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要の意味  作者: かなりあ
16/63


ハンター街にギリギリ位置するこの宿は、浴場が男女別れていて、長年の…いや、2ヶ月弱だが、夢にまで見た温かい湯が堪能できる。

今、それを独り占めし、幸せを満喫中だ。


何故敢えてこの宿なのか…


馬車を預けた近くではあるが、ハンター組合所から遠く、商店街や酒場も同様離れている。


それなのに、何故…



『風呂に入れ。』



この命令口調、無愛想様の優しさからなのですよ。

あーありがたや〜。

死ぬ前は、寒かろうが雪が降っていようが、風呂なんてめったに浸からなかった。

生前は、人生の大半を損していたと思わざるを得ない。


「はあ…明日は覗きにいってみるかな。」


我が家へ。


手紙を渡したから手配も直に消えるだろうし、偶然会ってしまう前にナハルを出て行くべきだ。

2人にもそう言ったし、近々出るだろう。

その前に、元気な姿が見れたらいいな…


ここは、懐かしい。落ち着く…

王都から飛び出して、濃すぎる2ヶ月だった…

そのあとの、この穏やかさ…哀愁感半端ない。


だが、今から新しい旅と思うとワクワクドキドキと、胸が高鳴る。


なんてゆうの?これ





…冒険?…私はガキか。ふふふ






ーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーー



その頃、俺はアルと…部屋で武器の手入れをしていた。


「明日組合行って、手配の確認ついでに配達系の依頼あったら受けるぞ?」

「手配が取り消された後ならな。」

「おう」

「明日、シュベルド家に書簡をだす。俺らの正体を明かし、内密にと厳命した上でカナメの保護を約束する。」

「…そうか。その方がいいだろうな。下手に嗅ぎ回られたらうっとうしいし…なんせ親バカだしな。」

「…かなりの溺愛ぶりだったようだ。領民から人気の厚い領主が、息子と一緒に自ら探したようだ。ハンターの方にも頭を下げたらしい。領民も、息子の必死ぶりに感銘を受けたと噂していた。そんな領主家族を、領民も心配している有り様だ。身元が分かるだけで、少しは安心するだろう。」

「俺も聞いた。民の女が、カナメは死ぬわけ無い!って叫んでたぞ。すっげー迫力だった。おそらく悪ガキ仲間だな。とんだお騒がせ令嬢だ。くっくっくっ」

「…流石だな。ここはいい領だ。視察報告もいい返事を書ける。父上も、不本意な差別の犠牲者、変わり者令嬢の保護ぐらい許してくれるだろう。」

「親父っさんの一番好きそうな人種だろう。引き抜かれっぞ?ハハハハッ」

「…幸い、嫁探しは終わってない。帰ることもあるまい。」

「渡したくねぇって?」

「……」

「やっぱり嫁に…」

「それはない…」

「…だよな。でも、偉く気に入ったな。うちの大事な戦力だぜ…減っちまうのは勘弁だ。アイツで笑えるし。」

「くっくっ、お前は遊ばれているがな。」

「付き合ってやってんだ。子供の世話だ。」

「カナメの子供のふりには弱いよな。アル…」

「お前もやられてみろ!マジたち悪いぜ、アイツ。」



「ただいまただいま〜マジ、風呂最高〜!」


な、何だ、その格好は…


華奢な身体に程よく膨らんだ膨らみ…

腰に流れる曲線…

白く長い、全く頼りない細い足は…



下着姿でここまで帰って来たと言うのか?



「「………」」

「ん?どうした?」

「お、お前、服着ろや!なんつーかっこしてやがる!」



「ん?タンクトップと、短パン着てるぞ?あー麦酒貰ってくるわ。風呂上がりの一杯は格別『駄目だ!』…ギルまで、どうした?」


言えない…ガキだ何だと言っておいて、女のその体を他人に見せるな、なんてことを…

いや、俺も見てはいけないだろう!


「………」

「服を着てからいけ。いいな?そのあと説教だ。淑女たるものを教えてやる!」

「…あぁ!それなら知ってる。んー…足を出しているから悪いのか?隠すとこ隠してんだ。そんなに気にすることじゃないだろう?」

「気にしろ!」

「わかったわかった。ズボン履く。履けばいいんだろ?ったく…暑いってのに。」


ズボンだけのつもりか?

コイツは分かってるのか?自分の身体を…


「…上も着ろ」

「は〜?上も?…チッ……」


バタン!


乱暴に扉を閉めて出て行った。


「…胸…あったんだな…あれで14!?詐欺だ…」

「…………」

「俺…自分が心配になってきた…万が一俺が…止めてくれよ!ギル!」

「…ああ…」

「……地獄だぁぁああ!」

「……娼婦行ってこい」

「…ま、まだ大丈夫だが、16になる頃には…あームカつく!アイツは…中身は男だ。無い!心配ない!」

「そうだ。大丈夫だ。」

「……明日行こう…娼婦。」

「…………」



「遅くね?」

「………」

「ちょっと俺…」


ギィーー


「うお!びっくりした。どっか行くのか?」

「…い、いや…」

「ふーん…ふぁ〜あっ、眠っ!寝るわ…私は気にせず作業してくれ。おやすみ」

「お、おう!おやすみ…」

「ああ…」

「お、俺らも寝るか。な!」

「…そうしよう。」






寝台に入り、目を閉じた。


しばらくそうしていたが、眠れる気がしない。

アルもそうである様で、寝付きが良いはずなのに布の擦れる音が聞こえる。





カナメは、不思議な奴だ。

普段は生意気なガキ。

言葉遣いが悪く、仕草も態度も男のもの。

戦闘時は、細身の身体を生かして機敏性に長ける。

そして、その身体のどこから出ているのか不思議なくらいの力。

男であろうと暴れ牛を1人で引きずるなんて余程の者じゃなければ無理だ。

処理も的確で素早く、俺らと遜色はない。

わからないことは見て覚え、それでもわからないなら、教えを請う。

若者特有の思い上がった自尊心などない。

だが、自分の意志、信じた知識にはここぞとばかりに主張する。

間違えがあれば謝るが、そうでなければ負けない、譲らない。

侯爵という身分も重要ではなく、個々でみる。

外見が主なのは置いといて、そんな人物は稀だ。


ましてや女。それに齢14の子供。

こんな女に会った事なんて無い。

こんな気概のある子供なんていない。

女は権力に擦りより、自分の容姿に驕り、他を見下ろしたいだけ。

そんな貴族の女ばかり。

市井の民もだ。身分を語れば擦りより、ハンターだと見向きもしない。

カナメは、どう違うのか…


どうしても知りたくて聴いてみると、


『ギルと言う人と仲間になった。次期侯爵は付属品だ。私に必要なのは、信用出来る対等な仲間で、付属品は関係ない。今は対等なんて言えないけど、すぐ追いついてみせる!困ったときは言えよ?じゃないと貸しが返せないからな…』


なにが貸しなのかわからなかったが、身分を知りながらアルと同じ、『俺』として見てくれる貴重な存在。


子供だからわからないわけではない。

自分の立場がわからないのではない。


権力は必要じゃなく、『俺』が必要なのだ。



ーーそう、実直に言ってくれる、思ってくれる者が俺にも必要なのだ。ーー



そう、カナメに言いたかったが、口には出なかった。



女のガキを仲間と言う次期侯爵は馬鹿にされるだろう。


だが俺は、コイツはもう掛け替えのない存在で、手放したくなんてない。

共に…少しでも長く…




だが、部屋は分けるべきだ。


14の女とはどうしても見えない上背と、体つき。

それに気づいてしまった、意識してしまったからには離れなければ、カナメが危ない。

これでも、精気旺盛な年頃の男だ。

自制を失い、過ちを犯して、仲間を失いたくはない。

俺も、アルも、理性との戦いを強いられる。

それから逸らす方法は……


妹…いや、弟と思い、言い聞かせよう。

自分自身に。


よし、弟の為、書簡を書かなければ…




アルの微かな鼾が聞こえる。

眠れたようだな…


寝台からおり、音を立てずに歩み寄る。

カナメの横に位置する書机に。

椅子に座り、書き始めるが、どうしてもこちらを向いて寝ているカナメを意識してしまう。

どうしたものか…

動揺など…


「うっせー!はやくし…よ!……」


くっくっくっ…寝言はまるで色気がない。



そうだ。意識するまでもない。

『女』としてではなく、俺も『カナメ』として見よう。

カナメと言う人間とそうなることなんて考えもつかないことだ。


『女』を意識しすぎただけだ。




俺はもう大丈夫だ。






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