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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
三日目
52/109

04-25 乱入者。

 あ。

 これは駄目だな。

 ゴルフクラブを振りかぶった芦辺素直の姿を見て、渡来治樹はそう思った。

 なにせ、自分の体が思うように動かない。

 重ねがけがどうこうといっていたから、なんらかのスキルの作用だということは推測できたのだが、渡来は林道鈴の『パラライザー』はおろか、芦辺の『自動筆記』、睦月庵の『ファイブセンス』のこともよく知らない状態だったので、この三人のうちの誰のスキルの作用なのかまではわからなかった。

 それよりも、地べたに寝そべって指一本動かせない今で、芦辺に「スキルを寄越せ」と迫られている状況の方が重要だ。

 渡来は、できるだけ冷静になるよう、心の中で自分自身を叱責する。


 この危機からなんとか逃れる方法はないものか?

 それとも、芦辺の要求をすんなり飲んでスキルを渡すべきなのか?

 

 ……本当に、これ以上、抵抗することはできないのか?


 様々な想念が渡来の中で渦巻く。

 体は動かせないものの、思考は意外に明瞭だった。

 芦辺がいうとおり、この状態のままでもスキルの譲渡は可能だろう。

 試しに渡来は、自分のステータス画面を表示させてみる。

 なんの問題もなく、今では見慣れた画面が目前に広がった。


 シーフ Lv.9 ◇特殊系

『対象から経験値を奪う。

 レベルがあがると、経験値意外のものも奪えるようになる。


 説明分に明記されていないが、昼間に新堂零時が予想した通り、発動条件は「相手の体との物理的な接触」だった。

 このステータス画面を一瞥して、渡来はあることに気づく。

 レベル九。

 あと少しで、レベルは二桁になる。

 この「経験値意外のものも奪えるようになる」という記述に賭けてみてもいいのではないか?

 幸いなことに、今、渡来の体には、林道の肉の薄い体が覆いかぶさっている。

 ……どうせなら、まだしも女性らしい体型をしていた睦月に密着して欲しいところであったが、贅沢をいえる立場ではない。

 重要なのは、林道が渡来の体の上に座り込んで、渡来の胸のあたりに手をかざしているという事実。


 詳細に考えるまでもなく、渡来はスキル『シーフ』を発動して、林道から「経験値」を奪った。


 再度、ステータス画面を確認してみても、スキル『シーフ』のレベルはあがっていなかった。

 このスキルを使うときは、決まってなにかが体内に入り込む感触がするのだが……今回、この林道から奪えた経験値はかなり少ないのだろう。

 渡来は、そう想像する。

 感触でいえば、初日のテストプレイ直後に、矢尻知道から経験値を奪ったときの感触に近い。

 この林道は、当時の矢尻と同等のレベルくらいにしかスキルのレベルをあげていないらしかった。


 ……逆転ならず、か。


 と、渡来は表情筋も動かせない状態で、内心、歯噛みをしている。

 あと少しで、レベル十に達する。

 そうなれば、なんとかこの局面を脱することもできる……のかも、知れないのに。


 芦辺がゴルフクラブを振りかざしながら、なにか喚いていた。

 平静な声を出そうとしているらしいが、間違いなく芦辺は興奮している。


 ……あ、やばいかな。

 と、渡来は思う。


 渡来はこれまで、何度か喧嘩沙汰に巻き込まれた経験がある。

 今の芦辺は、小心なやつが暴発する寸前の挙動に、よく似ていた。

 本人は冷静になろうとしているのだが、だんだんと自制が効かなくなってきている、その途中の段階だ。


 ……ここは、おとなしく、いうことを聞いておくか。


 ついに、渡来は決心する。

 こんなところで怪我をするのも、つまらない。

 リライターがいうことを信用するのなら、「ゲームが終わればすべて元通り」になるらしいのだが、だからといって好んで痛い思いをすることもない。

 それに、たかがスキルだ。

 欲しくもないのにリライターによって勝手に押しつけられたモノ。

 そう考えれば、手放すのも惜しくはない。


 渡来が「スキルを渡す!」と決意した直後、すぐにスキルを譲渡のための確認画面が出現する。


「なんか出たよー!」

 林道はそういって、渡来の体の上から退いた。

「譲渡画面だな」

 血走った目をした芦辺が、相変わらずゴルフクラブを構えながらいった。

「どうするの、これ?」

 少し離れた場所に待機していた睦月庵が近づいてき来る。

「スキル『シーフ』、か」

 芦辺は、呟いた。

「なにを盗むのか知らないが……取りあえず、林道。

 お前が貰っておいてくれ」

「いいの?」

 林道は、小動物じみた挙動で首を傾げる。

「今、この三人の中で一番レベルが低いのはお前だ。

 今後のことを考えても、お前の底上げはしておいた方がいい」

「アイアイサー!」

 林道は、確認画面に手を伸ばした。


 そのとき。


「……ちょっと待ったぁ!」

 なにかが、渡来の直上に落下してきた。

 その塊を腹の上でまともに受け止めた渡来は、身動きできないながらも内心では悶絶している。

 人間一人分の重量がいきなり自分の上に落下してきたら、それなりのダメージがあるものだ。

 その衝撃により、渡来は意識を失った。

 渡来の意志により表示されていたスキル譲渡のための確認画面が、消失する。


「……おま……なんで、今……ここに……」

 芦辺は、切れ切れに呟いて茫然としている。

「……あー!

 結衣ちゃんだー!」

 唐突に落下してきた物体、比留間結衣を指さして、林道が叫ぶ。

「もう少しで成功したのに……」

 睦月は、げんなりとした表情をしていた。 

「……で。

 なんだってあんたが、こんなところに出てくるわけ?」

「ふふふふふふ」

 比留間は、芝居がかった調子で笑い声をあげた。

「空中散歩をしていたら見知った人たちがなんかやっていたので、少し前から様子を見ていたのだよ!」

「いや、それはいいけどさ」

 睦月は、半眼になって比留間を睨む。

「つまりあんたは、このチャラ男の味方をするっていうわけ?」

 睦月が、比留間に踏まれたまま白目をむいている渡来を指さして、そういった。

 渡来治樹は、入学早々、クラス中の女子に無差別に声をかけまくって以来、ほとんどの女子に毛嫌いされていた。

「……チャラ男?」

 学校指定のジャージ姿の比留間は、自分の足元をはじめて確認した。

 そこではじめて、自分が助けた……いや、攻撃した相手が「渡来治樹」であることを知る。

「……うわぁ。

 ナンパくんじゃないかあ!

 いったい誰がこんな姿になるまで……」

「……いや。

 ほとんど、お前のせいだろ……」

 芦辺が、力ない声でつっこみをいれた。

「……というか……比留間お前、相手が誰なのか確認もしないで乱入してきたのか?」

 芦辺は、そうもつけ加えた。

「うん!」

 比留間は、薄い胸を張って答えた。

「だって、三対一だったもん!

 それって、卑怯じゃないか!」

「……卑怯もクソもあるか」

 ぼつり、と芦辺は呟く。

「もともと、そういうゲームだ。

 そんな手でも使わなければ、弱いスキルを引いたやつはいつまで経っても奪われる側だ」

「……それもそうか」

 意外なことに、比留間は芦辺の言葉にあっさりと頷いた。

「誰もが、委員長みたいな強いスキルを与えられていないしな」

「ああ、そうだ」

 芦辺も、頷いた。

「特にこの三人は、全員、攻撃力をほとんど持たないスキル持ちだ。

 弱い者同士、結託してなにが悪い」

「……んー……」

 しばらく考えたあと、比留間は結論を出す。

「そうだね。

 これは、普通の喧嘩とかじゃなくて、ちゃんとしたゲームだもんね。

 誰かと手を組むのも、戦略と考えれば……」

「わかったらさ、もうどこかに行ってくれない?」

 今度は睦月が、比留間に告げる。

「それとも、わたしたち三人とこれからスキルの奪い合いでもする?」

「いいや、やめとく」

 比留間は、ぶんぶんと首を横に振った。

「別にあんたたちには恨みもなにもないし」

「……結局、あんた、なにをしに出てきたわけ?」

 睦月は、不機嫌な声を出した。

「いいところで、邪魔をして……」

「……お呼びでない?」

「まったく、お呼びでない」

「……こりゃまた、失礼しましたぁ!」

 捨てぜりふのように叫んで、比留間は出現したときと同様の唐突さで空中に飛び去った。

 より正確にいうのならば、ジャンプしたあとに空中でバタ足して推進して、あっというまに空高く舞い上がっていく。

「……結衣ちゃん、まったねー!」

 去っていく比留間にむかって、林道が手を振った。

「……空を飛ぶ……いや、泳ぐスキルだったか」

 芦辺は、呟いた。

「役に立つのかどうかよくわからない、微妙なスキルだな」

「それはいいけど……」

 睦月は、地面で伸びている渡来を指さす。

「……どうすんの、これ」


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