05-04 四日目のホームルーム。
「ええ。
今日から再び、元の教室が使用可能となりました」
高杉先生は一年D組の生徒たちに告げる。
「一時限目の授業はこのまま視聴覚室で行いますが、二時限目以降の授業は元の教室で行われるので注意してください。
それから、皆さんもご存じの通り、今朝、昇降口においてゲーム関連で多少のトラブルがありました。
学校の備品や下駄箱内に入っていた生徒たちの靴や上履きが多数損壊し、それ以外にも、多数の生徒たちが重軽傷を負っています。
ゲームの進行上やむを得ないのかも知れませんが、ゲームには関係のない人や物に被害を出すことはできるだけ避けるようにしてください」
朝のホームルームのことである。
この朝のホームルームは、授業開始前のごく短い時間を当てて生徒たちに連絡しなければならないことを告げるために使用されることになっている。
この高杉先生の言葉もそれほど的外れであるとはいえないわけであったが、だからこそ、「多くの事物に損害を与える」ゲームの存在を自明視していることが異様であった。
教育者としても良識のある社会人としても、そんなゲームの存在を首肯することこそがかなりおかしいのだ。
「質問があります」
三峰が手を挙げ、高杉先生が反応する前に立ちあがってしゃべりだした。
「ゲームに関係することです。
リライターの力で、このクラスの関係のない人たちや物などへの被害をなくす、あるいはなかったすることにすることは可能であると推測します。
たとえば、このクラスの者以外へは、スキルの影響が及ばないようにするとか。
なぜ、そのような設定を行っていないのですか?」
そういう三峰の顔は、意外に真剣なものだった。
「このままでは、無関係な第三者にも被害が拡大することを前提としているようにしか思えません」
「第三者への被害については、リライターが関知するところではありません」
高杉先生は、いつもと同じ口調で、異様な論理を口にする。
「むしろ、そうした影響があるという前提で、皆さんがどのように判断し、行動するのかを観察することも含めて、このゲームの存在意義があります。
どのみち、このゲームが終わりさえすれば、すべては元通りになるのですから、皆さんが気に病むことはありません。
それでも気になるというのでしたら、皆さん自身の努力によってこのゲームを一刻も早く終了させることです。
そうすれば、すべての被害はなかったことになるのですから。
周囲にどのような被害が起きようとも、このゲームの進行を妨げることはありませんので安心してください」
「……それは!」
都井宮子が立ちあがり、激しい口調で抗議する。
「あまりにも身勝手な理屈ではないですか!
現に、大勢の人が傷ついているというのに……。
たとえ物理的な被害が修復されるとしても、心理的な被害についてのフォローがまったくない以上、ゲームを主催をするリライターは周囲への影響を最小限に留めるように努めるのが筋だと思いますが!」
都井の言葉に、教室内のそこここで無言のまま頷く生徒たちが続出する。
「正直にいいますと、先生もそのように思います」
高杉先生は、淡々とした口調で答える。
「ただ、リライターは、そのようには思っていないようですね。
というより、彼らにとっては、その心理的な影響というものが、そのようなものが存在するということも含めて、まるで想像できないらしいのです。
今回のゲームは、彼らがそのことを研究するために仕掛けた実験であるといっても過言ではありません。
彼らは、知性を持つ存在ですが、その知性は必ずしも人間らしい感情を伴っているわけではないようです。
彼らがそうした人間らしい感情を理解するための一助としても、このゲームは大事なものなのでしょう。
すなわち、このゲームを速やかに進行させることこそが、彼らの人間への理解を助けることにも繋がるはずです」
「やばいな」
「ああ。
かなり、来ているな」
高杉先生が教室から出ていくと、席が近い小諸準と須賀泰治が小声でそんなことを囁きあう。
「あの高杉先生が、リライターなんてわけのわからないもんの都合を第一に考えているし……」
「そんなのは、このゲームがはじまったときからのことだろう」
須賀は、そういって鼻を鳴らした。
「それよりも、あんな事件があったのに平然と授業をやろうとしている方がよっぽど異常だ。
何十人って重軽傷者が出て、あんだけ救急車がピストン輸送しているんだぞ。
こんな騒ぎがあったら、休校になっても不思議ではないのに……」
「最初のときに、授業とか部活のときはゲームを中断するとかいっていたし、どうやらリライターとかいうやつらは、学校の活動をかなり優先させるつもりらしい」
小諸は、げんなりとした口調でいった。
「場合によっては、人的物理的被害の大小に関わらず、そっちの方を優先している。
まったく、やつらがなにを考えているのかわからない……」
「なにしろ、エイリアンだからな。
おれたちのことを大きく誤解しているのか……それとも、最初から理解できていないのか」
おれたちが納得できる理由はないんじゃないのか?
と、須賀は、疲れた声でいった。
「……なんで、誰も来ないかな……」
その頃、無人の一年D組の教室内では、スキル『ぼっち王』を発動しながら自分の席についていた知念はなが、誰にともなくそんなことを呟いていた。
叶治郎と眞鍋伸吾との決闘の痕、血痕なども昨日一日できれいにクリーニングされ、この教室は普段とまったく変わらない佇まいをみせている。
それだけに、知念以外の生徒たちの姿が見えない寒々とした様子は、かなり異様に感じた。




