創造の大地
雲がちぎれていく。
あつく、重くたちこめていた黒い帯雲。
ちぎれ、流れ、霞み、消えてゆく。
天井高くに昇りつめた太陽が、ちぎれ雲の隙間からその御光をそそぎ、
誰そ 誰そおるのか、と呼び掛ける。
容を変え、流れていく雲の下で、
立ちすくんでいた少女が煌々と縫い落ちてくる光に気付き、
その呼び声に涙して答えた。
「えぇ、おります。
ずっとおりました。
黒い雲の下で息さえできず、
言葉の紡ぎかたすら忘れて 、
ずっと声なく叫んでおりました」
しずしずと泣く少女に太陽は、
いよいよ流れ消えていく黒雲の隙間から身を乗り出し、
その眩い光で少女を包み照らした。
そして大地に深く染み渡る声で少女に語りかけた。
『ながらくお前の空を覆い、立ち込めていた黒雲はいまや流れ去った。
空はやがて晴れやかに青く澄み、
羽毛のような純白の綿雲が流れくるであろう。
暗く、重苦しかった時代は終りを告げたのだ。
さあ、大きく息をお吸い。声をあげて、叫びなさい。
この地はお前が統べるのだから。
気を強くお持ち。空を見上げれば、そこには常に私がいるであろう』
少女は涙に喉がつまり、何も言えなかった。
ただ泣き濡れた顔で、神々しく輝く太陽を見仰ぎ、その御光に粛々と頭をたれた。
太陽が昇った大地は、生まれたての青が空を柔らかに包み始め、どこからか鳥の羽を幾重にも重ねたような
純白の雲が流れ込んできた。
木々が次々と生い茂り、鈴なりに花を咲かせ始める。
少女は息を吹きかえし始めた大地を見渡し、ついにそのこわばり続けていた体躯を動かした。
しなやかに伸びた足が地を蹴り、少女はたった今目覚めたばかりであるかのように、伸びやかに大地を駆け、果てのない地上をどこまでも走り出していくのだった。
2005年頃初掲分