私は12歳
あれから3年の月日がたった。
ウィルナードの家に世話になり、言葉を教わった。めちゃくちゃ言葉を覚えるのには苦労した。
それよりも、言葉を知ったから、この世界のことを知り驚いた。
この世界は、マール。
女神の『マールに堕ちる』というのは、別の世界に行くという意味だった。
そしてここは王のいる国、アルタイン王国。ここは辺境の小さな町ナハル。
なんとウィルナードはここの領主、男爵様だった。
似合わない…失礼。
髭男爵だからあってるのかもと馬鹿げた事を思ったのを覚えている。
ここの生活は不便。全くもって不便極まりない。
電気がない。それだけで、なにもかもが思い通りにならない。電気は偉大だ。
それも慣れた今、体力ついたな、幼稚園児みたいな生活だな〜。
とか思いながら、朝っぱらから馬で町外の草原に降り立った。
ひょいと飛び降り、養父の愛馬バルをゴシゴシ撫でて寝転がった。
ここで養父に拾われた。
朝の少し肌寒い風が頬を撫で、肺に爽やかな空気を送り込む。
何故養女になれたのか…
初対面の、周りとは違う容姿、ましてや言葉が通じない子供なのに、何故面倒を見てくれたのか…
それを聞いたときのお人好し発言には笑わせてもらった。
ウィルナードは騙される側の人間だ。
補佐官が優秀かつ誠実で良かった。
補佐官が領主でいいんじゃないか?と思わなくもない。
養母、シルエラも天然すぎて笑えるし、可愛い。
それに、義兄エヴァンシール、愛称エヴァは、純粋も純粋。真っ白な雲だ。
私の冗談に笑い、泣き、嘘もまるでない。
そんな彼らが好きだ。
幸せだ。
家族っていいな。
「ん?……もうバレたのか…早いな…」
馬が一頭走ってくる。
ウィルナードとエヴァだ。
「おっはよーー!」
馬鹿でかい声で挨拶すると説教が少し短く、軽いものになる。
ウィルナードが馬上で手をブンブン振り、またそれに答えると満面の笑み。
何が嬉しいのか、親バカっぷりは健在だ。
「カナメ、また勝手に行きおって…エヴァが心配するだろう?」
「父上が心配して追っかけるって言ったんじゃないか!僕のせいにしないでよ。」
「エヴァが行きたいと言ったんじゃなかったか?だから一緒に来たんだろう?」
「ち、違っ…もういいっ!」
思春期ですなー可愛い奴め。
「ハハハハ!」
自分より若干高い頭を撫でるとふっと避けられる。
照れちゃって〜可愛い弟よ。
「僕が兄なんだから、撫でるなっていってるだろ!」
「いいんだ。キラキラ綺麗でサラサラな髪は触りたいんだ。悪いか?」
「ハハハハ!俺は撫でてくれないのか?娘よ」
「残念ながら届かない。」
「ちがーう!髪の話じゃないっ!なんで馬に乗れるの?じゃなくて、独りで行くんだ?!」
「ふふふ…実力だ」
「クッ」
「だがな、独りでは駄目だと何度も言っただろう?シルエラが、今日出掛けると言ってたよな?もう起きているかもしれんな…バレぬ内に帰るぞ?またドレス着せられたくはないのだろう?」
「それはまずい!撤収撤収!」
「何がそんなに嫌なのか…愛らしいのに…」
「エヴァ!一緒に乗るか?」
「う………乗る」
「………よし、行くぞ。父さん、競走だっ!行けっ!バル!!」
「うわぁっ!!」
「……父さん?……カナメ!もう一度!もう一度言ってくれ!!」
「うわっ、来た!いけいけ〜バル〜!」
「カナメ〜〜」
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結局仁王立ちのシルエラに迎えられ、説教されながらドレスを着せられた。
「もう、このお転婆娘は〜!バレなければいいというのではありませんっ!わかりましたか?!カナメっ」
「はい〜かあさ〜ん」
「お母様です!」
今日出掛けるというのは、私の買い物だったらしい。
12歳になったら、化粧を始めるらしく、服もお子ちゃまワンピースは卒業らしい。
普段はズボンで、それを着ることほぼなかったけど。
商会に化粧品などなどを頼んだらしく、昨日届いたとのこと。
そう私は今12歳という設定である。
エヴァが当時10歳だと聞いて、若干背の低い私は、とっさに9歳と答えた、というわけ。
精神年齢23歳+3年だ。
そんなこんなで、髪を緩やかにあみこまれ、サイドに流し、白の花飾りをつけられ、薄ピンクの膝丈ドレスという、全く性質に合わない格好になっている。
疲れ切った顔で居間に出ると、デレデレした髭父に抱き上げられてぐるぐる回され、弱兄はここぞとばかりに頭を撫でてくる。崩れないように優しく…
何がいいんだか…。まぁ、子供の一張羅姿は可愛いしな。家族孝行と思って甘んじて受け止めよう。
「カナメ、もう行きますよ?」
そうだ…ニヤリと笑い、瞬時に微笑みへと変える。
「お父様?」
と、左手でにぎり、右はエヴァの手を…
「お兄様?」
「「え…」」
少し首を傾げて上目づかいで二人と目を合わせ
「行って参ります」
と、うふふあははのイメージで二人の間を駆け抜けた。
ドアの所で振り返ると、同じ顔で固まっている。
淑女の礼をするとビクッとしたので、吹き出してしまった。失敗失敗。
「ばーか」
シルエラに駆け寄り馬車に乗り込んで爆笑した。
シルエラと、アハハうふふと我が家の男共を笑いながら目的地へと走り出したのだった。
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「……なにっ?」
「…馬鹿?」
「愛らしすぎるぞ!カナメぇぇ!!」
「馬鹿父上!演技だよっ!騙されたんだよ、僕達!」
「いや、騙されたとしてもいいものをみた……そう思うだろ?我が息子!!」
「………そう、かな?」
「やってくれといって、素直にやってくれる娘ではない。あー幸せだ〜」
「たしかに…可愛かったなぁ」
「なにっ?!いくら息子でも、娘はやらんぞ!!」
「……」
「…本気か?」
「わかんない。僕まだ13歳何だけど…」
「…そうだな。また、あのカナメを見られますように…」
「うん…」
12歳で幼少期終了。
16歳で成人。