告白
告白仲間になって、20日ぐらいたった。
アイツらも、2人だったときより狩る量も増え、時間も短縮、金回りも向上となれば文句もないだろう。
トラブルもおこしていないし、厳しいながらも剣の訓練をしてくれる。
こんな順調で良いのだろうか…
と思っていた矢先だった。
『…カナメ…お前に話がある。』
依頼から帰ってきて早々、ハンター組合所の受付でそう言われ、一人部屋に通された。
「座れ」
無言で座ると、話し出した。
「名前はカナメ。黒髪の子供。ナハルの領主から手配がかかっている。」
「………」
「心当たりはあるか?」
「………どんな罪状で?」
「…それがない。行方不明の娘を探している。目撃情報も随時受け付ける…だそうだ。…お前は女……か…」
涙がでた。
探していると…
なんて馬鹿な父親だ……
そんなおおっぴらに探すなんてアホだ。
目撃情報なんて、金ばらまくだけじゃないか!
それに、私が居なくなった意味もわかっちゃいない。
「…私だ。手配は取り消してくれ。自分で会いに行く。」
「…そうしろ。この場合、依頼主からでしか手配は取り消せない。早くしろよ。ここでは掲示板に出さないでおくからな…話は以上だ。」
「ありがとうございます…」
アルとギルに話さなければならない。
こんなに早く別れがくるなんてな…
ここまでして探される嬉しさと、せっかく仲間が出来たのにという悔しさがごちゃ混ぜになり、胸が重い。
勿論このまま素直に帰ったりはしない。
家族が後ろ指さされたまま気にせず暮らすなんてしたくない。
一度会うか、連絡をするか…
この話をアルとギルにしたら、また一人になるんだろう。
まだ信頼とか言える程一緒にいないし、私も信頼していなかったから、全てを話せなかったのだ。
でも、こうなったら話さずにはいられないだろう。
抜けろと言われるかもしれないが、正直に話そう。
黙って、嘘ついて行くぐらいなら、誠意を見せよう。
情けなく縋ってでも、戻ってきていいか聞いてみよう。
そうだよな…
呼び出しなんて、何事だと思うよな。
部屋で、難しい顔した仲間が待っていた。
「なんかやらかしたのか?お前。」
「…真剣な話するけどいい?」
「…ああ」
「ちょっ、ちょっと待て。ここでか?!」
「ふふっ、何焦ってんだよ。…そうだな。扉は閉めようか。」
バタンと扉を閉め、着替えを済ませていた2人はギルのベッドに座り、椅子を置いて向かいに座る。
「…はぁ。今まで黙っていた、嘘をついてたことがある。私は『女』だ。」
「はぁっ?!…おんな?女って、おまえ…」
ギルでさえ、目を丸くして表情がでている。
「だよな。ククッ…ごめん。そんなに反応してくれるとは…ウケる。ふふっ」
「い、いや、笑い事じゃねーから…マジ?」
「マ・ジ。…で、今ここにいる経緯をはなすよ。ええと…」
ナハルの領主に拾われたこと。
5年暮らして、血の繋がりもないヤンチャな私を家族は愛してくれたこと。
家を出るキッカケ。
胸を張って帰れるようになりたいということ。
そして、私が、罪状もないのに手配されていること。
話し終わるまで黙って聞いてくれた。
「そして私は、まだ、アルとギルの仲間でいたい。嘘をついてたし、ムシのいい話しだとは分かってる。でもこれが、私の正直な気持ちなんだ…頼む!手配を取り消したら戻ってもいいか?」
「「…………」」
「…明日の晩までに返事をくれ。明後日の朝には出るから。」
言うことは言った。
仕切りに隠れて着替えを済まし、逃げるように部屋をあとにした。
出る準備しとかなくちゃな。
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ガルドの酒場では、仲間になってからいつも一緒に乾杯した。なのに…
今日の訓練での、説教もない。
アルとの飲み比べもない。
呆れ顔のギルもいない。
ターニャの『あの二人は?』の言葉が辛い。
待っても、アルとギルは、来なかった。
飲んでも呑んでも酔えない。
やっぱ……ショックだなぁ…
部屋に戻ると2人は寝てた。
明日で終わりなんて、嫌だ……
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翌朝もいつも通り目覚めてしまった。
あまり眠れず、体が気怠い。
それでもムクリと起き上がり、浴場へ…
最近になって、朝は肌寒くなってきた。
真水の行水は歯がガチガチいう程だ。
暖かい湯船が恋しい…
部屋に戻ると、アルとギルはもういなかった。
布団に入っちゃおうかとも思ったが、久々に体力作りのジョギングでも行くか…と思い立ち、万が一の為剣だけ腰にさすと一階にでた。
…え?
「カナメー!行くぞー!!」
はい?アルと、ギルよ。どこに…って…
「お前なんも持ってきてねーじゃんか!依頼行くぞ、依頼!」
「ま、マジ?ちょっ…持ってくる!」
なんだ?依頼行くとかきいてねーし!
「ふふっ、やった。いつものアルとギルだった。」
仲間と言うのはこういうものなのかもしれない。
地球での友達は、こんな気持ちにはならなかった。
居たら居たで面白い奴ばかりだし、気を使うことも無かったが、人の態度でこんなに一喜一憂することもなかった。
過酷な状況や、生活がかかっている訳じゃないから比べるのは可笑しいかもしれないけど。
一緒に居たいと、
もっと楽しみを共有したいと、
肩を並べたいんだと、
そう思える相手。
それが、仲間…「友達」だ。
昨日一緒に居なかった違和感なんて何処にもない。
いつもの狩りと、アルの軽口、ギルの零度の視線。
「私、今超楽しい。ハハッ」