歳の弊害
ん、あったかい…
「……はっ!…」
「…んん……」
アル!?……ごめん!無意識とはいえ、膝枕は…
勝手に枕代わりとは、図々しいにも程がある。
まぁ、熟睡出来たよ、ありがとな。
……バレてないよな?
退散退散!
「…見張りありがと。町じゃないってのに熟睡しちゃったよ…」
「別にいい。その分疲れがとれる」
「…ほら…昨日も言ったけど、夜の見張りとか、御者とか、出来ないってヤバいと思うんだ…てか、出来ないのが嫌なんだ。」
「…経験だ。数を積めば出来るようになる。昨日はまだ初日だった。心配せずとも教えてやる」
「ホント?なら、今日から?」
「…ああ。御者やってみろ。…だが急がなくて良い。お前はよくやっている。」
「なっ、何?やけに優しいじゃん…」
「…そうか?…そうだ、お前は飯番だ。頼むぞ」
「うん、わかった!」
「…毎回だぞ?」
「ずっと?毎回?」
「そうだ。」
「マジかよ!責任重大じゃねーか…えーっと、どうしよう?ハンバーガーでいいかな?んー…ギル、野菜持ってないよな?」
「…ない」
「ですよね〜。了解でーす…ホントにどっかに生えてねーのか?…ナハルにはあったのに…」
「野菜を探してたのか?」
「うん、昨日な。肉を包んで食べようとしたんだけど、なかった…ギル、肉焦がさないように見といてくれ!パン取って…あ!顔洗うわ!」
「…ああ。」
朝飯も食べて、準備もOK。
いざ出発!
「…ギル、荷車で寝た方がいいんじゃないか?」
御者の後ろで、腕組んで座ったまま寝ているのだ。
「大丈夫。いつもの事だ。」
「へぇ〜…私は横にならないと眠れない。」
「ハハッ、何処ででも熟睡してそうだぞ。お前」
「繊細なんだよ!」
「クククッ、ないない。あんな寝相で安眠してたやつが。」
「…あんな寝相?」
言うな。バレてない。バレてないはずだ!
「ここ蹴られただろ〜?布もとられたし…」
「あー!!ごめん!もういい。言わないでくれ!……最悪だ……」
「ハハハハッ!よく組合所のあのベッドで落ちなかったな。」
「…落ち掛けたことはある。夢で、穴に落ちるんだ。そこで起きる…」
「分かる!夢じゃねぇが、落ちる感覚!」
「おお!あれはホント、心臓に悪い。こう…ヒュッってする!柵つけて欲しいわ…」
「ハハハハッ!ガキかよ!…ガキだったな。ククッ…てか、お前何歳?」
「あれ?言ってなかったか?自称16歳で、推定14歳。精神28歳だ。」
「……………」
「おーい!聞いてんのか?」
「…………14?」
そんなにびっくりする?どっちかっていうと、28歳の方が本当なんだけど…
「……ん?14だが…」
「…う、嘘だろ?…拾われたのは何歳の時だ?」
「…9歳で、にじゅ『うわぁ!』」
「ま、マジかよ…お前、14で飛び出したってのか?よく…よく、無事だったな…」
「いや、アル?」
「………お前、やっぱシュベルド家に戻るべきなんじゃないか?」
「アル…」
「だから、手配までしてさがしたのか…」
「……アル…」
何故そんなこと言うんだ?
認めてくれたんじゃなかったのか?
この先も一緒に行くんじゃないのか?
たった2つの違いで、その資格はないのか?
「アルっ!!聞いてくれよ!!私は、14だ。だがな…だが、駄目なのか?!たかが2年で大人なのかっ?私は、確かにひとりじゃ生きていけない。でも、お前らに力借りて、出来ることして、それで、それで…認めてくれたんじゃねーのかよ!馬鹿野郎!!」
くっそぉ…私は無力だ…なっさけない…
泣くな…泣くな…泣いたら終わりだ。
ガキじゃねーんだ!
ふわっ
な、な、なんだ?!
は?
黒…い服?……ギル?
抱きしめられてる!?
「っ、ぎる?」
「アル…コイツの歳は関係ない。腕も、頭も…覚悟も俺らと遜色ない。そうだな?」
「そうだ…だが、成人前だ。保護者が監督する義務がある。第一、それを親が求めている。愛するが故に。コイツも離れたくて離れた訳じゃない。思うが故に、だ。」
ギルに頭を撫でられながら聞こえる、アルの真面目な言葉。口調。
アルも、私を思って言っている…
「そうだ。だが、それで男爵家は良くなるのか?確かに気持ちは安心するだろう。だがそれだけだ。コイツが偉業をなし、イベルナ人嫌いの伯爵を見返し、男爵家を認めさせるまで、カナメは後ろめたいままなんだぞ…それが最良か、否か…どっちだ!!」
アルの答えを真剣に聞きたくて、ギルの体を押し、アルを見た。
「………成人まで、保護者監督されるべきだ。急がなくても出来る。その間、学び、策を練り、仕掛ける準備をする。家族と一緒に考えるべきだ。」
「…カナメに決めさせる…俺は、どちらでも受け入れる。考えろ。」
「俺も、自分の意見は言った。お前は、どちらを選んでもかまわない。お前の力は申し分ないし、よく考えて決めたなら文句はない。もし帰るとなっても馬車代は気にするな。成人したら取りに行ってやるからよ…」
「……私はっ……うん…ありがとう。アル…ギル……ちょっと考える……」
荷車に籠もることにした。
アルの意見…
そういう方法があるとは思わなかった。
策を練る…
私はただ突っ走り、から回っていたのか?
ギルの言葉…
私の意見を最大限に尊重してくれている。
全く持ってその通りだ。
帰って、ウィルナードが、私のわからない所で悪意に晒されるのが嫌なのだ。
アルか、ギルか…
帰って、策を練るか…
家族と…
会いたい。
楽しい日々に、
幸せな日々に、戻りたい。
だけど、策は出るのか…?
ウィルナードに知恵があるのか?
ハハッ、馬鹿だけど、馬鹿じゃないよな。
知ってるよ。
私達に見せる馬鹿っぽいとこは、私達を笑わせるため。
知ってるよ。
補佐官とシスルと、領地の為に、見て、考え、模索していることも知ってるよ。
話し合えば、考えつくかもしれない。
では、そのわからない答えがでない間は?
私がシュベルド家にいる……
それでは、その間、家族は耐えるしかない。
それが嫌なのだ。
もういないと嘘をついて、伯爵を納得させて、泥を拭ったとしても、露見すれば一環の終わりだ。
やっぱり答えは帰らない、だ。
それで、シュベルド家は安心だ。
だが、私が戻る為、貴族を認めさせる偉業ってなんだ?
それがハンターで出来るのか?
闘王か?
なれるわけがない。
なれたら、最強の傭兵集団と、ハンターのトップ。
利用価値はある。
が、国の脅威が、国の、一、男爵家についたらどうなる?
戦時中じゃあるまいし、具合が悪くなるのは間違いない。…逆に帰れないだろう。
ま、ありえない話だが。
何かで国に貢献し、男爵家の戸籍を恩賞代わりにもらうって感じか?
そっちの方が望みがある。
いつになるかわからない。
でも、そっちの方がいい。
ウィルナードには、水面下で策を練ってもらうことにしよう。
私は私で、動く!
何で恩賞をせびれるか、考える。
国に感謝されることはなんなのか…見つけるんだ!
幸い、私の仲間は国の貴族。
知っていること…気づくこと…
旅をしていると、そういうことがあるに違いいない。
それに、コイツらとまだ一緒にいたい。
決めた。
私は、アルとギルと、一緒にいる!
御者席に繋がる布をめくり、2人の後ろに座る。
緊迫した空気は、私が緊張しているからか…
「決めたよ。私…ん?」
違う…何か……いる…
周りを見ても、なんの変哲もない山道。
だが、視線…
「狙ってんぞっ。」
「アル、御者は頼んだ。カナメは弓を持て。」
「了解!」
弓を取り構えると、草が不自然に揺れ、複数いることが分かる。
「挟まれてる!来た奴から殺れ。」
「そっちは任せるぞ…」
「うん、任せろ…」
ギルが、いつもは抜かない普通の剣を抜き、私も前に集中する。
振った気配がして、そっちから来たかと思った時、こちらも姿を現した。
近い一匹を反射的に、射る。
頭を打ち抜かれた狼は転がり、視界から消え、次を、また次をと3本射ったら、飛びかかって来た狼を剣で切り裂く。
もう一匹斬ったら、警戒して少し離れた狼…3匹。
「もうすぐ草原に出るぞ!」
「わかった………また増えた。今からが本番だ」
6、7…8…何匹増えようが、やることは同じだ。
飛びかかられる前に矢を放ち、飛びかかられたら、切り、刺し、跳ね返す。
馬を殺られないよう気をつける。
恐怖は感じなかった。
確かにピンチだ。
取りこぼせば私どころかアルも危ない。
アルは手が離せず、右はギルが、左は私が。
数が多い分、今までで一番追い詰められてる。
だけど、自分が失敗するなんて一つも思わない。
ただただ力がみなぎった。
『任せる』
それだけで。
やっぱりこれだ。
ギルはやっぱり上に立つ人間だな。
やる気になる。
自信が出る。
「私、決めたんだけどっ…!」
「あん?」
「帰らないことに決めたー!」
「いや…今言うか?普通…」
「いつ言おうがっ、一緒。…あぁ〜毛皮が勿体ない………回収行く?」
「行くか!馬鹿!」
「いいのか?…それで。」
「うん!あっちはあっちで考えてるはず!私は、次期侯爵とその従者に、ご教授頂くとするよ!」
「カハハッ、ギル〜!利用されるぞー!ハハッ」
「うわ〜人聞き悪っ!知恵出してもらうだけじゃねーか。減るもんじゃ無し!」
「…わかった。利用されるとしよう。」
「利用じゃねーって!…だから、権力使うなよ?私がやるんだからな!手柄は私の物だ!ハハハッ」
「えー?!ハハハハッ…森を抜けるぞ!」
視界がパァッと明るくなり開ける…
「引いたな…」
狼達は走りを緩め、引いていった。森で決着つけたかったようだ。
「だな。毛皮勿体ない…」
「しつけぇな…」
「なんせ私、借金してるからな!」
「ククッ…精々頑張れ」
「はぁ〜い…」
夜には村に入り、宿に泊まった。
今更部屋を分けようとする2人に、私に女感じるのかと呟いたら、拳骨を落とされ、三人部屋をとった。
冗談だったのに…
晩飯の時、何の嫌がらせか、アルが私をガキ扱いして酒を盗ってきた。そりゃあもうムカついて、幼女趣味野郎と叫んでやった。
ざまぁみろ!
朝になり、少し買い出しをして出発。
川で水を浴び、爽快感が半端ない。
夜は野宿で、今度は2人に野菜を食わせてやれたから大満足。
夜の不寝番を少しさせてもらって寝た。
朝、次は侯爵膝枕事件に会った…いや、会わせた?が、知らん。私は知らんぞ…!