懐かしい場所で出会った
「なぁなぁテストも終わった事だしさぁ、今からカラオケでも行かね?」
「いいねー、じゃあ女子も何人か誘う?」
「当たり前だろ~野郎だけで盛り上がっても仕方ねぇよ」
「だよな~」
「そういやさっき向こうで女子達が『カラオケ大会やる』ってのを聞いたぞ!!」
「おお、ちょうどいいじゃ~ん。 なら俺らもそのグループに混ざろうぜ~」
「じゃ~決まりだな」
「よっしゃー今日は喉が枯れるまで歌いまくるかー」
「はぁ? お前は音痴なんだからおとなしくタンバリンでも叩いてろよ~」
「ハハハハハハ」
「ったくお前らわかってねぇな、俺は女子がいるときしか本気ださねぇんだよ」
「ハハハ、じゃ俺ら耳栓用意しとくから好きなだけ今日は歌ってくれよ」
「なんだとこらー」
「ハハハハハハ──────」
ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ
……………今日はテスト週間の最終日。
いつも以上にイケてる側の男子三人組がギャーギャーと騒ぎ立てる。
「…………はぁ」
その三人組の隣の席に座っている俺は小さく溜め息を吐いた。
別に体調が悪い訳でも、テストの出来が悪かった訳でも無い。
むしろ、今日は元気いっぱいだしテストの方もそこそこの自信がある。
なのに気分は重い。
「………かえるか」
隣で騒がしい男達が [女子のカラオケ大会に混ざろうぜ計画] を実行に移す中、俺は席を立ちカバンを抱えて教室から静かに去る。
…………………………………………………………………
「………はぁ」
帰りの電車を降りてすぐ、本日二度目の溜め息が俺の口から排出された。
(ったく、テストが終わったくらいでギャーギャーと騒ぎやがって)
確かにテストから解放されて浮ついた気持ちになるのもわからないでもないが、騒いでる奴らの集団を見ているとなんとも言えない苛立ちが俺の中を駆け巡る。
突然だが俺は友達が少ない。
教室でたまに話すくらいの奴らを除くのなら実質0だ。
なんというか、休日に一緒に遊ぶ奴がいない。
休日にやることと言えば、中古で買ったテレビゲームをやったり漫画を読んだりする程度だ。
当然、彼女もいやしない(というか家族以外の女とまともに会話をした事がない)。
だが、俺はそれを別に苦には思わない。
一人のほうが気楽だし自由だ。
誘いに断ったりしたらハブられて嫌な思いをする可能性もあるし、いちいちメールを返さないとそれがイジメに発展する事もあるだろう。
………だいいち俺は携帯すら持っていないが。
とにかく、俺はそんな奴らをうらやましいとは毛ほども思っていない!!
「………はぁ」
しかし自然と出てくる三度目の溜め息。
「チッ!!」
そして、何故か込み上げてくる怒り。
「一人のほうが気楽のはずなのになんなんだよ!! この気分は!!」
俺は小声ながらも力強い口調で叫ぶようにそう叫ぶと、足下にある小石をおもむろに蹴り上げた。
カラーン、カラカラカラン。
勢い良く飛び出した小石は、いつも登下校している道路とは別の道に転がっていった。
その道は道端はなかなか広いが、路面はガタガタで整備されておらず雑草や木々が生い茂る一本道だ。
「……………」
俺は小石が転がった先をジッと見つめた。
この道には見覚えがある。
たしか、俺が昔よく通った道だ。
その道中には家が一軒建っている事を除けば豊かな自然くらいしか無い。
そのおかげもあってか車どころか人もめったに通らないため、小さい頃は木の枝片手にひたすらこの道を歩いて探検ごっこをしたものだ。
しかし、小学校高学年になる頃だろうか。
テレビゲームの面白さを知ってしまった俺は、あまり外に出ることは少なくなり何時しかその探検ごっこもやらなくなった。
しかし、今日まで忘れていた道だったが数年ぶりに存在を認知した瞬間、自然と懐かしさが込み上げてきた。
「………………………」
俺は悩んだ。
いつもの通学路をあと5分ほど歩けば自宅に着く。
自宅に帰れば、テスト期間の間ずっと封印していたテレビゲームがやっと出来る。
しかし、2週間も我慢していたゲーム解禁が霞む程に、あの探検ごっこをしていた頃の道が今どうなっているのか? どうしても知りたい自分がいた。
「フー、たまには寄り道するかな」
俺はいつもの通学路を外れて、懐かしい探検ごっこの道を歩き出した。
……………………………………………………
「ほぉ~、懐かしいなぁ」
しばらく歩いているうちに思い出が蘇ってくる。
数年ぶりにも関わらず、周りの草木はほとんど変わっていない。
まるで小さい頃にタイムスリップしたかのような気持ちにさせられる。
「意外と変わらないもんなんだな」
地形もほとんど変わっていない為、昔みたいに探検ごっこをしているような感覚になってくる。
失いかけていた子供心が徐々に蘇ってくるような気がした。
「えーっと、確か少し進んだ先にボロい家が………」
楽しくなって来た俺は駆け足で道を進んでゆく。
「おー、やっぱりあった。 いやー懐かしいな~」
少し曲がりくねった道を進むと、トタン屋根のボロボロの家を発見した。
この家は、探検ごっこのコースにある唯一の建物である。
見た目は廃墟のようなボロ家だが、ちゃんと人が住んでいる立派な家だ。
まだご存命なら、お婆さんが1人住んでいるはずだ。
昔、空き家だと思い込んで土足で入ってしまい、そのお婆さんに怒られた記憶があるから間違いない。
「あっ思い出したぞ!! ボロ家を通り過ぎてしばらく歩いた先に俺のお気に入りの場所があったはずだ」
俺は急ぎ足で昔の記憶を頼りに、その場所へと向かった。
「ハァハァ、確かこの上り坂の先に~~」
外で遊ばなくなってから全く運動しなくなった俺は、息を切らしながら坂を上った。
「ハァハァハァハァ、やっと着いた」
坂を上がった先には、草原が広がっていた。
その草原の先には道がなく、ここで行き止まりになっていた。
つまり、この草原が探検ごっこの終点と言う訳だ。
そして、この草原は俺が小さい頃にお気に入りにしていた場所でもあった。
「いや~、やっぱりまだ残ってたみたいだな~」
昔はこの場所で色んな遊びをしたのを覚えている。
バッタなどの色んな虫を捕まえたりもした。
少し長く成長した雑草を敵に見立てて、木の枝の剣でやっつけたりもした。
そして、この広い草原の真ん中そびえる大きな木に登ったりも……………。
「…………あれ?」
懐かしみながら色んな遊びポイントを見回していた俺は、ある物に気づいた。
ガサガサ、ガサガサ。
草原の真ん中にある木の上に誰かがいる。
葉っぱの部分に隠れてあまり良く見えないが、確かに誰かがいる。
「だ、誰なんだ?」
俺は驚いていた。
この場所に俺以外の人が来ているのは初めて見る。
当時このあたりに住んでいる子供は俺以外には居なかった為、この場所は俺以外は知らないはずだ。
「………………………」
ここが自分しか知らない場所と思い込んでいた俺は、なんとなくショックを感じていた。
こんな場所にわざわざ来て木登りをするのを見る限りでは、おそらく子供であろう。
「俺が何年も来ない間に他の子供に取られていたか………」
この草原はもう俺だけの場所じゃ無くなっていた。
そう考えるとなんだか寂しくもあり悲しくもある。
不思議なものだ。
今まで存在すら忘れていた場所なのに、いざ自分だけの場所では無くなるとこんなにも切なくなるのだ。
俺は空を見上げた。
「…………帰ろう」
俺は天を見ながらそう呟くと、最後に草原に目をやった。
もう訪れる事は無いであろう、お気に入りの草原を目に焼き付けるために。
ガサガサ、ガサガサ。
どうやら、ちょうど子供が木から降りていた所らしい。
年齢は小学校低学年くらいだろうか?
水色のTシャツに黄色の短パンをはいている。
髪型は短めで、若干痩せている少年だ。
「俺もこうやって遊んでいたのか…………あっ!?」
見られているのに気付いたのか、少年と目が合ってしまった。
少年はじーっと俺の事を見ている。
「やべっ、気付かれたみたいだな」
どうしていいか分からない俺は逃げるように草原をあとにした。
タッタッタッタッタッタッタッタッ
「…………………………………」
走って去る俺を、少年はまだ見ていた。
…………………………………………………………
「フーフー、やっぱり日に何度も走るもんじゃ無いな」
ボロ家を通り過ぎたあたりで俺は足を止めた。
それにしても俺の他にあの場所で遊ぶ子供がいるとは思わなかった。
このあたりの近くで俺の他に子供が住んでいる家は無いはずだが、近くに引っ越してきたのだろうか?
「ハァハァ、まぁどうでもいいか」
とは言うものの、俺の心の奥底ではまだ引っかかる事があった。
(あの子供、どっかで会ったか?)
何故か草原で遊んでいたあの子供とは、初めて会った気がしないのだ。
「ハァハァ、誰なんだっけ? フー、フー」
運動不足からか、俺はまだ落ち着かない呼吸をゆっくり整えながら考え始めた。
(多分だいぶ昔の記憶なんだよな~、えーっと?)
俺は昔の記憶を頼りにあの子供の事についての手がかりを探し始めた。
俺のお気に入りだった水色のTシャツ
たくさん持っていた黄色の短パン
親に「髪を伸ばすのはみっともない」と言われ強制された短めの髪型
当時、好き嫌いが多くあまりご飯を食べなかった俺は他の子供と比べてガリガリだった事
そして、探検ごっこに出かける前に洗面所の鏡の前で身だしなみを確認していた…………………
まだ幼い時の俺の顔
「ハァハァ………あれ? あの子供、昔の俺に………ハァハァ…………似て……………うっ……………」
ドサッ
………………………………………………
「ハハハ、やっぱりお前の音痴は神がかってたな~、やっぱ耳栓必要だったか?」
「だな、歌で女子引かせるなんてお前スゲェよ!! ハハハ」
「うるせーな、カラオケは盛り上がってナンボなんだよ」
「まぁ笑いのネタになったしな」
「ハハハ、だな!!」
「ったく、お前らなぁ~」
「でもこんなお前でも彼女いるんだから不思議だよな~、音痴の分際で」
「ハァ? 俺に彼女なんてまだいねぇぞ」
「嘘つけよ、前に駅前で女と手を繋いでるお前を見かけたぞ」
「ん? 駅前? あぁ~多分兄貴だよ、それ」
「兄貴?」
「そうだよ、俺双子の兄貴いるんだよ」
「マジ?」
「あぁ、まぁ兄貴は別の高校行ってるし知らなくて当然か」
「ハハハ、なんだそうだったのかよ~、音痴のお前に彼女なんてありえねぇからてっきりドッペルゲンガーかと思ったよ」
「音痴って言うなよ、てかドッペルゲンガーってなんだっけ?」
「あれだよ、姿が同じな奴。 詳しくは知らねーけど」
「あれだろ? 確か自分にそっくりな奴を見かけたら死ぬってやつ」
「あー、それそれ」
「な~るほど~、ってンな訳ねぇだろ!!」
「まぁドッペルゲンガーは本人が見るもんらしいしな」
「あれ? そうだっけ?」
「俺も詳しくは知らねー」
「まぁ俺ら三人の頭で考えてもしょうがねぇか」
「そもそも迷信だろ、くだらねぇ」
「それよりさー、次何する?」
…………………………………終わり。
読んでくれてありがとう。
出来れば何でも良いので感想を書いて行って下さい。
お願いします。