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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
三日目
50/109

04-23 「どうしよう」の堂々巡り。木ノ下紬の憂鬱。

 自宅の自室に入り、木ノ下紬は自分自身のステータス画面を表示させた。

 そこには、はじめから自分に与えられたスキル『パニックボム』の他に、テストプレイ時に奪取した『トラップメイカー』、『リヴェンジャー』、『チェンジリング』などのスキル名が並んでいる。

 現在の『パニックボム』のレベルは五、あとのスキルはすべて自分では使用していなかったので、初期値の一のままだった。

 所有するスキルの数からいってもスキルの組み合わせからいっても、現時点ではかなり恵まれた構成になっているのであるが……当の木ノ下は、実のところ、あまり喜ばしくは思っていない。

 実質的には、この木ノ下は、三峰刹那や知念はなに続くくらいには有利な位置に居るといっても過言ではない。

 木ノ下自身がこれまで積極的にゲームに参加していないこともあって、そのことを意識しているクラスメイトは、ほとんどいなかったが。


 しかし、当の木ノ下はしばらくステータス画面をじっと見つめたあと、深いため息をついた。

 基本、気弱な性格である木ノ下は、どのようなスキルを持っていようとも、自分から誰かに乱暴を働こうとは思わない。

 このゲームがはじまって以来、木ノ下の頭の中では、

「どうしようどうしようどうしようどうしよう……」

 といった具合に、「どうしよう」という単語をリフレインし続けている。


 基本的にこの木ノ下は、臆病で気弱だというだけではなく、何事かにつけて消極的な性格をしていた。

 それはこのゲームに関与するためのスタンスだけに留まらず、元からの、この木ノ下自身の性格に深く刻み込まれた性向でもある。

 木ノ下紬という少女は、この年齢になるまで自分というものに自身が持てないでいた。

 そしてその原因は、幼少時にまで遡ることができる。


 木ノ下は、物心つくかつかないかの時分から、ひどいアトピーに悩まされていた。

 顔一面に、それに、それ以外の皮膚にも常時一面の湿疹に覆われ、当然のように近所の同年輩の子どもたちにも気味悪がられることになる。

 善悪の判断がつく前の子どもというのは、自分の心証には正直でなおかつ残酷でもあったから、当然のように虐めや疎外の標的にされる。

 木ノ下の太りやすい体質も、この傾向を増長した。

 アトピーの症状が収まっていった小学校の高学年あたりから徐々に改善されていくのだが、結局木ノ下は、これまでの前半生で「友人」と呼べる存在をただの一人も持つことができなかった。

 こうした孤独な幼少時を過ごしたことは、木ノ下の人格形成に大きな影響を与えている。

 人との交わりを怖がり、自分自身の思索に耽る。

 ひとことでいうと、木ノ下はかなり内向的な性格となっていった。

 

 同年輩の友だちが少ない反面、極端におとなしくて従順な木ノ下は、両親や教師たちにいい印象を与え続けた。

 他にやることがないから、親や教師ややれといったことは素直にやる。

 小学校にあがる前からそんな調子だったので、木ノ下の成績は(苦手な体育を除いては)かなりよかった。

 素直、というより、木ノ下の表面的な従順さというのはもっと根深い諦観によって導かれた態度なであるのだが、そこまで深い洞察を行う大人は、これまでの木ノ下の周囲には存在しなかった。

 両親や教師以外の誰からも疎まれて育ってきた木ノ下は、なにかにつけ、

「自分なんか」

 と卑下する傾向が強い。

 悲観を通り越して、自分自身の将来になんの希望も持っていない。

 だから、木ノ下は大人たちのいうことだけはよくきいた。

 もうどうにでもなれ、という自暴自棄な心性が根深く染み着いていれば、退屈な勉強のために長時間を費やすことなどさほど苦にならない。


 木ノ下紬は、これまでの生涯、自分の心を閉ざし、なにの希望も抱かずに生きていた。

 そんな木ノ下がゲームに巻き込まれたわけだが、だからといっていきなり前向きになれるはずもない。

 小心者で、他人の存在を極端に恐がり、何事につけ受け身で、基本、自暴自棄。

 そんな木ノ下は、「どうしようどうしよう」と呪文のように頭の中で繰り返しながら、途方に暮れ続けている、というわけだった。


 こんなとき、他の子たちなら、友だち同士手を組んだり情報を交換したりするのだろうか?

 と、木ノ下は思う。

 生憎、木ノ下にはそうする相手、友人そのものがいなかったので、誰かとの共闘は不可能だった。

 どこまでも孤独なまま、このゲームの中を戦い抜いて行かなければならない。


 戦い抜いて?

 

 わたし、戦うの?


 木ノ下は、自分自身に問いかける。

 

 これまでの木ノ下では、発想からしてありえないのだが……。

 今日の一連の出来事を思い返してみると、どうやら、相手であるクラスメイトたちは木ノ下の都合を勘案してくれる余裕はなさそうだった。

 今後も、ゲームが進行するにつれ、いいかえれば脱落者が出て生き残りが少なくなっていくにつれ、いずれは誰かに襲われるときが来るだろう。

 遅いか早いかの差は、あるだろうが。

 このゲームというやつは、「最後の一人になるまで続く」というルールが提示されている以上、頭を低くしてじっとしてさえいれば、いずれ過ぎ去る……とは、いかない種類の災難なのだ。


 スキル『パニックボム』と『リヴェンジャー』の二つがあれば、たいていの相手は撃退……というよりは、相打ちには持ち込めるはずであったが……だからといって未知の襲撃者への恐怖が薄れるわけではない。


 いっそのこと、今持っているスキルを誰かに譲渡して身軽に成ってしまうおうか……とも、思わないでもないのだが、当然のことながら友だちがいない木ノ下は、その譲渡する相手も思いつかなかった。

 あてずっぽうにクラスの誰かにスキルを与えようとしても……そうなったら、今度は木ノ下が持つスキルを巡って争奪戦がはじまるような気がする。


 八方塞がりだ、と、木ノ下は思う。


 どう考えても、木ノ下がこのゲームから降りる方法はなさそうだった。 


──だとすれば……。


「どうしよう」の堂々巡りの末、木ノ下はいつも同じ結論に達してしまう。

 なんど考え直しても、この結論にしかならない。


──だとすれば、自分が襲われる前に誰かを襲うしかないではないか。


 木ノ下は、最後まで自分が勝ち残れるとは思っていない。そこまで楽観的な性格ではない。

 しかし、誰かを襲う、あるいはその準備をしている間は、誰かから襲われる恐怖を紛らわせることはできるのではないか。


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