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獣使いとお子様ランチ

あけおめぇめぇ。


すこーしキャラ崩壊?注意。

おふざけ程度だけれども。

~♪


 よく晴れた日の正午。暑い外と比べていくらか涼しいその喫茶店の中に、私はいる。


 氷入りのレモン水をちびちびと飲み、そして机にぺとっと頬を付けた。緑色の毛皮の相棒もまた、ぐてっと腹を床につけて舌をてろんと垂れている。


「あ゛ー……」


オン……


 心地よく空気に溶けていくオルゴールの音色がいいかんじだね。いや、オルゴールがなくても、この安心してダラけることのできる環境は最高だ。おねえさん、できれば一生このままダラダラして過ごしていたいよ。


からん


 意味もなくグラスを回し、氷の音を楽しんでからまた口を付ける。やっぱり今日のレモン水、いつもよりおいしい気がするな。なんかちょっとすっきりしたというか、水の質がよくなったかも?


「……うん?」


 ぼーっとしながら店内を眺めていたら、さっきからチラチラ視界の端に映っていた女の子と目があってしまった。見た目はシャリィちゃんよりちょっと幼いくらいで、どこかで見たようなひらひらした特徴的な民族衣装を纏っている。


 ──耳はきゅっと尖っている。紛れもないエルフだね。


「おねえさん。ミィミィね、おねえさんみたいな大人初めて見た! 古都の人ってみんなこんなふうなの!?」


「……みんなってわけじゃないよ?」


 純真な好奇心で聞いてるんだろうけど、すっごく恥ずかしくなってきた。小さい子特有の眩しい笑顔がすっごく心にしみる。


「ミィミィちゃん、もこもこのおねーさんは忙しいから、こうしてたまに休憩を取って英気を養っているんですよ!


「そっか! ……でもシャリィちゃん、どうして『もこもこの』おねえさんなの?」


 机から頬を引き離し、少しぼさぼさになった髪を手櫛で整える。どうやらこの少女──ミィミィちゃんとやらはシャリィちゃんの友達らしい。こないだリュリュが集落にマスターたちを連れていくとか言っていたし、きっとそのままこっちに遊びに来させたのだろう。


 交流会以外で、しかもこんな小さなエルフと会えるなんて思いもしなかったな。


「いつもはもこもこ毛皮の装備をしているからですよ!」


「お?」


 シャリィちゃんががばっと私の腹に抱き付いた。細い腕がふにゅりと私の体に沈み込み、そしてシャリィちゃんは心地よさそうに頬ずりをする。にっこにこのヒマワリのような笑顔だ。


「わぁっ! でもミィミィ、こっちのもいいと思う! すっごいぷにぷにふっかふか!」


「おぉ!?」


 ついでにミィミィちゃんも抱き付いてきた。いくら冒険者とはいえ、座った状態で二人がかりに抱き付かれるのは結構きつい。何がきついって、身動きがとれなんだよね。


「ふおぉ……! おっきぃ……!」


「うへへ……! この迫力……!」


 ……二人して私の一番柔らかいところで遊び始めるのはなぜだろう?


~♪


「……おまえ、意外と子供に懐かれるんだな」


「獣使いだからね」


 さて、そんなこんなで少女二人に抱き付き挟まれていると、喫茶店の奥から汗を滴らせたスキンヘッドの大男がのっしのっしとやってきた。


 大男──バルダスはいつもの装備ではなく分厚い白装束を纏っている。少々息が上がっているところを見ると、どうやらあいつは私より先に来て奥で柔道の稽古をつけてもらっていたらしい。


「珍しいもん着てんな、おまえ」


「あ、これ? 例の報酬だよ」


 バルダスに言われ、自分の体を見下ろしてみる。今の私が装備──じゃない、着ているのは緑色のジャージと呼ばれる代物で、左胸のところに『美守帝』とマスターたちの国の文字が入った特注品だ。肌触りも心地よくてほどよく伸び、運動するのにはもってこいなんだよね。


 ──その着心地の良さから寝巻にもぴったりで、ダラけるのにこれ以上の服装はない。


「ああ、さっきマスターがいったん抜けたのはそういうことか」


 これ、今日受け取るつもりでここにきて、受け取った瞬間に着替えたんだよね。いい感じに体にフィットしたけど、胸のところがちょっと苦しいのが問題といえば問題かな。


 ……マスターが真っ赤になって背をそむけるの、可愛かったなぁ。冒険者の女の着換えなんて、見慣れていると思ったのだけれど。


「かっちかちのおじさん! お稽古は終わったの!?」


「おう、今しがた終わったところだ。もうすぐ飯を用意するから待ってろってよ」


 バルダスはそう言ってミィミィちゃんの頭を乱暴に撫でる。そして乱れた胸襟を正し、シャリィちゃんともども二人の少女の首根っこをひっつかんで私から引き離した。


「やん♪」


「ルタお兄ちゃんよりたかーい!」


 足をプラプラさせた二人を私の席へと座らせる。そしてパンパンと満足そうに手を叩くと、自分は一個隣の席にどっかりと腰を下した。


「やだね、水臭い。おねえさんの隣に座ればいいじゃないか。……もしかして、照れてる?」


「バカいえ」


 即答された。女としてのプライドがちょっと傷つく。おねえさん、体には自信があるんだけどな。こんなにおっきいし。もしかしてアイツは、大きさよりもバランスとかほざくタイプなのだろうか?


「もう一人いるんだよ」


「もう一人?」


 バルダスが言い終わるか終らないかのうちに、それはわかった。やっぱり店の奥から、一人の魔法使いがやってきたからだ。


「──あ」


 その魔法使いの髪は濡れているのにつやつやで、金髪がいつも以上に輝いている。ほんのりとそまったピンクの頬に潤んだ様にも見える瞳。色っぽく髪がうなじに張り付き、そして私と同じくジャージを身に纏っていた。


 左胸には──『佐藤』。


 そう、佐藤。今なら読めるがこれの発音はサトウ。つまりはマスターのもう一つの名前だ。


「こ、こんにちは、ミスティさん」


「やぁ、アミル」


グルルルル……!


 ここの常連の一人、そしておそらく私たちの中で一番最初にこの店を見つけ、マスターに恋心を抱いている魔法使い、アミル。そんなアミルが色っぽいその姿のまま、周りの視線に押されて私の隣に座った。


 ──悔しいことに、なんかすごくふわふわで甘いいい香りがした。


~♪


「面白いものを着ているね?」


「ミ、ミスティさんこそ」


「おねえさん、報酬でこれ貰ったんだ。アミルは?」


「……」


「おっかしいなー。おねえさんにはこれ、佐藤って読めるんだけどなー。なーんでアミルがマスターのジャージを着ているのかなー?」


「……ふ、ふしゅぅぅぅ」


「シャリィちゃん、おねーさん真っ赤になっちゃった!」


「恋する乙女ですからねぇ……」


 ちょっとからかいすぎたのか、アミルは真っ赤になって両手で顔を覆ってしまった。その赤さたるや、”しょーとけーき”のイチゴと同じくらいはあるだろう。今どきこんなウブな娘も珍しいものだと思う。


グルルル……!


「ねぇもこもこのおねーさん、どうしてあの狼さんは唸っているの?」


「うん? それはね、今が修羅場だからだよ」


「……しゅらば?」


「そう。ミィミィちゃんもこの機会によく覚えておくといい」


「おい、子供に変な事教えんじゃねえ。リュリュに怒られんぞ!」


 マスターが大好きなアミル。

 同じくマスターをモノにしたい私。

 そしてやっぱりマスターが大好きなラズ。


 この三人が一堂に会して、修羅場じゃないってどうしていえるだろう? ましてや、マスターが好むジャージの格好をしているのが二人、それも一方は明らかに湯浴みの後と思われるセクシーさを醸し出しているのに。


 最後の一匹に至っては全裸だしね。うん、セクシーさならダントツでトップだ。


「ミィミィちゃん、修羅場って言うのは、同じ人を好きな人が一度に鉢合わせしちゃうことなんですよ」


「そうなの? じゃあ、この人たちもますたーが好きなの? ……どうしよう、ミィミィも修羅場だ!?」


「あたしもマスター大好きですし、あたしも修羅場なんですよ」


「おいまてちみっこ」


 バルダスがシャリィちゃんにデコピンをした。割と言っていることは間違いないし、別にいいと思うんだけどな。あいつ、ああ見えて妙に面倒見のいいところがあるから意外だよね。もっとこう、こういうのは大笑いしながら乗ってくるタイプだと思ってたんだけど。


 にしても、この幼女もライバルかぁ。……マスター、いったい何したんだろ? ちょっとおねえさん、心配になってきたよ。


「どうしよう……! ミィミィ、もこもこのおねーさんみたいに大きくない……!」


「ミ、ミィミィちゃん? なにも、その、大きければいいってわけじゃないですよ?」


「でも! ルタお兄ちゃんだっていっつも大きい人の事こっそり見てるもん! ミィミィ知ってるよ! オトコはみんな大きいのが好きだって!」


「「……」」


 ミィミィちゃんは涙目になって必死に訴える。とりあえず、アミルの中でそのルタお兄ちゃんの評価が下がりまくったのはたしかだ。エルフには堅物ってイメージがあるけど、種族が滅びない程度には健全であるらしい。


「まだおねーさんほどますたーと仲良くないし……!」


「というと?」


「最初ね、ミィミィね、ここに来た時ますたーがどこにいるのかわからなかったの。それでね、大きな音がしてる扉があったから、そこを覗こうとしたらかっちかちのおじさんがぬぅっと現れて、ミィミィびっくりしちゃったの」


 うん、的確な状況説明ありがとう。でもおねえさん、要点だけ知りたいんだよね。


「でね、そのとき後ろのほうでおねーさん、ますたーとぎゅっと抱き合ってたの! 顔もすっごく近かったし、お洋服の前もはだけていてすっごくいいかんじだった! ほかにも、おねーさんがえいってますたー押し倒してたりとか……!」


「ほほぅ……?」


「あれは武術のお稽古です! やましいところはなにもありません!」


 どうだか。そんな真っ赤な顔で言われても、信憑性がまるでない。バルダスも気まずそうに顔を反らしているし、全くのウソってわけでもないんだろう。


 ……たしか、組手とかあるうえにあのひらひら着てやる武術なんだよね。あんなひよわそうな優男でも、やっぱりマスターもオトコノコってわけだ。


 ちらりとアミルと私、ついでにミィミィちゃんの胸を見る。


 ぽん、ばいん! ぺたーん、だ。


「ふふっ……!」


「な、なんですか!? その意味深な笑いは!?」


 とりあえずは、勝ちだ。無性にうれしくなって、私はぺろりと唇を舐めた。











~♪~♪~♪♪~──......


「はい、ミィミィちゃん、シャリィ。お待たせ。《お子様ランチ》です」


 なんだかんだと五人で喋っていると、やがてマスターが店の奥から現れた。どうやら彼も湯浴みを済ませたらしく、心なし最初にあった時よりもさっぱりとしたかんじになっている。


「ラズも、こないだはありがとうね」


 マスターは片手にお盆、そしてもう片手にバスケットという、王都の高級料理屋のウェイターも真っ青な恰好でさっそうと私たちの席へやってきた。


 バスケットの中にはそれはもう見事なラズベリーがこれでもかと詰まっており、マスターはにこやかに笑いかけながら、器用にそのバスケットをラズの鼻面へと置く。


アオン!


 緑の相棒は先ほどまでの剣幕はどこへやら、一心不乱にそれにがっつきだした。食べっぷりと喜びようはすさまじく、この様子を見ればどんな魔獣嫌いのヤツでもほっこりと心が和んでしまうことは想像に難くない。


 だけど、私たちはそんなラズなんて目に入りすらしなかった。


「すっごい! ますたー、これすっごい!」


「どうしたんです? いつもはあたしがおねだりしても全然作ってくれないのに!」


「そりゃ、普段から作るのは疲れるし……。せっかく遊びに来てもらったんだから、ちょっと頑張ってみようかな、と」


 とん、と少女二人の前におかれた一枚の大皿(プレート)。赤い縁取りがなされた真っ白のプレートで、見ていてどこかわくわくしてくる。


 こういうプレートの場合、パスタだのがどかっと豪快に盛られていることが多い。そりゃあ、高級料理店なら違うのかもしれないけれど、少なくとも一般的な人間が行くような飯屋や酒場なんかはそれしかない。


 ところが、このプレートには彩と、そして見るものを楽しませるオシャレがある。


「おい……ウソだろ……!?」


 プレートの左下に座すは黄色の”おむらいす”。ふんわりとした黄金の卵に深い茶色の”でみぐらすそーす”がふんだんに掛けられ、見るものの食欲をこれでもかと刺激してくる。


 私も以前これを食べたことがあるけれど、卵の甘味と深くコク、さらにここからでは見えない赤いライスのコンビネーションに加えて、ボリュームもあって食べ応え抜群という、反則みたいな料理だ。


「しかも、こいつはこないだのときの……!」


 その近くにくるりとすました感じに佇んでいるのはオレンジ色のパスタ。ベーコン、玉ねぎ、ピーマンといった具材を惜しみなく使った”なぽりたん”だ。華やかなその見た目の期待を裏切ることなく、子供向けのトマトの甘みがギュッと詰まった素晴らしい料理だったのを覚えている。


「このお月様みたいのは……おいも? それにミィミィの大好きなトマトの、ちっちゃくて可愛いやつもある!」


「《フライドポテト》っていうやつなんだよ。こっちのトウモロコシは《コーンバター》っていって、あまぁいコーンをもっとおいしくしたやつなんだ。ミニトマトは……まぁ、普通? のやつなんだけどね」


 細長い半月のような形の芋に、バターの溶ける香ばしい香りを滴らせたコーン。野菜は他にもプチトマトや見るからに新鮮そうなキャベツがあり、右上のほうはそれら野菜の楽園と化している。普通のサラダではあるのだろうが、こんなにも新鮮でおいしそうなサラダはそうそうお目にかかることはできないよね。


 しかも、ここまでメインが出てきてない。このプレートの、本当のメインは──!


「この……うすべっかい肉団子……!」


「おねーさん、これは《ハンバーグ》って言うんですよ!」


 真ん中にどん、と構えているそれ。この特有の香りから、肉であることは間違いないが、何の肉かはわからない。茶色いそれにいいかんじの焦げ目がついていて、なんだかものすごくおいしそうに見える。ほんのわずかに肉汁が漏れていることからも、ただ肉を焼いただけではこうはならないということが簡単にわかった。


 そして、これにもやはり、その神秘の体を隠す女神のヴェールのように魅惑の”でみぐらすそーす”がかかっていた。


「マスター……! これ……!」


 私にとってのメインは肉だが、アミルにとっては違う。


 カップのような白い特徴的な器につるん、ぷるんと揺れるそれ。白い”くりーむ”と赤いさくらんぼをお供に連れた、マスターが最も得意とする甘い悪魔(おかし)──”ぷりん”もある。


「マスター……。おねえさん、夢を見ているのかな……?」


 ”おむらいす”、”なぽりたん”、”ふらいどぽてと”。各種サラダに”はんばーぐ”。そして極め付けにはあの”ぷりん”だ。


 もはや豪華ってレベルを超えている。しかも、これだけあって香りが混じってない。いや、正確に言えば全部混じってより一層おいしそうな香りになっている。


 こんなものを、いったい誰が想像できただろう? アルじゃないが、どんな大賢者でも無理に決まっている。


 ここにはこの喫茶店、《スウィートドリームファクトリー》の全てがある。大皿はさながら宝石箱のようで、白い舞台の上では輝く妖精が舞踏会を開いてた。


 ──遅れるように置かれた華やかな”とろぴかるじゅーす”には、もはや驚きすぎて驚くことができなかった。


「おいしい! すっごくおいしい! ますたー、これすっごくおいしいっ!」


「久しぶりですけど、このあふれる贅沢感! 生きてて良かったって思える瞬間ですね!」


「それはよかった」


 私たちが見ている前で、シャリィちゃんとミィミィちゃんはそれをおいしそうに食べ始めた。


 一口、二口、そして三口。フォークを動かすたびに彼女らの動きはどんどんと速くなり、そして口の端が汚れるのすら気づかずに忙しく顎と喉を動かし続けている。


 ミィミィちゃんはマスターの料理を食べなれていないせいか、さっきからずっとおいしいと言ってばかりだし、食べなれているであろうシャリィちゃんでさえ、頬をゆるっゆるにしてふにゃりと笑いながらその豪華な共演を楽しんでいる。


「……」


「……」


「……」


 ごくり、と誰かの喉がなった。ただでさえお昼時でお腹が空いているのに、こんなおいしそうな光景を見せられたらたまったものじゃない。これ以上の拷問を考えつけるやつなんているのかな?


「さて、すみませんね、お待たせしてしまって。みなさんは何にします?」


 マスターはいじわるだ。こんな状況でなお、にこにこ笑って決まりきったことを聞いてくる。


「あれと同じのを頼むよ。そうじゃないと、おねえさん拗ねちゃう」


「もちろんオレもだ」


「もう、マスターってば、わかってて聞くんですから……」


 ところが、マスターはひどく残酷な現実を私たちに突き付けた。






「いやぁ、そのぉ……。あれ、《お子様ランチ》ですのでお子様でない方はちょっと……」






「「……えっ」」


 お子様ランチ……。なるほど、確かに名前からしてお子様専用だよね。でもさ、それならまだ可能性はある……よね?


「あの、マスター。念のため聞きますけど、何歳ならいいんです?」


「えーと、小学生までいいとして……。うん、十二歳までですね。あれ頼んでいいのは」


「無茶苦茶だろ!?」


 この森は曲がりなりにも魔獣が出る。タダの子供が来るのはかなり難しい。ついでに冒険者的にもおいしくないから、依頼として同行させるのも難しい。ちなみに、ミィミィちゃんはヒトに換算すると五歳になるかどうかとのことだった。


「みなさんだから言いますけど、《お子様ランチ》って複数の料理を作らなきゃいけないから、すっごく大変で時間もかかるんですよ。鍋もフライパンもたくさん使うし、後片付けだって恐ろしいことに……」


「……でも、シャリィちゃんたちには作ったよね?」


「たまたま下拵えとか済ませてあったのがあったんですよ。子供の食べる量なんてたかが知れてますし。ただ、みなさんが満足するのを一から全員分作るとなると……」


「……子供なら、いいのかな?」


 ぽかんとした顔で見てくるマスター。たぶん、私が何を考えているのかわかっていないのだろう。


 私はぺろりと唇を舐め、そして胸のファスナーを少し下げてから、上目づかいに言った。


「わたし、みすてぃ! ごしゃいなの!」


「……はい?」


 子供でしか食べられないのなら、子供になればいいよね。年齢言ってないし、今この瞬間、おねえさんが子どもでない証拠がない。


「こんなデカチチのガキがいてたまるか!」


「おじさん、うるさーい!」


 いるんだってば。これだから頭の固いおじさんは嫌だよね。あと、その発言はいろいろと不味いと思うよ。か弱い乙女になんてセクハラ発言してるんだろうか、このスキンヘッドは。


「ねぇますたー、みすてぃ、おいしいごはんたえたいなー! おこさまらんち、おなかいっぱいたえたいなー!」


「あ、あの……?」


「……ますたーはつくってくえないの? みすてぃのこと、きあいなの? つくってくえたら、みすてぃ、なんでもやりゅよ?」


 ここで、獲物を仕留める獣の如く一気に接近しぎゅっと抱き付く。


「うひゃぁっ!?」


「つくって! つくって! みすてぃにもつくって! つくってくれなきゃやだぁ!」


「わかった! わかった! わかりましたから離れてください! あ、あ、当たってるぅ!?」


 当然だよね、当てているんだもの。ヒトという獣の雌の武器は、なにも爪や牙だけじゃないんだよね。


「やったぁ! マスターだぁいしゅき!」


 抱き付いたままくるりと振り返り、スキンヘッドと金髪にべっと舌を出す。


 どうだ、まいったか。


「お、おめえにゃプライドってもんはねえのかよ……?」


「ぷらいどってなーに? みすてぃ、わかんない!」


「うわぁ……ミィミィ、こんな大人初めて見た!」


 目的のためなら手段を選ばない。冒険者としても、獣としても理想的で模範的だと思うのだけれど。


「ま、ますたー! わたし、あみる! ごさいでしゅ!」


「え、ちょ、アミルさんまで!?」


「つくってくえたら、ぎゅーってしちゃいます!」


 アミルももちろん便乗した。たどたどしく舌っ足らずな発音で甘え、そして顔を真っ赤にしながら抱き付いた。


 正直なところ、ここまでノリのいいやつだとは思わなかったけど、マスターもきっと悪い気分じゃないだろう。


「わかりましたから! お願いですから正気に戻ってください!」


 この、自分が得をしつつも相手にもいい思いをしてもらう気配り。おねえさんってもしかして天才なんじゃないだろうか?


「さ、あとはばるだすくんだけだよ?」


「……あ?」


「だって、ばるだすくんだけおとなだもん! いかつくってごっついおっさんだもん! むさくるしいおっさんはたえられないもんねー!」


「こんにゃろう……!!」


「いいから早くしなよ。冗談抜きに自分だけ何もせずに食べるつもりなのかな?

 それ、冒険者として最低の行為だよね」


 人を頼りにしてばかりの冒険者は寄生虫扱いで嫌われる。パーティーを組むやつなんていなくなるし、いい目で見られることはない。ある程度実力を付けた──それこそプライドのある冒険者ならば、ちゃんと役に立とうと努力するしそういった行為を行わないようにする。


 そして、こうした挑発にも簡単にのってくれる。


「ぼ、ぼくは……ばるだすです。ろくしゃいで──」


「「ぶふっ!」」


「おいまておまえら」


 思わず私とマスターが吹き出した。


 こんなごつくて厳ついむっさいスキンヘッドのおっさんがもじもじしながら『ろくしゃいです』だよ? 笑わない奴のほうがおかしいよね、うん。


「ぼくは──だいすきなおにいさんとおねえさんに、ひごろのかんしゃのきもちをおくりたいとおもいます」


 だけど、それがまずかった。バルダスはすっと表情を消し、低くて重い声音で子供言葉を紡ぐ。


 やっちまったと気づいたのは、新手の戦闘魔人のように冷たい目をした大きな影が、私の目の前にぬっと立ってからだ。


「アミル、そこどけ」


「え……」


「巻き添え、喰らいてえのか?」


 アミル、ぱっとマスターから離れた。そのただならぬ雰囲気にマスターがガタガタと震えてるのが腕を通して伝わってくる。


 ……おねえさんはふるえてないよ? ほんとだよ?


「おにいさん、おくちあけて?」


「あ、あのバルダスさん?」


「あけて?」


「えーと……」


「あけろ」


「あー……もがっ!? ああああああっ!?」


 うわぁ……、とシャリィちゃんがつぶやいたのが聞こえた。それもそのはず、バルダスがマスターの口に突っ込んだのは冒険者御用達の携帯食料だったのだから。


「おいしい? ねえ、おいしい?」


「ごフッ……苦くて酸っぱくて渋くてエグくて辛くてまずい……」


 携帯食料はまずいものの代名詞だ。この世のものとは思えないほどまずいし、ぱさぱさもそもそして食べにくい。というか、飲み込めない、水でふやかすとまずさが口に広がるし。風味も食感も味も何もかも最悪で、家畜の餌と揶揄されることもある。


 栄養価は非常に高く、腹持ちだけは恐ろしいほどにいいけれど、ただ単に食欲が失せているだけだと冒険者の誰もが思っている。


「それな、フレーバー付きで味を調えた最高級の携帯食料だ。一般的なのはその十倍はまずい。だがな、オレたち冒険者はそんなものでも食わないとやっていけねえ。本当に仕方なく──せめてもの悪あがきで最高級品で我慢しているがな」


 おねえさん貧乏だから、その最高級品すら買えないんだけどね。


 この喫茶店を見つけて後悔なんてしたことないけれど、唯一にして最大のデメリットをあげるとしたら、普段の食事の貧相さに我慢できなくなっちゃったってところかな。


「……なぁマスター、頼むからいじわるなんてしないでくれよ。金ならいくらでも出すし、出来上がるまでいつまでも待つからよ。な?」


 こくこくこくとマスターは首がもげるほどの勢いで何度もうなずく。そしてにっこりと笑ったバルダスに見送られながら、慌てて奥へと走って行った。


「あれ……日持ちはしますけどそんなにおいしくないですもんねぇ……」


「おいしくない、なんてそんなチャチなもんじゃねえ。あれは純粋にまずいんだ。男の冒険者の間では食事処じゃ言えない名前で呼ばれているぜ? ちみっこ、おまえ随分寛容な心を持ってるんだな」


「ま、いろいろありましたから」


「……? まあいい」


 バルダスはその張り付いた笑みのまま、ゆっくりとこちらを向く。こめかみに青筋が立っているのがしっかりはっきりくっきりきれいに見えた。その手にはマスターが食べたものよりも倍は大きい乾いた茶色い塊がある。


 ──ひょっとしておねえさん、絶体絶命のピンチ?


「ほら、おねえさん。あーんして?」


「や、やだな、バルダスくん。君とおねえさんの仲だろ?」


「いいから口を開けろよオラァ!」


「ひぃやぁぁぁぁ!?」


 がっと顎を掴まれた。ぐっと塊を突っ込まれた。


 異臭。苦味。辛味。酸味。渋味。えぐみ。この喫茶店の中でこいつを味わう羽目になるだなんて、いったい誰が予想しただろう?


「ぐ、フッ、がフぅッ!?」


 吐き出すわけにはいかない。ここ、喫茶店内だし、やったら確実に出禁を喰らっちゃう。乙女的にもアウトだし、何よりバルダスに口を押えられてるから吐き出しようがない。


「ばるだすぅ……ひどいよぉ……!」


「いや、まだ終わりじゃねえぞ? 今のはオレを笑った分だ。まだ一番最初に悪ふざけしてこの状況を作った分が残っている」


「えっ」


 更なる絶望が私を包んだ。このかんじ、新人の頃に死にかけたときとそっくりだ。


「──おまえを『ぐるぐるの刑』に処す」


 ──ぐるぐるの刑。


 ときおりバルダスがつぶやいていたけれど、その全容を私は知らない。シャリィちゃんにやろうとするくらいだから、子供向けの罰の……はず。


 そうでないとおねえさん、一生お嫁にいけなくなっちゃう。いや、尻叩かれるとかも色んな意味でアウトなんだけどさ。


「やっ……いったい何を……!」


「恨むなら自分を恨むんだな」


「ひゃぁっ!?」


 がしっと背後から腹に腕を回された。大樹のような太い腕が脇腹にがっちり食い込み、おへそのあたりで両手が握られている。


 石壁のような固い感触が背中から感じられるところを察するに、私とバルダスはいま密着状態にあるのだろう。


「よっと」


 そして、ぐいって持ち上げられた。じたばたしても空中で手足がぷらぷらするだけ。


 ……あれ? ひょっとしておねえさん今、無力化された?


「あ、あの……? おねえさん、冗談抜きに危険を感じているのですが……?」


「おーおー、やっぱ肉付きだけはすげえ女らしいのな。どうしてその女らしさを性格のほうにも回せなかったのか……」


「あっ、ちょっ、やめ……!」


からんからん


 バルダスは私を持ち上げたまま喫茶店の外に出た。扉は開けっ放しで、出てすぐの場所だからシャリィちゃんたちからもよく見える。


 少なくとも、アブナイかんじじゃないらしい。わかっていたけれども。


 ああ、太陽がすごく眩しい。おねえさんこれからどうなっちゃんだろ?


「……覚悟はいいか?」


「よくな──いやぁぁぁぁぁっ!?」


 瞬間、世界が回った。


 ぐるぐる、ぐるぐると。


 木々が、建物が、視界の右から左に高速で過ぎ去っていく。


「オラオラどうだぁ!」


「いやっ、あんっ、やぁぁぁぁぁぁっ!?」


 足と胸と頭が外に引っ張られ、体がくの字に折れ曲がる。すごい不覚にも、まるで年頃の少女のような悲鳴が口から洩れてしまった。


「やんっ、やめ、やめてぇぇぇぇっ!?」


「反省したか? 反省したのか!?」


 回る。回る。すっごい回る。バルダスがすごい速さでぐるぐる回っている。後ろから抱かれている私も抵抗できずにぐるぐるまわる。


 右も左も上も下もわからないくらい回っている。さっき食べた劇物と相まって、これ以上続けると乙女の命が危うい。


 胸が尋常じゃないほどむかむかしてきてるんだけど。いや、冗談じゃなくてね。


「した! した! したからぁぁぁぁぁ!」


「してねえ奴に限ってそういうんだよ!」


 まずい。さすがにおちょくりすぎたらしい。美少女獣使いが、筋肉の塊の男拳闘士と力比べしても勝てっこない。


 つまりは、抜け出せないというわけで。


「シャリィちゃん、ミィミィもあれやりたい!」


「ダメですよ。ああいう大人にだけはなっちゃいけなんです。ああいうのはごく一部の大人だけですから、真似しないようにしてくださいね?」


「でも、すっごく仲がいいよね!」


「ああ……たしかに。 私の昔の仲間もあんな感じだったような……?」


「お願い誰か助けてぇぇぇぇ! ……うぇっぷ」


「おいばかやめろ」






 おねえさんの乙女の命は口から漏れずに済んだけど、終わったその時はまともに立つことができず、バルダスにおぶさって喫茶店に戻る羽目になった。











「お、お待たせしました。《お子様ランチ》です。……あの、悲鳴が聞こえたんですけど大丈夫ですか?」


「うう……ますたぁ、聞いてよぉ……。バルダスに足腰立たなくなるまでやられたぁ……。もうおねえさん、お嫁にいけない……」


「ちみっこどもの前で誤解を生む表現はやめろ。……またオシオキが足りないのか?」


「ごめんなさい」


 さて、マスターがやってきたのは私がぐるぐるの刑から解放され、そして気分もいくらか楽になってきたころだった。


 どうやら彼は彼で急いでそれを作ってきたらしく、バンダナの境のあたりに汗がじんわりと浮き出ているのが見て取れた。


 ことり、と目の前に置かれたそれはまさに出来立てで、ほかほかとした熱気とともに食欲を駆り立てるいい香りを放っている。メニューはシャリィちゃんたちと同じだけど、量は少し多いし、うまく言えないけどどことなく見た目も大人っぽい。


「それじゃ、さっそく──」


 どれから食べようか迷ったけど、私はおいしいものを一番最初に食べるタイプだ。魅惑の肉の塊にフォークを走らせ、一口大のそれを唇につける。


 ぱくっと口に放り込んだ。






 溢れる肉汁。


 香ばしいかおり。


 柔らかな肉のうまみ。


 ああ、これだ。


「──うん、おいしい!」


「それはよかった」


 この瞬間、私の心は確かに子供になっていた。






 肉といえば、やっぱりステーキだろう。料理人に言ったら殴られるだろうけど、あれってただ焼くだけだし。


 私は肉の、あの固い噛み応えがたまらなく好きだ。あの固い肉の筋を自らの歯で噛み千切るのがすっごく好きだ。そしてしっかりと咀嚼し、肉の味を噛みしめるのが何よりも好きだ。


「おぉ……!」


 ところが、どうだ。


 この”はんばーぐ”は全然固くない。すっごくやわらかい。ちょっと歯を突き立てただけで簡単に噛み千切れる。


 もちろん、柔らかい歯応えだけじゃ私を唸らせることなんてできはしない。こいつのもう一つのすごいところは、肉の旨みがぎゅっと詰まっているところだ。


 噛むと肉汁がじゅわっと出てきて、お口の中が大洪水になる。このなんとおいしいことか、うまく説明する術が見つからないくらいだよね。


「うめぇ肉だなぁ……!」


 ちょっと焦げて黒くなっているところもまたなんとも香ばしくておいしい。これら全部含めて、肉そのものの旨みってものが生かされている。


「”でみぐらすそーす”ってお肉にも合うんですね!」


「割と万能ですからね。この手の料理には重宝してますよ」


 コクと甘みが魅力的なこのソースも肉の味を一段と引き出してくる。それ単体で舐めてもおいしいものだけれど、こいつの真価が発揮されるのはその肉汁と合わさった時だ。旨い脂と旨いソースでもはや無敵だと思ってしまう。


 歯応えがないのだけはちょっと残念だけれど、それを補って余りある素晴らしさがこの”はんばーぐ”には詰まっている。


「……よし」


 次の標的はこの”ふらいどぽてと”だ。たぶん芋を油で揚げたものだろうけど、全然それっぽく見えない。フォークをぶすりとさすと、どこか柔らかい手ごたえを感じた。


「うん、いいかんじ!」


 アツアツで、すっごくホクホクしている。芋の素の味が素晴らしいのだろう、若干の甘みと芋の風味が癖になる。これまた絶妙に振られた塩のしょっぱさが病みつきとなり、なかなか手が止まらない。この皮のところも、その舌触りが最高だ。


「フライドポテトくらいはそっちにもありますか?」


「似たようなのはあるけど、一般の家じゃ芋を大量に揚げるだけの油を用意することはまずないよね。そりゃ、作るのは楽だけどだったらふかしたほうが安上がりだし」


「酒場だったらわりと見かけるけどよ、油を繰り返し使ってんのか芋がベタついてうまくねぇんだよ。ひどいところなんて明らかに匂いがちげぇんだ。ありゃ、多分前日の油をケチって使ってんだな」


 バルダスの言う通り、ここまでうまい芋を出す店はそうそうない。安酒場でのメインのくせに、安酒場だからまずいというわけのわからないことになっている。芋がうまい酒場はいい酒場だとは誰の言葉だったっけか?


 さて、芋を首尾よく腹に収めた私は次にサラダに目を付けた。豆、コーン、トマト……。緑の野菜に赤や黄色の彩が添えられ、味だけでなく見た目も楽しませようとする料理人の意思が伝わってくる。


「うん、しゃっきりしていておいしい。新鮮だね」


「こればっかりは切って盛り付けるだけですし、僕の腕じゃなくて育てた奴の腕ですよ」


 肉でいくらか脂っぽくなった口を瑞々しいトマトが洗い流し、そして甘いコーンがアクセントとなって野菜の仄かな甘味をさらに引き立てていた。


 しゃきっ、しゃきっと耳元で痛快な音が響いて気分がよくなってくる。これ、新鮮な野菜じゃなきゃ出ない音なんだよなぁ……。


 そうそう、コーンといえばこの”ばたーこーん”もすごい。サラダのコーンはさっぱりとした甘さだったけど、こっちのはこってりとした獣的な甘さだ。バターの風味がよく効いていて、後を引く。肉の付け合わせとしてはこれ以上ないほどのものだろう。


 なんだかんだで、脂があるものはおいしい。これは真理だ。


「あうう……どれを食べていいのかわかりません……!」


「んなもん、好きなものから食えばいいじゃねえか」


「だって、全部好きなんですよ!」


 たしかに、これは困ったことになったね。次に”おむらいす”を食べるべきか、それとも”なぽりたん”を食べるべきか、おねえさん、ちょっと決めることができないよ。


 ここはあえてまた肉に戻るか、それとも大穴をついてデザートに……いや、さすがにそれをするのは邪道もいいところだろう。


 とりあえず、豪華な飾りのついた”とろぴかるじゅーす”でぐびりと喉を湿らせておくことにする。


「この豪華さが《お子様ランチ》の罪なところですよねぇ……」


「ちなみですが、その名の通り子供が好みそうなものを子供の好みそうな味付けで提供するお料理となっています。日によっては品目が変わることがあるので、必ずしも同じものを食べられるとは限りません」


 つまり、頼んで運ばれてくるまで何が出てくるかわからないってことだ。そりゃ、子供じゃなくてもドキドキワクワクするものだろう。むしろ、こういうギャンブル要素は冒険者が好むものだ。


 ──つまり、冒険者ってのは本質的には子供ってことなのかな?


「見た目もいいし、種類も多いし、これ一つ頼むだけで飲み物もデザートもついってくるって最高じゃないか。おねえさん、三食これでもいいくらいだよ」


「えーっと、実はそれだけじゃないんですよね」


 そう言うとマスターは、こそっと後ろに隠してあったのであろうバスケットを

私たちのテーブルの真ん中に置いた。


 さっきラズにあげたラズベリーのと同じバスケットかなとも思ったけど、明らかに中身が違う。バルダスがのそっと身を乗り出してそれを覗き込んだ。


「……なんだこりゃ?」


「お子様ですので、おもちゃのおまけつきです。お一つだけ選んでくださいね」


 編み込まれたカラフルな紐。

 どこか懐かしい彩り鮮やかな模様の布袋。

 花と金の飾りのついた艶のある棒。

 網でできた小袋に入った透明な宝玉。

 細いひもが巻かれた木でできた何か。

 奇妙な木槌に紐で玉がつけられたもの。


 バスケットに入っていたのは、そんな玩具ともガラクタとも取れる宝物だった。


「ほ、本当にいいんですか? この宝玉、明らかに金貨数枚はかかりそうな気がするんですけど……」


「ビー玉ですか? どうせじいさんのところからかっぱら……ごほん。今度別口で捌こうと大量に用意したのを持ってきただけですから、気にすることないと思いますよ?」


 とはいえ、さすがにこうも値の張りそうなものをポンと渡されたら、いくらおねえさんでも若干驚くよね。しかもマスター、今かっぱらってきたって言わなかったかな?


「ますたー! ミィミィこのきれいな棒がいい!」


「ああ、かんざしだね。ちょっと待ってね……ええと、よし。ほら、可愛くなった」


 ミィミィちゃんが選んだのはどうやら髪飾りだったらしい。マスターはくるくると器用にその棒を使ってミィミィちゃんの髪をまとめた。始めてみる飾りだったけど、ただの棒とは思えないほど決まっていて、ミィミィちゃんの金髪によく映えている。


「かわいい?」


「うん、可愛い、可愛い」


「えへへ♪」


「マ、マスター。私はこのミサンガで……」


「はい、どうぞ。あと、これはミサンガじゃなくて紐の髪飾りですね」


「……つけてくださいね? 私、お子様ですし」


「……」


 幼児退行したアミルを無視し、私もそのバスケットの中身を漁る。どうせなら、他の人とは違うものを選んだほうがいいよね。うーん、なにかオシャレなのがあるといいんだけどなぁ……。


「もこもこのおねーさん、これなんてどうです?」


「お、いいね」


 シャリィちゃんが渡してくれたのは木製のストラップだ。木を真ん丸に削ったものの表面に狼が飾り彫りされている。艶やかで透明感のある蒼黒を基調とし、狼そのものは白く色を付けられていた。


 全体的に上品で、どことなく神秘的な感じがする逸品だ。こんなに細かく彫って色を付けるの、きっと大変だったろうなぁ。


「狼の根付って言うんですよ!」


 腰元につけるらしいので、ベルトのあたりに括り付けておく。うん、なんかすっごくオシャレをした気分だ。


「なぁ、食ってからゆっくり選んでいいか? こんな楽しいことを一度にやるのはオレには無理だ」


「ええ……さ、出来ましたよ」


「可愛いですか?」


「ええ、とっても……似合っています」


 アミルの顔がふにゃりと崩れた。マスターも冷静を装っているけど、よく見ると耳の端が赤くなっている。こうも見せつけられちゃうと、おねえさんも燃えてきちゃうよね。ま、今は空気を読んじゃうけれども。


「かっちかちのおじさん、ミィミィがぷりん食べるの手伝ってあげるね!」


「……ちっ、今回だけだからな」


 なんだかんだでバルダスは優しい。食べたいだろうに、当たり前のようにミィミィちゃんにデザートを上げている。その人の良さがどうして顔と体格に出なかったのか、おねえさん、残念でならないよ。


「シャリィちゃん、ミィミィとはんぶんこしよ!」


「望むところです!」


 ミィミィちゃんも優しい。当たり前のようにシャリィちゃんと極上のデザートをはんぶんこしている。ふと、いつだったかのエリィとの話を思い出した。こんな小さな子でも分け合うことを知っているなんて、一昔前の自分がちょっと恥ずかしい。


 きっと、ミィミィちゃんはいい人に育てられたのだろう。……エルフだから、里全体で育てられたことになるのかな?


「おじさん、みすてぃにもはんばーぐちょうだい!」


「オシオキが足らなかったみたいだな?」


「ごめんなさい」


 この流れならいけると思ったのに、ダメだった。やっぱりあのおじさん、優しくなんてないみたいだ。












 わいわいがやがやと、童心に帰ってその夢のような時間を楽しむ。


 おいしい料理にステキなおまけ。どうやら”おこさまらんち”はお子様しか頼めない料理なのではなく、食べるとお子様のようになってしまう料理らしい。


 ふと、気づいてみたら緑の相棒は柵の中でぐうすか寝こけていた。主のピンチに駆けつけないと思ったら、こういうことだったのか。


「どれにすっかなぁ……」


「かっちかちのおじさんじゃ、髪飾りはできないね」


「もこもこのおねーさんとおそろいにします?」


「それもなんだかなぁ……」


「いいじゃないか、おそろい。おねえさんそういうの大好き」


 なによりも、この何も気にせず安らげる空間がいい。この場所なら、きっとどんな堅物であろうと、子供のような瞳の輝きを取り戻すことができるんじゃないだろうか。


「このカッコイイやつで」


「鬼の根付を選ぶとは……バルダスさん、渋い趣味してますね」


「だろ?」




 結局似たようなのを選んだごっついスキンヘッドの大男。なんだか妙に面白くなった私はぺろりと唇を舐め、最後に残った”とろぴかるじゅーす”を一気に飲み干した。








20150102 誤字修正

20160502 文法、形式を含めた改稿。


新年早々ふざけすぎた。

あとぐるぐるの刑が初登場。


お子様ランチって何から食べるべきか迷うよね。

あと、おまけの玩具が豪華なところとそうでないところの差が激しい。

長崎ちゃん○んの玩具は豪華だったような……?


そしてフラッグを付けるのを忘れた。

おにぎりのやつもいいけど、おにぎりだとフラッグがないんだよね。

オムライスだとついているところとついてないところで半々くらいかな?


そしてふと気づく。

半分以上ふざけてただけじゃん!

お子様ってレベルじゃない。

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