試験
翌朝、準備満タンで一階の依頼掲示板を見ながら待った。
うん。超はりきってる。
ぞくぞくとハンター達が入ってきて暫く、アルとギルがやってきた。
ガキの私と一緒にいたら、ガキを使う下郎と蔑まれたら不本意だ。だから、テーブルに座って待った。
仲間になれたら堂々としてやるつもりだが、まだ正式に仲間になれるかわからない。
何気なく、離れてついて行こうと、タイミングを計っていたらアルに手招きされた。
馬鹿!コッチは気を使ってやってんのに!
ため息をついて近寄ると、背を向けて組合所の外へでた。
今日の依頼は、暴れ牛二頭。草原に群れでいて、バッファローみたいな黒牛だ。
あと余裕があれば追加も有りらしい。
大物を殺ると息巻いているアルを尻目に、私は緊張でいっぱいだった。
私はアルとギルの采配一つで失格になるのだから。
草原に付き、群れはすぐに見つかった。刺激しないように近づき、アルとギルから荷物を受け取って、岩影に隠れた。
途端に全力疾走の挟み撃ちである。
アルは二剣使い。ギルは大きめの一剣だ。
威嚇し、体当たりしようとする暴れ牛をひらりと避け、首に剣を差し入れたアル。
何を思ったか、暴れ牛の脳天に剣を刺し、宙返りして背中に乗っているギル…
ドスン、ドスンと牛が倒れて唖然とした。
びっくりした。
めちゃくちゃ強いじゃないか!
ギルはもう一頭狙うらしい。
私もやることをやらなければ!
私は無心でやった。
全力でやれば牛は引き摺れた。岩に引っ張り上げて血抜きもしたし、皮剥もうまくできたと思う。
その間、アルは手伝ってくれたし、ギルは警戒していた。
ヤッパリ人数は多い方がいいと実感した。
私も暴れ牛を殺す事は出来なくはない気がした。三人なら。
アルは私にびっくりしていたようだった。
何がかはわからなかったが、力があるだとか、剥ぎ取りが上手いとか、そんなプラスなことだと嬉しい。
問題があればすぐ言うだろうし、そう思いたい。
袋に詰め込んで、革手袋から手を抜き取ると、手とナイフを水ですすいだ。
思ったより早く済んだので、歩きながらどうするのかと聞いたら、スイカが生えてる場所があるんだって。
嬉しいね〜。
夏にはスイカだよ、スイカ。
ターニャにあげたら?と言ったら、アルは大袈裟にキョドった。笑って、緊張がほぐれた。
その場で食べようとするギルに、冷やさなきゃ駄目だと抗議し、大荷物を抱え、走って帰った。
ホクホク顔で少し冷えたスイカにかぶりつき、気になっていたことを聞いてみた。
「なぁ、いつからハンターしてんの?」
「一年程だ。」
「まぁ半年しか旅はしてねぇけどな。」
「ん?何歳?」
「18」
「ええー?25ぐらいと思ってたよ…」
「いやいや、それはねぇだろ…」
「ハハハッ、そう落ち込むなって!」
今日は任務成功と言えるだろう。
荷物持っても走れるぞとアピールしたし、無駄なく牛処理できた。
晩飯ぐらいは奢ってと少しの期待を込めて聞いたら、ギルの無言の頷きをいただいたので、万々歳だ。
晩飯はターニャの所と、約束をして別れた。そして武器屋に寄ったり、作業場で武器道具の手入れをしたり…
ターニャの店の名前はないらしい。オヤジがガルドって名前だから、ガルドの酒場が通称になってるんだってさ。
アルがスイカ渡した時に聞いてみたんだ。
意外に照れまくって話さないもんだから気を使ったよ…
私は仲介人かよ!
まあ、今日の私の駄目出し評価のことは触れなかったので、ホッとして眠りに就いた。
2日目も難無くおわった。くまさんデカすぎだ。って言うのが感想かな。
2人の息の合った連携は、目を見張った。仲間を増やしたらすぐに上級に上がれるだろうに…ギルは残念なやつだな。
まあ、そのおかげで私にチャンスが巡ってきたんだが…。
そして最終日。
またも暴れ牛。
そして、ギルから「殺れ…」……と。
…やってやらー!最終試験は戦闘だ!!
「何匹殺んの?」
あー調子乗った…
「3…無理はするな」
ありゃ?…お気遣いどうも。
「行ってきます!」
手針を出して、呑気に草を食ってる獲物に投げる。狙いは目。
ああ、独りで暴れてる。そいつの周りに居る驚く牛の背に飛び乗り、下りると同時に首を落とす。
次だ。
逃げる牛の足を斬りつけ、動きを鈍らせ、首筋に刺し、切り上げ、致命傷をあたえる。
そして暴れに暴れる目刺し牛。
残虐だなぁ、私。
さよなら。
骨を断つ感触が伝わり、牛から離れた。
三頭転がったこの光景は、ただただ無残だ…
モノクロに見える風景。
荒い息を止め、歯を食いしばりながら牛を引き摺り、処置を施す。
ふと影が差して、頭にポンと手を置かれた。ギルだった。
認められた瞬間だった。
視界の色が戻って、ニッと無理矢理口角をあげて見上げた。
そしたらアルが駆け寄ってきて、言ったんだ。
「これからよろしく、カナメ!」
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お試し期間中、ダメ出しも褒めもしなかったアルは、鬱憤を晴らすかのように質問責めを仕掛けてきた。
答える合間もない攻撃にイラッとして、チョップを食らわせてやった。
「作業しながら答えてやる」
「…どっちがガキだ…」
「ホントその通り…」
「そんなことはいいからさ、何でそんなガリガリの癖に力あるんだって!それとあの身軽さ!猫か?猿か?」
「…手を動かせ。百歩譲って猫は許す。猿は余計だ」
「怒ったのか?…なぁ!ギルも気になってただろ?」
「まあ…」
「さぁ…そんな体質だっただけ。だと思う。兄と一緒に訓練はしてたけど…」
「なら、兄貴もお前みたいな動きすんのか?!スゲー!」
「いや…もうそれでいいよ…手を動かせ!手を!」
「ハイハイ……へぇ〜どっかの山奥で、密かに暮らしてる種族とか…」
なにやら変な妄想してるアホはほっといて、手を動かす。
ギルは言わずとも、辺りに目を光らせながら 処理をしている。
真面目なんだろう。
二人とも悪そうな奴じゃ無い。
いつか私が、欠かせない存在になれたとしたら、女だと言っても許してくれるかな…