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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
三日目
51/109

04-24 はじめての狩り。芦辺素直、睦月庵、林道鈴。

「林道。

 ちょっと間、睦月が身動きを取れないように押さえておいて」

「ん。

 いいよ」

 林道は特に疑問に思うこともなく、隣に座っていた睦月に抱きついた。

 それを確認してから、ボールペンを握った芦辺は、

「睦月庵の体重とスリーサイズが知りたい」

 と口に出した。

「……ちょっとっ!」

 睦月は暴れはじめるのだが、林道が睦月の体に両腕をがっしり回して羽交い締めにしているのでろくに無動きが取れない。


 芦辺はそのままの姿勢で、動きを止めていた。


「……このように、このスキル『自動筆記』も、知りたいことすべてを教えてくれるというわけでもない」

 芦辺はそういって、自室から持ってきた紙の束を示した。

「だけど、このスキルのおかげでゲームの攻略に必要な情報は、ほとんど手に入る」

「……あんたねぇー……」

 睦月の声は、怒りで震えていた。

「これ、全部芦辺くんが書いたの?」

 林道は、びっしりと文字で埋め尽くされたコピー用紙の束を手に取り、無邪気に感心した声を出した。

「芦辺くん、意外に字が汚いんだねえ」

「とにかく、だ」

 芦辺は、二人の態度に頓着せずに、言葉を続ける。

「ぼくの『自動筆記』があれば、かなり確実な作戦立案が可能だし、これに睦月の『ファイブセンス』が加われば、リアルアイムでの情報収集が容易になる。

 さらに林道の『パラライザー』があるとなれば、これはもう失敗しろという方が無理なくらいだろう」

 この三人が手を組めば、かなり効率がいい狩りができるはずだ……というのが、芦辺の結論だった。

「……いいたいことは、理解できるけどね」

 少し気分が落ち着いてきた睦月は、そういってため息をついた。

 睦月だって、好んでリスキーな行為に手を染めたくはない。

 芦辺がいうとおり、この三人が手を組めば、限りなく危険度を減らして他の生徒たちのスキルを奪うことが可能になるのである。

 特に林道鈴のスキル『パラライザー』は重要だった。

 実際にそのスキルを使われた芦辺によると、スキル『パラライザー』を使われると、体は動かなくなるものの、意識ははっきりとしているという。

「その状態で、三人で取り囲んで、スキルを寄越せと詰め寄れば……」

 誰も傷つけることなく、円満にスキルを集めることができるのではないか。

 と、芦辺はいう。

 睦月にしても、無闇に他人を傷つけて悦に入る趣味はなかったから、平和的に解決が可能ならばそちらの方がいいに決まっている。

 林道は……なにも考えていないのだろうな、と、睦月は思う。

 これまで深いつき合いをしてこなかったから知らなかったのだが、この林道鈴はかなり刹那的な行動をしてしまう子であるらしい。

 思慮が浅い、というか、物事を深く考える習慣がないというか。

 ひとことでいうと、「単純」なのだ。

 今日、芦辺をいきなり襲おうとしたことからも明らかなように、自分の行動の結果を予測する、ということをしようとしない。

 幼いというか、拙いというか……とにかく、短絡的なのだった。

 今も、林道はゴディバと紅茶の味にほだされて、すっかり芦辺のことを「いい人」認定してしまっていた。


「林道。

 睦月に『パラライザー』を使ってみて」

「アイアイサー!」

「……ちょ……」

 文句をいう間もなく、睦月の全身が硬直する。

 まばたきさえ、できなかった。

「うん。

 これが、パラライザーの威力か」

 芦辺が、もっともらしい顔をして頷いている。

「自分にかけられたときはよくわからなかったけど、見事に動けなくなるもんだな」

 そういう芦辺は、先ほどから自分の腕時計を睨んでいた。

「……睦月。

 そのままの状態で、自分のステータス画面を表示できる?」

 続けて、芦辺にそういわれた睦月は、正直なところ芦辺のいう通りに動くのは癪ではあったが、自分自身でも興味があったので試してみた。

 ステータス画面。

 と、睦月が考えると、いつもの通り、目前に睦月の現在のステータスが表示される。


 ファイブセンス Lv.158 ◇特殊系

『五感が研ぎ澄まされる。

 威力はレベルに依存』


 しばらくして、睦月は唐突に身じろぎした。

「んん!」

 と不機嫌そうな声を出して、睦月は芦辺を睨む。

「……こういうこと、されたくないんですけど……」

 芦辺を睨みながら、睦月は低い声を出した。

「二分五十秒前後。

 おおよそ三分だな」

 それには答えず、芦辺は淡々と続ける。

「林道、自分のステータスをチェックしてみて。

 レベルはあがっている?」

「ん!」

 林道はそういって、何回かまばたきをした。

「……レベルは、相変わらず一のまま!」

「一回や二回、スキルを使用しただけではあがってくれないか……」

 芦辺はそういって、なにやら考え込む顔つきになった。

「それでは、短期決戦に賭けるしかないから、やはり一度に一人しか相手にできないな」

「闇討ちするっていうこと?」

 睦月は、芦辺に問いただす。

「それ以外に、勝機はないね。

 学校では、絶対に誰かしらの邪魔が入る」

「……でしょうね」

 睦月も、芦辺の言葉に頷いて見せた。

 一対一の決闘ならが、遠巻きにして見物するだけで済むかも知れない。

 しかし、三人で誰かを取り囲んだとしたら、かならず誰かしらの干渉を呼び込む羽目になるだろう。

 その辺のことについては、睦月自身も何度か頭の中でシミュレーションを行っていたので素直に納得ができた。

 林道は、二人のやり取りに興味を示さず、残っていたゴディバを貪っていた。

「……ものは試しに、これから誰かを襲ってみるか」

 そういって、芦辺はボールペンを手に取った。


 ……しかし、スキルのネタが割れちまったのは痛いなあ……とか思いながら、渡来治樹は日が暮れた街中を歩いている。

 部活にも入っていない渡来の帰りがここまで遅くなるのは、毎日なにがしかの店を渡り歩き、同年輩の少女たちに声をかけて歩く習慣があるからだった。

 俗にいうナンパなわけだが、いつもは何名かの男子で連れだって歩いているのでそれなりに反応がある。

 流石にすぐにノリノリで同伴してくる女は少ないのだが、メアドの交換くらいは頻繁に成功し、それが縁になってグループで遊びにいったこともある。

 二十前後の女性から、飯を奢られた経験もある。

 その年頃の女性から見ると、渡来たちの年頃の少年たちは頼りなくてからかい甲斐のある弟のような存在であるらしい。

 しかし、この日は渡来一人だけだったので、これといった成果はあげることができなかった。

 いつも連んでいる他のクラスの連中は、「ゲームのとばっちりを受けたくない」といって、しばらく、渡来と同行することを拒まれてしまった。

 数名の男子で、やはり数名の女子に声をかけるから過剰な警戒心を呼び起こさないわけで、渡来一人が見知らぬ誰かに声をかけても露骨に警戒されるだけに終わった。

 林道とはまた別の意味で物事を深く考える習慣がない渡来は、それでもめげずに何度か声をかけ続けたのだが、駄目なものは駄目だった。

 ……ま。

 こういう日もあるさ。

 と、渡来は思う。

 本人もあまり自覚していなかったが、渡来の目的は、どちらかというと、「ナンパによって特定の誰かと親密になること」ではなく、「軽いノリで集団で遊ぶこと」の方に重点が置かれている。

 だから、はかばかしい反応が得られなかったとしても渡来は深くは失望しなかった。

 ……でも、ゲームとやらは、さっさと終わって欲しいかな。

 と、渡来は思う。

 早くゲームが終わってくれないと、おちおち遊ぶこともできやしない。

 渡来にしてみれば、ゲームでの勝敗よりもそちらの方が重要だった。

 実のところ、渡来は家庭環境があまりよくなく、自宅に帰るのを一刻でも遅らせるために連日遅くまで遊び歩いているのであるが……この点についても、渡来はあまり自覚していない。

 いや。

 実は自覚はあるのかも知れないが、すぐには解決できる問題ではないので、普段はあえて考えないように努めている、というべきか。

 とにかく、渡来は繁華街から自宅へ続く、人通りが少ない道を歩いていた。


「……今よ、鈴ちゃん」

 睦月が小声でいって、林道の背を軽く叩いた。

「しばらく前後に通行人はいないし、行くのなら今!」

 睦月に背を叩かれた林道は、はじかれたように駆け出す。

 五十メートルほど前の位置に、渡来の背が街灯に照らされている。

 た、た、た、という軽い足音が近づいてきたので、渡来がうしろを振り返った。

 しかし、そのときには林道はすぐそこに迫っている。

 そのまま林道は足を緩めずに、昼間、芦辺にしたように、体ごと渡来にぶつかっていく。

 渡来は林道の姿を認めて驚愕に目を見開いたが、次の瞬間には林道に衝突されて、二人して倒れ込んでいた。


「……やった!」

 その様子を見守っていた睦月と芦辺が、二人の元に駆け寄っていく。

 林道はそのまま起きあがったが、渡来は地面に倒れた姿勢のまま、ぴくりとも動かなかった。

 スキル『パラライザー』の効果を受けていることは確実だ。

「おー!」

 起きあがった林道が、歓声をあげている。

「レベルがあがった!

 レベル二になったよ!」

「おめでとう」

 追いついた芦辺が、林道に声をかけた。

「ついでに、もう何度が『パラライザー』を渡来にかけておいて。

 しばらく動けない方が、なにかと都合がいい」

「アイアイサー!」

 元気よく答えて、林道はしゃがみこんで、倒れている渡来の体に触れる。

 見ただけではわからないのだが、どうやらスキル『パラライザー』を重ね掛けしているようだった。

「……聞こえるか? 渡来」

 芦辺は、渡来に告げた。

「聞こえているはずだ。

 お前は今、林道のスキルによって身動きを封じられている。

 だけど、スキルの譲渡は可能なはずだ。

 このまま無事でいたかったら、おとなしくお前のスキルを渡してくれ」

 そういって、芦辺は手にしていたゴルフクラブを振りかぶった。

「できれば、手荒なことはしたくない」


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