告白返し
ーー晩はガルドの酒場に集合。あの件の話し合いだ。わかったな?ハーイ解散っーー
極めて軽く言い放ってバラバラに去っていった…
一瞬呆けてしまったが、私もサッサと旅の準備を終わらせなければ。
後は保存食と、武器、防具の手入れ…あと、洗濯だ。
肉用袋はすぐに洗わな気が済まん!
だれか、洗濯機発明しないかねぇ…
ほら…手回し回転とか、ローラー水切りとか、テレビで見たことあんだけど…
でも構造わかんねぇし…
はぁ…バカなこと考えた…
荷物を揃え終わって、後は告白の返事を聞きに、待ち合わせ場所へ…
「くふふ…告白って…私が2人同時にとは、やるなぁ」
冗談を思いつくぐらい、心は落ち着いていた。
だって、別に断られたって、また戻って捕まえればいいと気づいたから。
生きてさえいりゃ大丈夫だ。
ドンとこい!
ガルドの酒場には私が一番乗りだった。席に座る前に…
「ターニャ、ちょっと話が…」
「何の話だ…」
「ガルドさん…も…聞いて欲しい。…俺、一旦帰省するから当分来れなくなる。死んだと思われるのもなんだし、一応報告しとこうと思って!ターニャにもガルドさんにも何かと良くして貰ったしさ。」
「そうなんだ〜。……寂しくなるね…」
「俺いないと寂しいの?」
「あ?」
「はははっ、冗談。ちょいちょいお二人さん、耳かして。わたしは実は…………『女』」
「っえ〜〜〜!?」
「しー!秘密だぞ?」
「……」
「えっと…う、うん…わかった。でも、ホントに?だって……」
「…言いたいことはわかる。でも、ついてない。」
胸がねぇっていいたいんだろ?それとも髪か?
下半身を指差してそういうと…
途端にターニャの顔が真っ赤になり、口をパクパクしている。
純だなぁとほのぼのしてたら頭に石が落ちてきた。
「いってぇ!…拳骨…?」
「お、お父さん…」
「嘘吐いた罰だ。これで許してやらぁ!」
「大丈夫?」
「あはは…マジ痛い…良かった。許してくれて…ターニャに会いに来れなくなっちまうとこだった。」
「…無駄にカッコイイこと言わないでよねっ!…ふふふっ」
「ざんね〜んっ!ふられた〜!!」
大袈裟にリアクションすると、周りからヤジが飛んできた。
『あったりめーだ!』
『アイツ命知らずだな…』
『ターニャちゃんはみんなのもんだ!』
その瞬間カウンターにドンッと包丁が突き刺さった…
それはもう、禍々しい殺気で、客全員が凍りつく程のもの…
「ゴラァ!俺の娘は、俺のもんだ!どいつが言いやがった!!」
………………
…………………………
この静寂をぶち破る天使がいた。
「…お父さん?みんなの冗談だよ。ほらほらお料理お願いしまーす!」
「…ターニャ最強…」
「ん?」
「…む、麦酒をひとつ…」
運良く一波乱の後に入店してきたアルとギル…
まだ動揺の残るざわめきに違和感があるのだろう。
アルが首を傾げている。
「…なんか」
「しっ!後で説明する…俺がやらかした。ハハッ」
「ん?…まあいいけどよ…麦酒2杯頼む!」
『はーいっ!』
乾杯して、くだらない話をしていると、徐々にいつもの騒々しさが戻ってきた。
なので、私が発端の修羅場を説明。
アルは、ビビる真似をしておちゃらけただけだったので、ちょっと悔しい。
是非あの場に居てほしかった。
晩御飯も食べ終わり、ちびちび酒を飲んでいると、遂に前触れとも呼べる沈黙が流れた。
切り出したのはなんと…ギル。
「…俺らも言わねばならないことがある。出るぞ…」
なに?何ですと?!出る?……
ターニャにまた来る、と声をかけ、ギルについていった。
ギルは淡々とどこかに向かっていて、アルはズボンのポケットに手をいれ、ダラダラと隣を歩いている。
静けさが緊急を煽る。
心臓がバクバクしだして逃げたくなる。
しかし…ギル達が話さなければならないこと…?
着いた場所は、門扉の閉められた教会の前だった。
階段に座ったアルが私に座るよう促し、ギルも腰を下ろした。
端から見れば怪しげな光景だな。
ダベる場所が教会の前とはなんたる不謹慎!と怒鳴られそうだ…
信仰は全くないけど。
「…俺らも、カナメの内情を聞いたからには、こちらも話さなければ道理が通らない。だから、お前がこの先どうしようとも、漏らさないと誓って貰いたい…いいか?」
全然意味わかんねぇけど、漏らされたくないことを話してくれるんだな?
「…うん。誓うよ。」
「………俺はこの国の貴族、フレデリック侯爵家の嫡男だ。アルは従者。」
「ちゃくなん?」
「あー…長男、跡継ぎってこと。」
「なる程………で?」
「…そんだけ?」
アルが情けない声を出す。
何で?可笑しい?
「…あ、何でハンター?」
「ハハハハ!ほら、やっぱカナメは、最高だ!貴族?何それ?みたいな!」
「ちょっ、うるさい!近所迷惑だっ。」
「クッ、クヒヒヒッ……ククッ」
「何だよ…真剣な話何だろ?馬鹿にする奴はあっちいってろっ」
足でゲシゲシ蹴って遠ざける。
「………くくっ…」
「お前も!…って、ギルが笑ってる!嘘!奇跡が…」
あーあ。指摘したら引っ込めちゃった…
天地がひっくり返る程の奇跡だったのに…
「…まぁ、事情があってだな。ハンターをしている。」
「ごまかした…アル、ギルがごまかした!」
「く、ハハハハッ!むり!もう無理!笑い死ぬ!俺を、殺してくれ〜!アハハハハ」
「…アホか。お前はもう喋るな。…で、その事情を話してくれんの?」
「…ああ。別に対したことじゃない。実戦で腕を磨くため。それと………」
「それと?」
「………」
「嫁探し!」
「…チッ」
「よめ?ギルに嫁?…またまた…無理難題を…ブッ」
嫁?ギルが恋人探し?こんな無愛想男無理だろ!第一女と接触もねーじゃん。せいぜい店員ぐらいだ。
いや、まあ真面目なコイツのことだから真剣に探してんだよな。
それはそれで…ウケるわ!
「ハハハハッ…んっ…はあ、はあ…笑って…ごめんよ。本当の獲物は嫁なんだな。」
「グハハハハ!やめれ!やめてくれ!」
「…………」
殺気が出ているよ…ギル…
「…あ、アルは付いてきてるだけなのか?コイツも嫁探し?」
「…いや、コイツは恐らく親が決めるだろう。」
「ふーん。ご愁傷様。」
「え?可哀想なの、俺?」
「そうなんじゃないのか?だって、宝石豚とか、香水のドギツイ奴と結婚するんだろ?…いや、ちょっとしかみてねーし、いい子いたかもしんねーな…」
「ほ、ほ、宝石豚…クククッ…」
「…口が悪いぞ…」
「…いーんだ。心ん中で、だけだから。それより……ギルは見つけんのが大変だな。目があってもビビらない子で、話上手で、尚且つその巨体と合う…いねぇ!諦めろ。…いや、ごめん…諦めた時に現れるもんだ。どっかで聞いたし、多分、いづれ見つかるさ。」
「…他人事だな」
「そりゃそうだ。まずはギルが目を付けなきゃ始まんねーからよ。つーか、私も恋とか知らねえし。」
「お前らくっついたらいーんじゃねぇ?」
「ハァッ!?」
何満足気に頷いてんだよ…
あ、そうだ…
「ハハッ、私に惚れたら火傷するぜ?」
「「…………」」
「…黙るなよ…言ってみたかっただけだ。ふん…」
黙られたらハズいだけじゃねーか!
「……帰るか」
うん。帰ろ…
じゃなくて!
何しにきたんだよ!返事だろ?
「ちょい待てい!今後の話し合いはどーなった?」
「………………………」
「……俺らも明日街を出る」
…うそだろ?
「え?なんで?…やっぱ、駄目ってこと…か?」
探し出せるかわからなくなる…
せめて、どこにいくのか…
「付いていく」
「だっ、誰に!?他の奴のとこに入ったのか?」
誰だ!?
…そうなると無理だ。コイツらだけ説得しても無理ってことだ。誰だそいつ!!
「カナメに」
「カナメってーと…は?!」
私?私についてくる?は?!
ってことは…まだ一緒にいる?
「今決めた。いいな、アル?」
「御意に…」
「う、うぜぇ…貴族語…じゃなくて、ホント?待ってるじゃなくて……ついて来る?」
ギルの胸ぐらをひっつかみ、間近でガンつける。
落として、そんで持ち上げといて、嘘でした。とか言ったらぶっ飛ばすぞ?
こちとら切羽詰まってんだ。
「本当だ。」
笑った…優しい微笑み。
月のような、仄かな笑み。
別人みたいだ。
いつもそうなら…
いや、ギャップ萌えだな。
いや、違うだろ。今本当だって言ったよな?
「…本気と書いて、マジ?」
「マジ」
「ィやった〜!!ありがと!マジ、いい奴〜〜〜〜」
やったー!嬉しい!
ついて来てくれる。
抜けなきゃいけねぇと思ってたのに。
また一人で何日も歩く予定だったのに。
寂しく恐々行くことを覚悟していたのに。
なんて心強い!
「……離れろ、阿呆」
ああ、すまん。思わずだきついちまったぜ。
だがな、ポイッと捨てるこたないだろう?
いや、そんな扱いでもいい。
私を受け入れてくれるなら。
仲間でいてくれるなら。
「アル!くぅ〜〜〜!やったぜ!」
「いてぇっ!抱きつくな馬鹿!馬鹿力!」
うるせぇ!わざとだ、ばーか。
「ふふっ」
ーーーうるせぇ!何時だと思ってやがる!ぶっ殺すぞ!!ーーー
「やっべ!逃げよう!退避退避〜!!ハハハハッ」
走りながら思う。
ウィルナード、シルエラ、エヴァ…
私は、仲間を手に入れたぞ!