喧嘩
出発の朝……
「さぁ、出発だー『こっちだ!』ぐぇっ…」
アルからラリアットをくらい、方向転換させられた。
「ゴホッ…なにすんだよ…」
「いいから。こっち来い!」
「……」
仕方なく言われるままついていくと、アルが馬屋に入っていった。
…馬を借りるのか?
出てきたのは、馬と荷車。
「借りたのか?あれを…?」
「…昨日買った。」
「かっ!……さすが金持ち…」
高いんじゃねーの?馬二頭もいるし…
やっぱ貴族は、金銭感覚ちげぇもんな…
「おーい。行くぞー!」
「ああ…」
「すげぇ…お邪魔しま『なにいってんだ?割り勘だぞ?』…マジ?」
「ったりめーだ。お前は俺らに借金だ。馬車馬のごとく働きやがれ!」
「…いくらだった?」
満面の笑みを向けてくる。
「7500ネル!出るぞ!」
「ああ。」
「一人2500ネルか。まあ、ふた月で余裕か…」
返せないことはないな。
今日からの移動で狩っても、肉以外なら溜め置けるし、故障さえ気をつければプラス確定だ。
「問題です!」
「は?」
「12ネルの晩飯を5人で食い、100ネル払って、残りは酒代。お釣りはありませんでした。さて、酒代はいくらだったでしょう?」
「40ネル」
「…ほう」
「うっわ、即答?」
「いや、簡単すぎんだろ。馬鹿にしてんの?」
「なら、なら、んっとなー…」
「…640の馬を23頭。330の牛を17頭仕入れ、隣町で売った。馬は900、牛は540で売れた。儲けはいくらか。」
「いやいや、無理だって。書くもん『9550!』…」
「…馬の儲けは…『…5980』牛は?『3570』……やるな。」
「まあ、得意だからな。」
ソロバンが。
「…経理、担当する?」
「拒否する!相場がわからん。」
「はあ…」
そんなこんな言いながら出発した。
襲ってくる獣もなく、暑いだけで快適な旅だ。
馬を休ませがてらに狩り。
私は馬車を操縦出来ないから、狩り専門。アルとギルが交代で見張り。
いつもの戦闘スタイルで、警戒役がいない分の負担は増す。
けど、依頼じゃない分ノルマはないし、たくさんあっても食べきれない。
クーラーボックスなんてないから、その日のうちに食べられる分を…
「だーーー!!スパイスかけすぎだ馬鹿!」
「濃いめが好きなんだ!」
「肝臓病になって死ねや!あー…私の肉が…」
私のウサギさん…
火炙り塩胡椒まみれ…否、塩胡椒包みだ…
なんだ?まさか、キャンプが初めて…なわけないわな。
「ギル…アルはいつもこれ?」
「…ああ。食えんことはない」
「馬鹿タレ!そんな優しさはいらん!塩の取りすぎは体に悪い。だいたいな、この国の料理が濃すぎるんだ。平均寿命、絶対短い!だろ!?」
「…この国…?…60前後だ。」
「食いたいように食わせろよ…」
「毎日じゃなきゃいい、と言いたいが、やり過ぎ。辛いのがいいなら…これはどうだ?」
リュックから乾燥唐辛子の瓶を取り出す。
昨日、買い出しのときに、民族衣装を着た露天商の店で見つけたのだ。
他にもオカリナっぽい笛とか、幾何学模様の厚い布とか買わされてしまったが…
まだ焼いてない肉に、ニンニクと塩胡椒、唐辛子をふりかけ揉む。
串に刺して火で炙り…
「焦げないように見てろよ!」
「変なもんかけやがって…肉の無駄だぜ…」
「……毒々しいな…」
「毒!?お前、殺す気か!!」
「馬鹿!なんでこれから一緒にいるやつを殺すんだ。アホだろ…毒見してやるからもう少し待て。」
アホか!せっかくうまいもん食わしてやろうとしてんのに…
…あーやっぱ野菜は生えてねーか…
サラダ菜ぐらいありそうなのにな…肉を捲いて…あー悔しい!
「ん、旨い。麦酒が欲しい!ほら、食え!」
蒸留酒で、ピリピリする口の中を流す。
結局サラダ菜はみつからなかった。
でも、満足。
パンに挟んで食べようかな〜。
「あ、ギルっ!」
ギルが一口食べたようだ。
どうだ?旨いだろ?………
「…いける。」
「だっろー?ふふっ。……食えよ。従者殿!ハハハッ」
「…チッ…わーったよ!っん!食ったぞ……辛っ…うはっ!ん、うはい。」
「なにいってんのかわかんねーよ。そう言えば、ごめんなさいが聞こえないなー」
くくっ、旨かろう旨かろう。従者殿。
「………」
「めちゃくちゃ疑われたしな…あー傷ついた。私はただ旨いもん食べてほしいだけだったのになー…私みたいな奴は、やっぱ信用出来ねーんだな…病気にならないようにと思って言ったことも余計なお世話だったんだ…あー仲間ってのは…そうか…そうだよな…」
「っわかった!ごめん!旨い!…これは旨い!悪かったって…すまん。」
軽く下げたクセのある金髪頭に手をおく。
ピクリとして、頭を上げようとするのをグッと押さえた。
「私っ…私は……」
駄目…駄目だ。我慢できないっ!
「アハハハハ!」
アルがスクリと立ち上がるに従って手が落ちる。
逃げろ!ギルの盾だぜ!最強!
「カ、ナ、メ…舐めやがって!!」
「ハハハハッ!舐めてない。舐めてない。ふふっ、ハハハハ」
ギルの周りをグルグル回る。
「チッ!すばしっこい…コラァ!」
「うおっ!っぶねー…だってさ、ホントの事じゃん、か!…おっと。疑ってたのは!」
「そりゃ、食ったことないもんは疑うだらうが!」
「……うっとおしい!」
ゴッ!!
「「痛っ!」」
悶絶する私とアル。
ゴッて鳴ったぞ?ゴッって…
「…座れ。座って話せ。」
「……いった〜!絶対へこんだ…」
「………」
「………」
「えっと…何だっけ?疑うだろうが!か…」
「それに俺は謝った。」
「…そうだな。これでチャラだ。」
「…チャラ?」
「お互い様ってこと。」
「バカにしたじゃねーか。演技までしてよお!」
「演技…したな。だってさ、私が食べても信用してくれねーし、悲しかったのは本当だ。ギルが食ってくれたからそんなことどーでもよくなったけど、アルには仕返ししてやった…」
してやったり!
ヤッパリ悪戯は面白い。
「…悪かった。」
んん?突っかかってこないのか?
……まあ…うん…そう言われるとこっちが悪く思えてくるじゃねーか…
いや、悪くねーだろ?悪くは…
「あー、もー!………私もゴメン!別に気にしてねーからっ!アルの気持ちも分かる。だから、もう終わり!飯、食うぞ飯!」
「…照れているのか?」
「ちっ、ちげーよ!腹減ってんだ!」
「ハハハハッ!カナメ…さっきの肉くれ。」
「ふふっ、旨かっただろ?食え食え…ほらよ。ギルは?」
「ん、頼む。」
「はいよー!」
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「ん、アイツはそろそろ寝たかなっ…と。俺も酒のもっ!」
「……」
「アイツホントに女か?やられたぜ…」
「…悪くはない。」
「何が?」
「裏表がない。真っ直ぐだ…」
「…かもな。でも、なんつーか、腑に落ちねぇ…アイツ、ホントにガキか?」
「…わからん。ガキっぽくはある…が、あいつの手際。そして俺らへの気遣いはどこか大人びている。」
「マジ?負けず嫌いなアイツが気遣い?」
「…ああ。わからないなら邪魔にならないとこで、見て覚えようとする。俺らで何かを決めても、文句も言わん。それに、アルが忙しくしてたら何も言わず、手伝いに来るだろう?まだあるが…出来るか?16かそこそこの男爵家育ちの女が…」
「………マジか…」
「ああ。女なのがもったいない。」
「……そうだな…でも、本当に女なのかも怪しいぜ?」
「…女だ。カナメは毎日明け方に起きて浴場に行く。」
「…まさか、覗いたのか?」
「…阿呆か…明け方毎日動く気配がして、後をつけ、浴場に入るまでを見た。薄暗く、誰も起きてさえいない、ましてや、冷たくなった湯しかないその時間に…見られたくないからだ。そうだな…例え、醜い傷とかだとして…男が女と嘘をつくか?」
「…つかねぇな…アイツんなことしてんのか…いや、しざるをえないのか。」
「…ガキで、女の身。アイツの目的もそれでは難しい。なのに潰れない。強い。カナメは…」
「強すぎだ。ギルに突っかかっていくぐらいだ。…冗談だ。」
「…そう言えば…カナメは外の奴かもしれん。」
「外?」
「国外の人間。イベルナとの混血かと思ったが、聞いたことのない言葉をたまにきく。」
「ああ、それは俺も思ってた。」
「…今日、お前が胡椒をかけ過ぎたときいっていた。この国の料理は濃すぎる…」
「…アイツ、何者だ?…でも、5年前にシュベルド家に拾われたんだろ?…捨てられたってのが濃厚かな…あんなやつが間者なわけねー!…もしそうなら…相当だぞ?」
「ああ。あれは演技ではないだろう。…それに、怪しかろうと見て居ればいい。こんなこと思うのはあれだが…これから何をやるのか…楽しみだ。」
「ククッ…俺もだ。面白そうだな…振り回されんだろーけどなっ!ハハッ」
「…くくっ、今日のお前、くくっ。」
「笑うなよ…くそっ!……でもさ、悲しかったんだとよ。あの跳ねっ返りが…可愛いもんだ。」
「…そうだな。」