし掛かっていた。胸元が大きく開いた黒い服を着ていて、おっぱいが丸見えだ。続いて目についたのは、黒い翼。まるで、悪魔のような装いの女性である、


「―――!!」


 驚いて叫びそうになる真由美。だがその前に、女性が自分の唇で、真由美の口を塞いだ。


「むぐっ!!」


 突然のキスに暴れようとしたが、なぜか真由美の身体は動かない。目に見えない力に押さえつけられているかのように、指一本、ぴくりとも動かせなかった。

 覚醒したばかりの意識が、闇の中に堕ちた。




「……はっ!!」


 真由美は闇の中で目を覚ました。手足はどこから伸びているのかわからない鎖で縛られ、動けない。


「な、何これ……!!」


「ここはあなたの夢の中。絶対に逃げられないし、叫んだって助けは来ないわ」


 すると、闇の中からさっきの女性が現れる。


「あなたは……!!」


「初めまして。アタシの名前はエメ。サキュバスよ」


「サ、サキュバス!?」


 サキュバスと言えば、精気を吸い取る淫らな女悪魔である。真由美もそれは知っていた。だが、なぜサキュバスがここにいるのかわからない。


「サキュバスって、男の人の精気を吸い取る悪魔でしょ? 私女だよ!?」


 ちなみに、女性を襲って精気を吸い取るのは、インキュバスという男の悪魔だ。性質から言って、女の真由美がサキュバスに襲われる理由はない。エメと名乗ったサキュバスは答えた。


「私、レズビアンなの。男の精気なんて不味くて食えないわ」


 なんと、このサキュバスは同性愛者だった。少し前に同性愛者の吸血鬼の母子と知り合ったばかりだが、まさかサキュバスの中にも同性愛の持ち主がいるとは思わなかった。


「さて、本題に入りましょうか。アタシがどうして、あなたの夢の中に入り込んでまで、あなたと話をしていると思う?」


「どうしてって、私の精気を吸い取るためでしょ?」


「もちろんそれもあるわ。でも、精気を吸い取るだけだったら、こんなことしなくてもできる」


 確かにその通りだ。そもそも相手を夢の世界に引きずり込むのは、サキュバスではなく夢魔の特性だったはずである。いや、サキュバスと夢魔を同一視する見方もあるのだが、少なくとも今それをする必要はないはずだ。


「あなたと取り引きしたいの」


「取り引き?」


「ええ。あなた、アタシと同じでレズビアンでしょ?」


「ど、どうしてそれを!?」


「アタシはサキュバスよ? 性癖を見抜くことにかけて、右に出る種族なんてないわ」


 エメはサキュバスであり、サキュバスやインキュバスは獲物の性癖を見抜くことに長けている。


「アタシと契約しない? 契約すれば、アタシはあなたの中に宿って、相手を気持ち良くするための力を貸してあげる」


「……!!」


「その代償として、あたしは相手の精気をもらうってわけ。どう?」


「……」


 真由美は考える。ここは、エメが作った夢の中だ。助けは来ないし、縛られているから逃げることもできない。返答次第によっては……


「アタシにカラッカラになって死ぬまで精気を絞り取られるか、アタシと契約してあなたの同性愛を満たす力を手にするか。この選択を間違える人間なんていないと思うけど?」


 どうやら、断れば殺されるらしい。こんなもの、選択肢なんてないようなものではないか。真由美はそう思った。


「……わかったわ。あなたと契約する」


「お利口さんでよろしい。じゃあ、早速契約しましょ。あなたの名前、教えて?」


「……片平、真由美……」


「真由美ちゃんね。あむっ!」


「んむっ!?」


 真由美が契約に同意するとわかったエメは、真由美にまたキスをした。

 しばらくして、エメは口を離す。


「契約完了よ」


 今のキスは、契約に必要なものだったようだ。サキュバスは状況に応じて、キスを使い分けることができるらしい。さすが、サキュバス。


「アタシお腹空いてるからすぐにでも精気が欲しいけど、さすがにこの時間帯じゃね。だから今日は代わりに、あなたの精気をもらうわ」


「ええっ!?」


 エメは真由美と肌を重ねてきた。











 翌日の学校。

 真由美は、昨夜の出来事は夢ではないかと思った。目が覚めた時、エメがどこにもいなかったから。だが、自分の頭の中にエメの声が響いたことで、夢ではないと確信する。


(……それで、あなたと契約したわけだけど、具体的には何ができるの?)


 真由美は頭の中で思うことで、エメと会話する。内容は、契約することで使えるようになったという、サキュバスの力についてだ。


(何でもできるわよ)


(その何でもっていうのがわからないから訊いてるんだけど……例えば、キスするだけで、腰が抜けちゃうくらい、気持ち良くさせるとか……)


 頭の中での会話ながら、真由美の言葉は恥ずかしくなって尻すぼみになってしまう。


(余裕余裕。腰が抜けるどころか、気絶させちゃうキスもできるわ。他にも、睨み付けるだけで相手を自分に惚れさせるとか、触るだけで全身性感滞にするとか)


(ほ、ホントに何でもできるのね……)


 エメの力は体感済み。これなら、御風を確実に気持ち良くできる。真由美はそう確信した。今御風は、鞄の中から教材を取り出し、一時限目の授業に備えている。


(この子のことが好きなの?)


(……好きっていうか、付き合ってる)


(ふーん。なんとなくそんな感じはしたわ。だって、あの子からアタシやあなたと同じ、レズビアンの匂いがしたもの)


(匂いでわかるものなんだ……)


 何だかちょっとショックだった。


(じゃあちょっと試してみる? アタシの力)


(……うん。でも何を試すの?)


(ん~……お手軽なところで、チャームオーラなんてどう?)


 チャームオーラとは、全身から相手を魅了する気を発する魔術、らしい。


(今回は出力を弱めにして、御風ちゃんにだけ効くように調整するわね)


(うん。それがいいよ。今見境なく魅了したら大変なことになるだろうし)


 というわけで、早速御風に対して、チャームオーラを使ってみることにした。魔術はエメが発動し、真由美は御風を魅了したいと念じるだけである。

 効果はすぐに現れた。魔術を発動して数秒後に、御風がこちらを見た。また数秒間御風が真由美を凝視し、その後、身体が動かなくなる。

 御風が修得している古流剣術、二階堂平法の奥義、心の一方だ。睨み付けた相手を、金縛りにしてしまう技。御風は相手を凝視すると、無意識にこれを発動してしまうことがある。それだけ御風の意識が、対象に強く向けられている証拠だ。


「真由美……」


 御風は真由美の脚に触れて、いやらしく撫で回した。御風は脚フェチであり、真由美の脚は御風にとってかなり好みであるらしい。


「ど、どうしたの?」


 真由美は官能的なくすぐったさに耐えながら、とぼけるように御風に尋ねる。


「どうしてかしら? 私は真由美が大好きよ。どんな可愛い女の子よりも、あなたが可愛い。いつもそう見えてるけど、今日はいつもよりあなたが魅力的に見えるわ……」


「御風……」


 対応自体はいつもと変わらないような気がするが、御風本人からいつもより真由美が魅力的に見えると断言された。つまり、チャームオーラはきちんと効果を発揮しているのだ。


「……駄目。もう授業始まっちゃう。それにここ学校……」


「ちょっとだけ。キス一回でいいから」


 御風は真由美とキスをする。確かに一回だけとは言ったが、そのキスがとても長い。そのうち息が苦しくなって、御風は口を離す。


「やっぱり我慢できない。このまましちゃいましょう」


「やだ、みんなが見てる。恥ずかしいよ……」


「……じゃあこれでどう?」


 そう言って、御風はずっと二人のキスを見ていたクラスメイト達に、顔を向けた。瞬間、クラスメイト全員の顔が虚ろになり、無表情になる。


「私が今やったことを、あなた達は見ていないし覚えてもいない。私がこれからやることも、あなた達は覚えておけないわ。」


 心の一方を使って催眠術をかけ、記憶を奪ったのだ。加えて、今から真由美と育む情事も、記憶できないようにした。


「静かにして、私達の邪魔をしないで」


 それから、自分が心の一方を解くまで黙っているよう、命令も下す。


「これで邪魔は入らないわ。あなたとたっぷり、ねっとり……うふふ……」


 これでようやく情事に移れる。そう思った時だった。


「お前ら席に着けー。ん?なんか思ったより静かだな」


 担任の木下がやってきた。さすがに授業に支障が出るとまずいので、御風は指を鳴らして心の一方を解き、正気に戻ったクラスメイト達は慌てて自分の席に戻った。


「何だどうした?」


「何でもありませんわ先生」


「……そうか? じゃあホームルーム、始めるぞー」


 御風が全員を代表して答え、ホームルームが始まった。


(すごいすごいすごい!! この力、本物だ!!)


 木下がいろいろ言っているが、さっきの光景が衝撃的すぎて、真由美の頭には入らなかった。エメの力は本物だ。それに今のチャームオーラは、エメの力のほんの一端でしかないらしい。もっと強力な力を使えば、御風を気持ち良くさせるなんて簡単だ。


(この力があれば、私も御風を愛してあげられる……!!)


(アタシも精気がもらえて、一石二鳥ね♪)


 先ほどの御風とのやり取りで、少量とはいえ精気を吸うことができたエメも、かなり満足そうだ。


 と、


「あー、片平? 悪いけどちょっと来てくれ」


「えっ? はい」


 いつの間にかホームルームは終わっていたようだ。真由美は木下に呼び出されてしまった。

 木下について教室を出る真由美。


「どこに行くんですか?」


 どうやら、職員室に行くわけではないようだ。


 その時、突然木下が振り向き、真由美に人差し指を向けた。


「……あっ……」


 同時に真由美が崩れ落ち……なかった。


「……ふーん、あなた討魔術士ね?」


 いや、真由美の意識は堕ちた。今は、真由美に憑依しているエメが、真由美を乗っ取っているのだ。


「お前、サキュバスだな? 何でウチの生徒の中にいる?」


 桃華宮女子校の教師というのは仮の姿。木下の正体は、討魔術士という魔物退治の専門家である。だからこそ、真由美の中にエメがいることに気付いた。まず真由美の意識を眠らせることで、エメを引っ張り出したのである。


「この子と契約したのよ。アタシはレズビアンでね。アタシみたいな偏食家が安定して精気を吸うには、同じレズビアンと契約するのが一番なのよ」


「……吸精魔が生きるためには、他人の精気を奪うしかない。同性しか狙わない変わり者だっているだろう。だからそのことについて特に言及するつもりはないが、そいつはちょっとわけありなんだ。精気を吸っても構わないが、あんまり無茶はしないでくれ。」


「もちろん約束するわ。だってせっかく手に入れた契約相手だし、まだ協会に命を狙われたくないしね」


「ならいい。言いたいのはそれだけだ」


 木下はエメに、決して真由美を無茶苦茶にしないよう約束させて、去っていった。


「……さて。ほら真由美ちゃん! 起きなさいよ!」


(ん、んん……)


 エメは真由美を起こすと、再び入れ替わる。


「……あれ? 先生は?」


(もういいって。それより、早くしないと授業始まっちゃうわよ?)


「……あっ!」


 エメに言われて、真由美は慌てて教室に戻っていった。











「……」


 翌日の放課後、真由美はとても緊張していた。授業は全て終わり、今夜は御風とお泊まり会。エメと契約して得た力を、ようやく使うことができるのだ。


「……よし!」


 なぜか気合いを入れてから、真由美は御風と一緒に帰る。お泊まり会のことで緊張していると見抜いている御風は、クスクスと笑っていた。


「じゃあね御風」


「ええ。すぐにまた会いましょう」


 御風と別れて、一度家に帰る。そこからお泊まりセットを持って、御風の家に行くのだ。ただし、服装は制服のままである。これは、御風が桃華宮の制服を好んでいるからだ。


「……御風……」


(いよいよね)


「……うん」


 荷物を持って、御風の家の門をくぐる。


「真由美お姉様!」


「いらっしゃい、真由美ちゃん」


 そこで真由美を迎えたのは、吸血鬼の母娘、ラナンとリエルだ。ラナンが娘で、リエルが母である。


「こんばんは。ラナンちゃん、すっかり大きくなったね」


 二人は、いつまで経っても身体が成長しないラナンを成長させるため、この日本に来た。京都で女性を襲っていたが、御風に負けて以来、御風の計らいでラナンが大きくなるまで、この家に住ませてもらっている。

 ほんの二ヶ月ほど前に会った時は、小学生くらいの身長だったのだが、今では高校生くらいの大きさまで成長している。日本人の血液は、外国の人間より栄養価が高いらしい。


「全部、御風お姉様や真由美お姉様が、血液を分けて下さったおかげですわ」


 他の女性の代わりに御風が、お泊まり会の日は真由美も、ラナンに血を与えている。もちろんリエルにも。


「御風お姉様の血も美味しいけれど、真由美お姉様の血も美味しいですわ。今日も、分けて下さいますわよね?」


 ラナンもリエルも百合であるため、真由美から血をもらえるのを楽しみにしており、真由美も快く了承している。


「もちろんだよ。でも……」


「えっ?」


 真由美はラナンを抱き締めた。


「その前にちょっと遊びましょ?」


「ま、真由美お姉様……?」


「リエルさんも一緒に……」


「真由美ちゃん? 一体どうし……」


 真由美はリエルをも抱き寄せる。突然大胆な行為をしてきた真由美に、困惑する百合吸血鬼二人。真由美は二人の耳元で囁いた。


「だって二人とも、とっても美味しそうなんですもの」










「……まだかしら?」


 御風は玄関で、真由美が来るのを今か今かと待っている。


(落ち着いて。あんまりがっつきすぎると、真由美に嫌われちゃうわ)


 御風と真由美は昨日今日の関係ではない。少しくらい激しくしたところで嫌がられはしない(むしろ喜ばれる)が、万が一ということもあり得る。

 とにかく、真由美が来るまで落ち着いて、精神統一を……


「お待たせ」


「ひゃっ!?」


 しようとしていたところで真由美が現れ、驚いた御風は変な声を出してしまった。


「どうしたの?」


「い、いいえ、何でもないわ。それよりいらっしゃい。それじゃあまず、ご飯にしましょうか」


「そうだね。じゃあお言葉に甘えて……」


 ご飯を食べる。たった一つの言葉でも、二人においては意味合いがまるで違う。御風はそのことに、まだ気が付いていない。


「いただきましょうか」


「えっ……」


 真由美の目が一瞬光った。その光を見たとたんに、御風の全身から力が抜ける。崩れ落ちそうになる御風を、真由美が抱き締めた。


「な、何……?」


「うふふ、捕まえた」


 真由美はニヤニヤと、蠱惑的な笑みを浮かべている。まるで、いつもの御風みたいだ。


「……あなた、真由美じゃないわね?」


 御風はようやく、目の前にいる存在が真由美ではないと気付いた。正確に言えば、真由美ではある。


「アタシはサキュバスのエメ。この子と契約して、身体に宿らせてもらってるの。今はこの子の精神に眠ってもらっているわ」


 今、真由美はエメに身体を乗っ取られている。身体は真由美だが、人格はエメという状態だ。


「さっきの吸血鬼二人の精気もすっごく美味しかったけど、所詮前座に過ぎないわ。本命はあくまでも、あなたよ」


 エメが来るまで時間が掛かった理由は、先に二人を襲って精気を吸っていたからである。今は、二人仲良くダウン中だ。そして、本命の獲物である御風さえも、エメは自分の腕に捕らえてしまった。


「くっ……!!」


「無駄よ。あなたは私の魔術、バインドアイズに掛かってる。もう身体のどこにも力なんて入らない」


 御風は全身に力を入れて逃れようとするが、力が入らない。それもそのはず。先ほど目を合わせた時、バインドアイズという魔術を掛けられていたのだ。目を合わせた相手は、全身から力を奪われて、全く抵抗できなくなってしまうという魔術だ。吸血鬼の魔眼と効果が似ているが、こちらはサキュバス専用の魔術。


「獲物も捕まえたし、ご飯にしましょうか。アタシのご飯に、ね」


 御風の精気を吸おうとするエメ。


「んっ!」


 そして、真由美の姿をしたエメは、御風にキスをした。


(気持ち良い……)


 快感を感じる御風。動けないことを、別に嫌っているわけではない。吸血鬼との戦いがあるまで、御風は自分が相手を動けなくする、攻めだと思っていた。だがラナンに魔眼で縛られてみて、自分は受けも好きなのだということがわかった。だから、縛られること自体に問題はない。


「んっ!?」


 問題は、相手が真由美ではないということ。襲ってもらうなら、真由美がいい。そう思った御風はこの窮地を打開するため、エメに心の一方を掛けた。金縛りに掛かり、エメの動きが止まる。次に、口を離して催眠を掛けた。


「真由美に代わって」


 真由美に襲って欲しいから、真由美に精神を交代して欲しい。そう命令した。


 だが、エメはにぃっ、と笑うと、目が光った。


「アタシを動けるようにしなさい」


「……はい」


 なんとエメは催眠に掛かっておらず、逆に御風を催眠に掛けて心の一方を解いた。


「残念ねぇ? アタシ催眠攻撃には耐性あるからさ。拘束の類いにも、ある程度は抵抗できる。あんな強力な拘束に掛かったのは初めてだったから、あなたに解いてもらったけど」


 催眠には掛からなかったが、心の一方を解くことはできず、御風に解かせたのだ。

 催眠を解除し、再び御風にキスするエメ。


(私、キスだけで……)


 気持ち良くなっている。同時に、その気持ち良さが吸い取られているのも感じる。だが心の一方も効かず、身体の自由も奪われ、もう何もできない。

 その時、


「御風、さん……!!」


 リエルが入ってきた。


「リエルさん!?」


「あら、まだ動けたんだ? 全身気持ち良くなっちゃって、立つのもキツいはずだけど」


 エメの指摘通りだ。リエルは精気を吸い取るために全身に快楽を与えられ、頬は紅潮して目は潤み、壁を必死に掴んで立っているが、足はぶるぶると震えている。一児の母だが、彼女は見た目だけなら若くて美しく、今の彼女の姿は御風にとってとても魅力的だった。

 だが直後、リエルに魅惑されている場合ではないということを知る。


「そのサキュバスは、正気ではありません。酔っています……!!」


「酔ってる……?」


 リエルの話だと、サキュバスは精気を吸わねば生きていけないが、そんなに毎日吸う必要はないという。むしろ、最低でも一日半以上は置いてから吸わないと、栄養過多で酔ってしまうらしい。そうなると感覚が暴走して、どんどん吸ってしまう。吸えば吸うほど暴走は加速し、最終的には男女や年齢、自身の性癖に関係なく、無差別に人間を襲って死ぬまで精気を吸い尽くしてしまうそうだ。過去にそのせいで、村を一つ壊滅させたサキュバスもいたらしい。


「失礼なことを言う吸血鬼ねぇ。アタシは酔ってなんか、ひっく、いないってば」


 突然しゃっくりを始めたエメ。夕べも真由美から、先ほどラナンとリエルからも精気を吸い、御風からも少量だが精気を奪った。短期間に大量の精気を吸ったので、酔いが加速したのだ。


「完全に酔ってるじゃない……」


 危ないところだった。もしリエルが知らせてくれなければ、御風はこのままエメを受け入れ、死ぬまで精気を吸われていただろう。


「女の子は好きだけど、さすがに決めた人以外に殺されるのは、ね!!」


「!!」


 御風は再度エメを心の一方で縛り、その隙にリエルが手から衝撃波を放って吹き飛ばした。リエルは腰砕けになりながらもどうにか御風に近付き、


「はっ!!」


 腹に手を当てて気合いを入れる。すると、御風の身体に力が戻った。バインドアイズが解除されたのだ。


「ありがとうリエルさん。それで、ここから先はどうしたらいいの?」


「栄養過多によるサキュバスの暴走は、吸い取った精気を体力や魔力に変換しきれなくなった結果、起きている現象です。力を使わせ続ければ……!!」


 要するに、今のエメは食べ過ぎで運動不足なのだ。しっかり身体を動かして、有り余っている力を消費し、標準状態に戻せば回復する。


「わかりました」


 エメを、そして真由美を救うため、御風は身構える。


「アタシに精気を、吸わせてくれないの? アタシにご飯をくれないの?」


 エメは真由美の口で、真由美の声で、真由美の身体で、さらなる精気を要求する。真由美がそういうことを望んでいると思うと、御風はすぐにでも襲ってしまいたい気分に駆られるのだが、


「あげたいのはやまやまだけど、あなたちょっと食べ過ぎよ。食べたら次は運動しなきゃ」


 真由美は今、それを望んではいない。きっと、暴走してしまった自分を止めて欲しいと思っているはずだ。だから、拒否した。


「……ふーん、そう。じゃあ、あなたいらないわ」


 次の瞬間、エメが起き上がり、御風に片手を向けて、エネルギー弾を飛ばした。


「危ない!!」


 ろくに動けないリエルを抱えて飛び退く御風。エネルギー弾は玄関の扉を突き抜けて飛んでいき、爆発した。

 先ほど自力では解けないと言っていた心の一方の拘束を、エメは自力で破った。


「……自力じゃ解けないんじゃなかったの?」


「なんか本気出したらできちゃったぁ~。でもさ、別に何でもいいでしょ? アンタ死ぬんだから」


 エメは力が有り余っている。だから、その気になれば一瞬で心の一方を解けたのだ。それに気付けたのは、酔った反動のようだが。


「っ!!」


 次に飛んでくるエネルギー弾を、御風はリエルを抱いたまま走ってかわす。とにかく、今は逃げ回らなければ。


「ご飯をくれない人間なんていらない!!せめて男に狙われる前にアタシが消し炭にしてあげるわ!!」


 エメが背中から黒い翼を生やし、滅茶苦茶なことを言いながら追いかけてくる。エネルギー弾で爆撃してくるエメを見ながら、御風は今日誰もいなくてよかったと安堵した。

 足腰には自信のある御風だが、このまま逃げ続けられるとは思っていない。何せ、リエルという荷物を抱えたままの逃走なのだ。


「ごめんなさい。まだ、うまく動けなくて……」


 もしリエルを放って逃げていたら、この爆撃の餌食になっているか、またエメに精気を吸われている。相当吸われたのか、まだ身体が自由にならないらしい。


「ラナンちゃんが心配ですが……」


「私が魔術で遠くに飛ばしておきましたから、大丈夫なはずです」


 ラナンは心配ないらしい。

 しかし、この爆撃はいつまで続くのだろうか。御風の体力がもたないし、何より屋敷がまずいことになる。今は被害が出ないよう広い場所だけを逃げ回っているが、もしエメがもっと出力の高い爆撃をしてきたら、屋敷が破壊し尽くされてしまう。せめて、姫百合が欲しい。


「……私が彼女を惹き付けます」


「えっ!?リエルさん、まだ動けないんじゃ……」


「あなたの心の一方で、私は動けると催眠を掛けて下さい」


「えっ!?」


 確かに、催眠を掛ければ、動けるようになるだろう。だが、それはあくまでも身体の不調を誤魔化しているだけだ。いくら自分は無事だと錯覚したところで、いつか必ず影響は出る。


「大丈夫。私は吸血鬼ですよ? この程度ことで死んだりしませんから。さぁ、早く!!」


 時間はない。リエルに急かされ、御風は仕方なく催眠を掛けた。


「……あなたの身体に不調はない。いつもと同じように、いつも以上に、軽快に動ける」


 身体の不調を感じないように、いつもよりずっと動きが良くなるように、催眠を掛けた。


「ありがとう。行って!」


 リエルはエメと似た黒い翼を生やし、エメを足止めするために飛んでいった。


「……くっ!」


 女性を戦わせたくない。だが、こうしなければ、真由美を助ける前に自分が殺されてしまう。大丈夫。姫百合を取りにいく時間はごく短いから、リエルさんならそれぐらいはもたせられるはず。そう信じて、御風は離れにある、自分の部屋に飛び込んでいった。


「何? 邪魔するの?」


「あの人には恩がありますから」


「……そう。また精気吸い取ってやる」


「くっ!」


 エメは力が有り余っている。そうでなくとも、サキュバス相手に接近戦は危険だ。戦闘力以上に、魅力系の能力が危険だからである。触られたらまず耐えられないし、視界に入ったり逆に視界に入れることさえ、魅力に嵌まる可能性がある。

 だからリエルは、一定の距離を取りながら、目を閉じて気配に頼り、決して止まらないようにエメの周囲を飛び回る。倒すのではなく、力を使い切らせるのが目的の持久戦だ。ある程度力を使わせれば、エメは疲れて寝てしまう。酔っているのだからそんなものだ。


「ああもう鬱陶しい!!」


 だが、エメの力はリエルの予想を越えていた。エメは両手を広げ、周囲に向かって魅力の力を拡散させたのだ。


「ううっ!」


 力の範囲に入ってしまうリエル。御風が掛けてくれた催眠のおかげで、快感は感じていない。だが、エメの力には魅力だけでなく、強制的に精気を吸い取る力も加わっていたようで、リエルの動きが鈍る。


「はい、捕まえた」


「あうっ!」


 さらに活力を得たエメから逃げられるはずもなく、リエルは捕まってしまい、片手で首を掴まれる。


「さぁ、目を開けなさい。その瞬間にあなたをいっっっっぱい、気持ち良くしてあげる。命と引き換えに、極上の快楽をあげるわ」


 それでも、絶対に目を開けないよう、強く閉じている。開けたら終わりだ。開けたらその瞬間に、リエルは死んでしまう。


(ラナン……!!)


 リエルは無意識に、心の中で娘の名を呼んでいた。



 その時、



「お母様から離れてっ!!」


 ラナンが飛び込んできて、エメを殴り飛ばした。エメはリエルを離し、吹き飛ばされながらも体勢を整えて静止する。


「ラナン!?」


「何とか動けるようになるまでは回復しましたわ!!」


 ラナンよりもリエルの方が、深く精気を吸われていた。それが幸いし、ラナンはいち早く最低限の動作ができるようになるまで回復したのだ。


「さて、これからどうします?」


 魔術で傷を治すエメを見ながら、ラナンはどうしたらいいかをリエルに尋ねた。

 二人がかりで挑んでも、エメには勝てない。相手を無力化することにかけては、吸血鬼よりサキュバスの方が上手なのだ。そして今、その無力化能力が、殺傷レベルにまで高まっている。エメは相手を普通に無力化する感覚で、二人を殺してしまえるだろう。


「とにかく逃げ回って、サキュバスに力を使い切らせるしかないわ」


「ですわね……!!」


「やってみなさいよ。二人まとめて吸い殺してやる!!」


 吸血鬼とサキュバス。どちらも相手を吸う側であるというのに、力の差はあまりにも歴然。

 だが、いくら力が強くても、不測の事態は避けられない。


「ぐっ!?」


 二人に襲い掛かろうとしていたエメが、突然動きを止めた。そして、苦しそうに言う。


「逃げて……ラナン、ちゃん……リエル、さん……!!」


「真由美お姉様!?」


「真由美ちゃん!?」


 眠らされていた真由美が意識を取り戻し、エメを抑えたのだ。


「邪魔を……するな……!!」


 凶暴性をむき出しにして、それに抗うエメ。



 その時、



「みんな、足止めありがとう」


「御風お姉様!!」


「御風さん!!」


 遂に、御風が姫百合を取り、戻ってきた。御風はエメに言う。


「エメさん、って言ったわね? そんなに精気が欲しいなら、私のをあげるわ。やっぱり我慢は良くないものね」


「御風さん!? それは……!!」


 リエルは驚いた。エメの力を使い切らせなければならないと言っているのに、御風は自分の精気をやると言っているのだ。御風はリエルの驚愕を無視して続ける。


「ただし、あなたが使える最高の魔術を使って私の精気を吸うこと。あるでしょ?」


「……ええ。あるわ」


 そう、ある。エメにとって、いや、サキュバスにとって最強と言える魔術、強制絶頂眼が。睨み付けた相手を一瞬で、文字通り強制的に、性的な意味で絶頂させてしまう魔術だ。じわじわじくじくと相手を追い詰めるのを信条としているエメにとっては禁じ手なのだが、


「それを私に使いなさい」


「……いいわ。やってあげる」


 酔っているためか、OKしてしまった。


「だ、だめ、御風……」


 また真由美が抑えに入る。だが、御風は微笑んで言った。


「大丈夫よ真由美。私は死なない。信じて」


「……わかった……」


 御風に言われて、真由美の抵抗がなくなる。


「お望み通り掛けてあげるわ。一発で昇天させてあげる!!」


 来る。御風はそう感じ、身構えた。エメは一度まぶたを閉じて自分の目に魔力を込め、そして見開く。


「強制絶頂眼!!!」


 エメの目から、いかなる相手をも昇天させる光線が発射される。

 それと同時に、御風は姫百合を抜いた。


「……は?」


 光線は姫百合に弾かれ、エメに命中する。

 御風は考えていた。このまま姫百合を持って戻ったところで、本当にエメの力が尽きるまでもつだろうか。何か、もっと方法があるのではないかと。

 そして気付いた。力の方ではなく、精気の方を発散させれば、もっと早くエメをダウンさせることができる。気付いた御風は、エメにより強く精気を発散させる方法を思い付き、戦場に戻ったのだ。姫百合のピカピカの刀身なら、魔術を跳ね返すことができる。そして御風の目論見通り、魔術はエメに跳ね返って、


「あ……あああああああああああんっ!!!!」


 絶頂させた。頬を紅潮させ、自分の身体を抱き締めながら、ビクビクと痙攣し、エメは落ちる。翼も消えてしまった。


「言ったでしょ? 我慢は良くないって」


 落ちてきた真由美を、御風は優しく抱き締めた。











「……!!」


 御風の屋敷の居間で、真由美は目を覚ました。


「起きたのね」


「御風!!」


 すぐそばで彼女を介抱していた御風に、真由美は抱き着く。真由美が起きたのに気付き、吸血鬼母娘もやってきた。その二人と一緒に、エメもいる。


「エメちゃん……」


「……完敗だわ。まさかあんな簡単な口車に乗っちゃうなんてね」


 あの時は酔っていたため正常な判断ができなかったが、吸いすぎた精気が発散され、冷静さを取り戻した今となっては、自分の愚かさが理解できる。


「ごめんなさい。実は人間と契約したのは今回が初めてで、嬉しくてたくさん吸っちゃったの。そしたら気持ち良くなっちゃって、自分でも歯止めが利かなくなって……ごめんなさい!!」


 ひたすら謝るエメ。最初真由美と会った時、エメはいつものように精気を吸って、それで終わりにしようと思っていた。だが唐突に他の吸精魔達がやっていたことを思い出し、試しに迫ったら成功してしまったので、嬉しくて羽目を外しすぎてしまったのだ。


「契約しなかったら殺すってあの時……」


「あれはウソよ。だってアタシレズビアンだし、大好きな女の子を殺すなんてできないわ」


(私達は殺されかけたけど……)


(まぁ酔っていたから……)


 ラナンとリエルはこそこそと言った。


「でも、安定して精気を得られるのがどれだけ危険か、よくわかったわ。契約は解約して、あなたの所から去ります」


 契約の危険性を知り、解約しようとするエメ。

 だが、真由美は言った。


「……解約する必要は、ないんじゃないかな?」


「えっ?」


「食べ過ぎるのは確かに良くないけど、サキュバスは精気を吸わなきゃ、生きていけないんでしょ? 私の所からいなくなったとして、次に精気を吸える場所のアテって、あるの?」


「……それは……」


 ない。吸精魔の食事など、常に行き当たりばったりだ。餓死しかけたこともある。


「だったら、ずっと私と一緒にいればいいよ。お腹空いたらいつでも精気をあげるし、吸いすぎないように管理もしてあげるから」


「真由美ちゃん……」


「……それに、吸いすぎたら、発散させてあげればいいってことも、わかったし……」


 真由美は赤くなりながら言う。途中から抵抗をやめたが、御風とエメの戦いはしっかり見ていた。それで、精気の過剰摂取をしたエメを元に戻すには、発散させればいいということもわかったのだ。ちなみに強制絶頂眼を返された時、真由美も一緒に絶頂しており、すごく気持ち良かった。


「……ありがとう。真由美ちゃんって、とっても優しいのね」


「でしょ? これが私のお嫁さんなの」


「御風!!」


 真由美はさらに顔を赤くし、そのそばではラナンとリエルが笑っている。だが嫁と言われた時、真由美は嫌だと思ってはいなかった。




 破壊された屋敷は、エメとラナンとリエルが、魔術を使って綺麗さっぱり直してくれた。お泊まり会は三人の魔物達を交えて行われ、それぞれが楽しんだ。



 うーん、できるだけ過激な描写は避けてるつもりなんですけど……R18にした方がよかったら言って下さいね?

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― 新着の感想 ―
[一言] 先程の捕捉でマイページ下部のガイドラインのR18についてを読んでいただければより分かりやすいかと, 小説を書くさい一読することをお薦めします。
[良い点] 相変わらずなメンバーや女性しか狙わないサキュバスという発想が大好きだ!! [一言] R18か不安ですか?たしか性器の直接の描写がなければ,なろうの規約的には大丈夫だと思ったはずですし、自分…
[良い点] すごいですね。なんだか同じ性癖の人ばかり集まってる・・・・・・(笑) [一言] サキュバスって男しか狙わないイメージがあったのでなんだか新鮮でした。 特に大変なことにはならずに何とかエメが…
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