手紙
あっという間にナハルに着いた。
1人、苦痛のナハル脱出劇は何だったのかと、軽くショックを受けた。
ハンター組合所に泊まるかと思いきや、宿にするらしい。
「会いに行くんだろ?」
「…会わない。手紙にする。」
「…何故だ」
「ウィルナードに捕まったら逃げられないだろうし、エヴァに会ったらあいつ、泣きそうだ…シルエラも。自惚れかもしんねーけどな。」
「……」
「ま、手配のことと、無事を知らせりゃ大丈夫だろう。私は見つからないように覗くけどっ!ハハッ」
「…わかった。」
「…会えばいいのによ…ま、俺らは皮売ってくるからな。」
「うん。私が行っちゃ捕まるからよろしく。あ、フード付きの服買って来てくれないか?」
「おう、わかった。適当に見てきてやる。」
リュックに入っている、日本産シリーズ…ボールペンと、茶封筒、手帳を取り出し、手紙をかく。
手配を取り消してもらって……
死んでないということと……
アルとギルは…書いちゃ駄目か。
仲間ができた…ぐらいは言って良いよな。
皆、元気か?
窓の外をふと見ると、見知った顔が見え、思わず隠れる。
シスルだ!
何故こんな所に…
あ、組合所に聞きに行くのか?
すまん、シスル。迷惑かけて…
首から下げた、勝手口の鍵と一緒に通してある指輪を握る。
無くしてないぞ、シスル。
…そうだ、シスルに手紙を渡そう。
書き直し、書き直し!
丁寧にかくと、私か?って疑うかもな。
偉そうにかいてやろっ!
びっくりするだろなー。
「ふふふ…」
翌日買ってきて貰った、カーキ色のフード付きローブをきて、町にでた。
もちろん手紙も持って。
毎日は流石に来ないか…
しばらくウロウロしてみたが、結局渡せず仕舞いで宿まで帰ると、玄関先で調度アルとギルに会った。
「おお〜その服買ったのか?」
「おう!やっぱ俺も欲しくなってな。」
アルは黒い外套で、ギルは黒に近い灰色。
「色違いとか仲良しだな!」
「気色悪ぃ事言うなよ…機能せ・い!機能性がよかったの!…って、ギルも脱ぐな!」
「ハハハハッ!ウケるわ〜!でもアルが黒って意外だな。」
「渋くいこうかと。」
「ふふふ…まあ、良いんじゃない?」
さて入ろう…として、今日探していた人物がギルの向こうに見えた。
サッとギルを壁にして隠れる。
いや、隠れてどーすんだ?
でも、手紙を渡したら、サッとバイバイしたいしな…
こっそりポケットに突っ込むとか…
「…何をしている?」
「……………あ、ごめんごめん。シスル…家の護衛が居たからさ………あ!」
閃いた!ギルは、ゴツいから却下。
まだマシなアルの方がいいかも。
アルの前に行き、外套を掴む。
「ちょっと失礼…」
「な、なんだ?!」
「いや、中に隠れて行こうかと…」
「は?」
「ほら、あの黒服の茶髪分かるか?…あいつとすれ違ってくれ。その時に手紙を落とす。いい?」
「いや、いい?って…こん中に入るのか?」
「うん。」
「…ギルじゃ、」
「ギルはキツそう。…駄目なの?」
あれです。少女モードです。首傾げて切ない顔です。外套掴んだままだから、バッチリなんじゃないかい?
「……わかったよ!やる…やってやる!」
「フッ」
素晴らしい!子供の特権。
「私、前見れないから、手紙落としたら教えて。ギルもおいでよ。行けー!見失うぞっ!」
「あー振り回されてる俺…ぐっ」
「ククッ…わからないもんだな…」
「重い…ぶら下がってやがるコイツ。」
『歩くと足見えるじゃんか!』
「フクククッ…よくこんなこと思いつくな。」
『まだー?』
「まだ追い越してもねーって。」
…………まだか?
…………分厚くて透けないから全くわからん。
…………ムアッとする、ムアッと!
…………腕もキツくなってきたぞ。まだか?
「…今だ」
ーーー探すな!ーーー
『なっ!?カナメ!?…どこだ!』
焦ってる…くっくっくっ。ヤバい面白すぎる!
アル!お前は笑うな。バレるバレる。
『……メ!あいつ、ふざけやがって!!』
「い、いったぞ。くくくくく…めちゃくちゃ怒ってたな!」
「ブハッ!暑かった〜。大成功?イエーイ!」
にやけ顔のアルにハイタッチしてみたが、手を出さなかったので胸を思いっきり叩いてしまった。
「いってぇ!」
「手を合わすように2人で叩くんだよ…駄目だな〜アルは。ギル…イエーイ」
パァンッ
「バッチリ!さー帰ろ帰ろ〜」
「俺の働きで、成功したのによぉ…」
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ーーーーーーーーーーー
「…どうしたシスル…」
「はぁ、はぁ…先程カナメ…お嬢様から手紙を…!」
「なっ、なに?!どこで?!話はしたのかっ?」
「…声を聞いた、が正しいです。探すな、と一言。追いかけようとも姿はなく、足元にこれがありました。探しますか?」
縦長の茶封筒に入った、愛娘からの手紙を取り出す。
シスルヘ
手配を取り消せ。
探すなっていっただろ!
それに私は生きてるよ!
大丈夫。
仲間ができた。
何かを得てから戻る。
私の家はそこだけだ。
黙って私の帰りを待っとけ!
家族に元気だと伝えてくれ。
それと、周囲のうるさい奴には娘じゃないと言え。
私の計画の邪魔になる。
正式に養女になれるように頑張ってくるからさ!
また、手紙を書く。
カナメ
「ははっ…お前への手紙だ。ほら………元気らしい。探すのはやめようか…カナメは生存報告してくれるようだ……………良かった…」
気が抜けたように椅子に背を預け、片手で目を隠す主にソッと微笑む。
「はい…良かったらエヴァ様に渡してください。少しは元気になるかと…」
「…そうか?すまんな。早速渡してくる。ありがとな。」
。
翌日、ウィルナード様は、侯爵家からの書簡を見て「カナメは、もう安心だ」と、呟いた。
侯爵家となにか関係があるのかもしれない。
あれから不定期で手紙が届く。
家族全員に宛てて書いた手紙ならいいんだが、個人で来ると、くだらん争いになる。そんなにカナメの手紙が嬉しいのか?
俺に手紙はいらねぇから、巻き込むな。
睨まれ、嫉妬される身になれ!迷惑だ。と、カナメに言いたい……
ある日、変な折り方をした紙が馬に踏み潰されていて、まさかと思えば案の定カナメから……
部屋から手紙が見つかって大騒ぎになることもある。
忍び込んだのかと思って、悔しく、イラッとした。
忘れかけていたその日、白い鳥がエヴァの部屋に入っていったのをみた。
その瞬間閃いた。
俺は飛んできた方へ走った。
間近に迫った黒髪の走る後ろ姿が手をあげる。
その手は、指を二本突き立てていた。
「ははっ…やられたっ。」
笑って力が抜けちまった。
ーーーピース。イタズラ成功って意味だーーー
次話、時はシスルの回想前に戻ります。