初依頼
明け方、いつもの時間に目が覚めて、サッと身を起こすと浴場まで走った。
思った通り、朝も間近なこの時間は誰もいなかった。
温かいお湯が溜まっているわけもなく、冷えた水溜まり。
脇には手押しポンプ式のシャワーがある。もちろん水だ。
浴びれるなら文句なんてない。
想定外の入浴客がくる前にささっと済ますべきだ。
隠れる所なんてないのだから…
石鹸で、頭も体も一気に洗い、服を着てからホッと息をついた。
歯磨きを済まし、サッパリ爽快な気分で部屋に戻る。
今後の事を考えながら部屋に戻ると同室の彼らと蜂合った。
扉に立ちすくされ通れないし、ジッと観られるばかり…
「…何?」
「あ、いや…」
「ごめん、通してくれない?」
「お、すまん。」
半身避けて部屋からでていった。
変な奴ら……
この時は、こいつらが仲間になるなんて、想像もしていなかった。
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この日から10日間は、同じような生活をした。
もちろん、何もしていなかったわけではない。
依頼書を持って行った奴をコッソリつけて狩りの仕方を学んだり、偶然を装って獲物の捌き方を教えてもらったり、一般的な薬草を見せてもらい、覚え、道具の有用性や、自分に合う武器、揃えなければいけない物など、勉強勉強……
心良く教えてくれるばかりではないし、難癖つけてくる奴もいたが、トラブルとまでは行かず回避出来たので御の字だろう。
と言うことで、今日から初依頼!
シカ相手だと弓が一番だろう。
エヴァと練習してたし、自信はある。
気配に敏感だから安易に近づくと気付かれる。
狩りで、弓は必要不可欠だって、ウィルナードも言ってたしな。
連れてってくれなかったけど。
「あっ」
発見ー!風下に回れ…遠巻きに近づけ…だったな…
確認…人影なーし!
片膝ついたまま…
シュッ…
「当たっ…待てっ!」
逃げるシカを追う。
ちくしょう!ヘタクソ!
自分に毒を吐きながら手針を取り出すと、行く手を大樹が阻んでいた。左に回るシカの進行方向目掛けて投下する。
「ふっ!」
今度こそ当たった筈なのに!!
息が続かなくなってきた。
と、その時、ザッと音がして足を緩めながら近づくとあのシカが倒れて痙攣していた。
「やった…」
喜びも束の間。
獲物の処理をして、サッサとずらからねば。
今の自分じゃ倒せない肉食獣が来てしまう。
ちゃっちゃか動いて、首を革袋で包み血が溜まるようにする。足をくくり、肩に吊すように担ぐ。
大物だ。
大きくて邪魔だが走れないこともない。
颯爽と立ち去る。
小川で綺麗に処理して、細かく捌き纏める。やっぱり1人じゃ時間もかかるし、警戒しながらだと効率悪いな…
肩に背負ってふと振り返ると、少し離れた対岸にくまさんこんにちは…
…………逃げろ!
このシカはやらん!
追いかけてくる気配はなく、薬草をもぎながら町にかえった。
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「いや〜旨いね〜!」
「いつになくご機嫌だね!良いことあったの?」
「いや、ハンターデビューが出来ただけ!」
「でびゅ?」
「何でもない。ビール…じゃない、麦酒もらえる?」
「?…はいはい。」
テンション上がりすぎてバカになってるな。
反省反省。
今日は私の特等席取られちゃったけど、良しとしてやろう。うん。
私は看板娘ターニャの酒場の常連様になった。
と言っても一週間位だけど。
店の名前もまだ知らんけどな!すまんターニャ。
上機嫌で酒を飲んでいると、同室のお二人さんではないか。
相席許可してやろう!来い来い。
手招きするとターニャが気づいて、向かいに誘導してきた。
ふむ、阿吽の呼吸か。なかなかやるな。
「お、お前おんなじ部屋の…」
「やあやあ、同居人さん。座りな座りな!」
「おう!麦酒くれ」
「俺も…」
「は〜い。今すぐ!」
「…可愛い。ターニャちゃん!」
「ふーん。ターニャ人気だね〜。顔見知りって事で名乗っとこうかな。『俺』はカナメ。」
「前から思ってたけどよ…お前、ターニャちゃんと宜しくしやがって…ターニャちゃんの何だ?」
「ん?弟的立ち位置。」
「…そうか。だよな。…俺アルベルト=はり…いや、アルでいい」
「?…はり?…」
「…ギルバートだ。」
鼾男がアルで、夜更かし男がギルか。
「アルとギルなっ。宜しく。」
「…っ」
「…ギルじゃ駄目だった?」
「いやいやいや、コイツのことは気にするな。人見知りの恥ずかしがり…」
「…アル」
「アハハハ。まぁまぁ、ターニャちゃんの酒で乾杯といこうじゃねーか。」
「ふん。」
「カンパーイ!!」
「乾杯っ」
ギルは無言で私達のジョッキにぶつけた。
「いや〜やっぱり誰かと乾杯すると旨いわ〜!」
「…ガキがいっちょ前な事いうじゃねーか。面白れ〜!」
「ガキが酒飲むな。」
「ガキ、ガキ、ガキ…聞き飽きた!カナメって名乗っただろ?カナメって呼べよ。」
「フハハハッ!お前、コイツの顔怖くねーの?いやカナメ。ほら、すっげー怒った顔してるぜ?」
「そう?初めて見た時その顔だった気がするけど。」
「ハハハハ!たしかに、ククッ、たしかにそうだ。」
「……」
「てかさ聞いてくれる?俺、今日初めて狩りしたの。で、鹿一匹の戦果でさ、薬草摘みからやっと脱出出来たんだー。」
「そら、ご苦労さん。初めてか〜俺らは遊びが狩りだったから、あんま覚えてねーなあ…なっ!」
「…12ん時が初めてだ。」
「おっ、覚えてんの?」
「6人で槍とか石持ち寄って…」
「そうだ、そうだ!滅多刺し。皆で担いで血まみれんなって、母上に飯抜かれたなー!なっつかしー!」
「へぇ〜。で、そっちは今日どうだったの?」
「んー、熊と、犬だな。」
「へぇ〜凄いな〜。犬って?」
「狼。熊殺ったらたかってきやがって、三匹毛皮行き。」
「儲けた?」
「ああ。熊やりゃあまあまあいける。」
「いーねー!でもさ、持って帰んの大変そうだな…」
「そりゃ、しんどいのなんのってよ…骨やなんやを捨ててもかさばるし、重いしだな…かといって持って帰んなきゃ損だしよ。」
「だね…もったいないもんな。そっか!…」
「ん?」
「ね、頼みがあんだけど…!」
「断る!」
「はー?まだ言ってないんだけど…」
「連れてけって腹だろう?」
「なぜそれを…!」
「流れ的にそうじゃないか。」
「だが頼む!仲間に入れてくれ!試しに3日間、荷物持ち兼剥ぎ取り、料金はお試し期間中な為無料。あんたらに損はなし!どう?」
「えー…ギルはどう思う?」
「…邪魔だ」
「何でさ。俺を知らないでしょ?別に邪魔になったら帰れって言えばいい。俺も一人じゃ出来ることは限られてるし、中級を一人でなんて無理だ。殺せても対して運べないんだから…アルとギルは2人しかいないんだし、これから仲間増やしていく気何じゃないの?それとも、どっかに入れて貰うのか?」
「……」
「そうなんだよなー。行き詰まってんだよ。ギルは傘下に入るタマじゃねーし、気難しいし…」
ギロリとギルがアルを睨む。
「なあ、3日間だけ!いいだろ?失格なら潔く引くから。」
「俺はいいぞっ。その条件なら微々たるもんでも楽になるし、損はねーし。ついてこれねーなら置いてくけどな。」
「よっしゃ!…ギルは?」
「…3日だな」
「いいってこと?」
不機嫌そうに頷いたギル。
「ありがとう!頑張るよ。体力つけなきゃ!」
残った晩飯を口のかき入れ、明日の依頼に力を備えた。
アルとギルより先に部屋に戻って、ベッドに入った。
良くもまあうまくいったもんだ。
こんなガキンチョを連れて行ってくれるなんて。
なんとか認めさせねばならない。
せめて、邪魔にならないように、自分が迷惑をかけないように…
出来れば、技やコツを盗みたい。
明日から、頑張るぞっ!!