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学者とマドレーヌ


「……」


 心を落ち着け、掌に集中する。


 魔力と言うものは心で操作する。つまり、緊張状態よりリラックスしているときのほうが魔法はうまく使える。


 ましてやこれから行うのは初めて使う魔法。いくらこの僕が天才といえど、いや、天才だからこそできることはやっておかねばならない。


「……」


 掌に風が纏い冷気の渦を作り上げる。だが、まだだ。


 甘い香り、花の香り、和やかな談笑、程よい緊張。


 条件はそろっている。ならば、後は実行に移すまで。


「……!」


 その空間そのものを“止める”ことに意識を特化する。凍らせるのではなく、ただ止める。他には何も考えない。形を持って止めることさえできればそれでいい。


 やがて、変化は訪れた。冷気の渦の真ん中に、きらりと光る結晶が現れる。止まれ止まれと頭で念じるとそれはどんどん大きくなり、やがて一つの氷塊となった。


 魔力を操作しそれを砕き、目の前のコップに落とす。ぽちゃんと音がして、それは水に浮いた。


 一秒、二秒、三秒。変化はない。魔力に還元することもない。形が崩れることもない。暴発して辺りを凍らせることもない。


 つまり──成功だ!


「どうだ!」


「ばっちりです、おにーさん!」


「おめでとうございます」


 マスターと給仕の女の子──シャリィが手を叩いて褒めてくれた。この僕がやったのだから成功するのは当然だが、やはりうれしいものはうれしい。コップを動かすと、からからと気持ちのよい音がした。


「分子運動論か──完全な理解はしてないし、信じられない気もするが、この瞬間を持って“納得”した」


「あたしも三割も理解してませんもん。あれ、知れば知るほどわかりませんし」


 いつもの喫茶店の中。そこで僕は魔法の練習をしていた。使い手の少ない、氷魔法の練習だ。


 普通、魔法を覚えるとなると相応の年月が必要になる。ましてや氷属性だ、使えない人間のほうがはるかに多い。


 だが、僕は分子運動論の概要を理解しそれを実用化することで氷魔法の使用を可能にしたのだ。始めてから一月もたっていない。まさに革新的な方法だった。


「いいなぁ、魔法。僕も使ってみたいですよ」


「練習すればいけるはずだ。魔力操作に長けたものに補助してもらうのもありだな」


 うらやましそうにマスターがこちらを見る。


 一応すべての人間は理論上誰でも魔法を使えるはずではあるが、一般人には使えないものも多い。魔法を使うより実際に体を動かした方が遥かに効率的である故、覚える必要がないのだ。


 主婦や嫁入り前の娘などは女の必須スキルとして生活魔法を覚えるが、あくまで生活に役立つ小規模なものであり実践的とはいえない。子供や営業職、甘やかされて育ったものなんかはろくに使えない場合も多い。


「すごいね、本当に使えない魔法だったのかい?」


「…シャリィちゃんと、同じ魔法?」


 アオン!


「すごいだろう。なんたって僕は天才だからな!」


 隣の柵付きの席に座っていた二人の女。獣使いとエルフ、あとおまけに使い魔のグラスウルフ。


 研究の途中に店に入ってきて、興味津々にこちらを見てきていたのは気づいていたが、その時は集中していたので完全に無視した。こうして一息つくまで喋りかけないでくれたあたり、なかなか物事をわかっている。


「で、おまえたちは誰だ? 初めて見る顔だな」


 エルフはリュリュ、獣使いはミスティと名乗った。グラスウルフはラズと言うらしい。こいつらも常連らしく、ここにはちょくちょく訪れるそうだ。今までかち合わなかったのはおそらく行動規則が僕とずれているからだろう。


「ふむ。まぁいい。とりあえずマスター、注文だ。手があまり汚れず片手で簡単に食べられるものを」


「あ、お姉さんもそれで。ラズにも適当に頼むね」


「…私も」


「かしこまりました。少々お待ちくださいね」


 そういってマスターは奥へと引っ込んでいく。いくら僕でも“くっきー”一セットで長々と居座れるほど厚かましくはない。……そういえば、今日はいつからここにいたんだろうか?


「ねぇ君、もしかしてレイクが言ってた魔本好きの学者かい?」


「あいつが僕以外の学者を知らなければおそらくそうだな」


 この獣使い、どうやら魔本に興味があるらしい。恐ろしげな表情をしてちろりと唇を舐め、目を爛々と輝かせて聞いてくる。……この店にいる以上、経験的に悪い奴ではないと思うが、背筋がゾクリとした。


「ちょっと相談に乗ってほしんだけどね」


「まぁいいだろう。この僕の英知をかしてやる。何の相談だ?」


「…私の教えている弓士についてだ」


 どうやら相談事があるのはリュリュのほうらしい。聞くと、リュリュは最近獣人の新人冒険者に弓を教えているとのこと。


「獣人の新人弓士? ……エリオか?」


「…そうだ」


 どことなくおどおどした表情のシカがぽっと頭に出てくる。ふむ、あいつのためなら一肌脱ぐのも悪くない。借りもまだ返してないしな。


 自然と口の端がにぃっとあがってしまった。いい実験体になりそうだ。


「…あいつの弓の腕は悪くない。悪くはないが、威力がそんなにない。だから、魔法も使えるようにしたかった。幸いなことに魔法そのものの才能はなかなかのもので、これなら良い具合に仕上がると思ったのだが……」


「どうした? それなら問題あるまい」


「シカのおにーさん、魔法うまかったんですねぇ……」


「……攻撃魔法の才能がまるでない。あいつは優しすぎる」


「……は?」


 混乱しそうになるところを、無理やり押さえつけて冷静さを保つ。このエルフ、いま攻撃魔法の才能がないと言ったのか?


「…生活魔法は目を見張るほどの練度がある。だが、攻撃となるとウッドラビット一匹仕留められない。弓士でもつかえる《炎の魔法矢(ファイアアロー)》も、綺麗な形を複数作り、持続時間も長いくせに獲物の直前で威力が激減する」


「うわぁ……。普通、逆じゃないですか?」


「…私も、そう思ったさ」


 アオン!


 ふむ、となるとその魔法の才能をどうにか活かせるようにするのが僕の仕事と言うわけか。


 しかし、一朝一夕で魔法はどうにかなるものでもない。手っ取りばやい解決を図るのなら、魔本を持たせるのが一番じゃないか?


 ……いやまで、あいつは弓士だ。弓を使いながら魔本を扱うのは難しい。なるほど、確かにこれは一筋縄ではいかないな。


「で、アルはなにかいい案はないかな? お姉さんとしても、できれば力になってあげたいんだよね」


 ミスティはいっそのこと魔力を攻撃に使うのではなく、獣使いのように、魔力を餌とする魔物を従うのに使えばいいと考えたそうだ。


 たしかにそういう戦い方をする弓士もいるが、あいつはそんなタマじゃない。リュリュもそれはないと言い切ったそうだ。


「…僕がいま思いついたのは三つ」


「なんだい?」


「一つ、特殊素材を使った魔工矢を用いること。これならわずかに魔力を込めるだけで発動し、普通の矢として扱える。欠点として一本のコストが高く貴重品であるため滅多に使えないことがあげられる。素材を自分で調達したとしても加工費はバカにならない」


「……うーん、たしかに新人のうちからそういうのを使うのはよくないね。お金もかなりかかるだろうし」


「二つ、魔法をきちんと使えるように特訓すること。先ほどの氷魔法のように、現象に関する明確な理由付け及びその仕組み、原理、プロセスその他を理解すれば比較的簡単に既存の魔法の強化、さらには新しい魔法を覚えることができる。もちろんこれは僕が教えられる。欠点としてエリオが僕の話についていけない可能性があるのと、現象を正しく理解したところで魔物に魔法を当てると言う行為の根本については何ら解消されないことがあげられる」


「…たしかに、可能性はあっても解決にはなってないな」


「三つ、僕が弓を使ってでも容易に扱える新たな魔本を開発すること。これは今述べた全ての問題を解決できる最高の方法である。しかし、ゼロから全てを考案するので膨大な時間がかかるし研究費用もかかる。なにより、僕をもってしても必ずしもうまくいく保証はどこにもない」


「無茶苦茶力技ってかんじですね! それより、矢に純粋な魔法を付加するのってできないんですか? 剣に火を纏わせるみたいに」


「原則的に、その手の魔法は離れたら消えてしまう。剣に火が灯るのは使い手が剣を持っているからだ。それを疑似的に成すために魔工矢が開発された」


「あらら。世知辛いですねぇ」


 とはいえ、簡単に思いつけるものと言ったらこれくらいだろう。いくら僕がすごい学者と言えど、神ではないのだ。やれることにだって限界はある。


 ああでもない、こうでもないと悩みながら、奇妙に穏やかで充実した時間が過ぎていった。






「お待たせしました。《マドレーヌ》です」


 僕たちがうんうんと頭を悩ませることしばらく。マスターがほんわりと甘い香りをするものを持ってきた。


 慌てて僕は机の上に広げた魔法陣の写しを端に避ける。“くっきー”等、一度食べたものならともかく、初めて食べるものには敬意を現すべきという考えからだ。


 アオン!


 その優しい香りに反応したのだろう、ラズが実にうれしそうな挙動を取る。机に置かれたそれは見た目の質感は“けーき”のそれに近かったが、ほんのりと暖かな小麦色──薄いキツネ色とでも形容すべき色合いをしてる。つまり、“くっきー”の色に近いということだ。


「…これは、貝?」


「貝だね」


「貝だな」


「貝です!」


「貝ですよ」


 こいつの特徴として、見た目が二枚貝そっくりだと言うことがあげられる。ふんわりと膨らんだそれに硬質感などまるでないのだが、貝の溝が付き、ご丁寧に蝶番までついている。シルエットだけでみるのなら、どこからどうみても貝だ。


「あんまり考えすぎるのもよくないですよ。疲れたときは甘いものが一番です」


「たしかに、一理あるね」


 にこにこと笑うマスター。疲れていようがいるまいが、一理あろうが無かろうが、ここに来た以上、こいつを食べるのは確定事項であるのだ。


 僕はキツネ色のその塊をつかんだ。見た目通りの質感のそれはふんわりと僕の指に沈み込む。指が沈み切る前に、その魅惑の結晶を齧り取る。




 優しい甘さ。


 慈悲のこもった香り。


 まるで母のかいなに抱かれたかのよう。


「うん、うまい!」


「それはよかった」


 このおいしさは、誰にでも理解できる普遍的事実なのだろう。



 “まどれーぬ”はその見た目通り、非常に優しい味をしている。“くっきー”や“けーき”も悪くはないが、こいつは微かな、それでいてじんわりと広がっていく甘さを持っている。


 氷が水に溶けるように、とでも形容するべきか、本当にいつの間にか、気づけばそこにある甘さだ。あまり強くはない、仄かでおぼろげな甘味だからいくらでも食べられそうだ。


 もごもごと口を動かし、ふわっとしたそれに再び思い切り齧りつく。このなんとも言えない口当たりもいい。


 決して主張しすぎず、求められた時だけ適切な柔らかさを持ってこいつは僕の舌を、口を押し返そうともがく。


 柔らかなそれは触れた舌の水分を奪い取り、絶妙なしっとり感をだして舌に吸いつく。この、奇妙な感覚が僕は堪らなく好きだ。


 もう一度口を動かすと、ぱふっと押しつぶされた“まどれーぬ”から甘い空気が噴き出し、心地よく鼻に抜けた。


「…いい。いくらでも食べられそう」


「まったくだね」


 リュリュが、ミスティが、次の“まどれーぬ”へと手を伸ばす。


 こいつは、いくらでも食べられてしまう魅力がある。つまり、食べねば食べられてしまうということだ。


 ごくごく当たり前で何ら不思議なことではないのだが、だからこそ、こいつは真理といえる。……もっとも、皿は別だから僕の分までは食べられないはずではある。


「相変わらず、この甘さは……」


 シンプルな見た目通りのシンプルな味。この優しい甘味の正体はいったい何なのだろうか。


 砂糖が使われているのはわかる。ミルクが使われているのもなんとなくわかる。だがしかし、香ばしいような、芳しいような、お菓子特有のこの甘味はなんだ?


 香ばしい香りが鼻腔をくすぐり、僕の心を甘い底なし沼へと引きずりこむ。その正体がわからぬ限り、真の意味で僕がお菓子を理解することは不可能だ。


「なぁマスター。なんでこれはこんなにうまいんだ?」


「何故と言われましても……」


「なにかあるはずだろう、なにか。理由のないことなどこの世に存在するはずがない」


「…そうかもしれない。けど、必ずしもそれがヒトに理解できるものでもないのでは?」


「……むぅ」


「おねーさん、なんかかっこいい!」


「…ふふ、そうだろう?」


 困ったように笑うマスター。真面目な顔で返すリュリュ。にやにやと笑うミスティにけらけらと笑っているシャリィ。ラズは“まどれーぬ”を食べ終えたのか、次をくれと催促していた。


「…認め、理解することは確かにすばらしいことだ。だが頭ではなく、体で感じることも素晴らしいとは思わないか?」


「……まぁ、認めなくもない」


 何故だか悔しくなって、僕は“まどれーぬ”に大きく齧りついた。確かに分子運動論を始め、この世には解明されていないが確かな出来事が腐るほどある。だが、まさかそれをこのエルフに語られるとは思わなかった。


「不思議と言えば、どうしてこれは貝の形をしているんだい?」


「そういえば……どうしてでしょうね? マドレーヌっていえば、この形って決まっているんですよ」


 マスターは自分の作ったものの意味さえ理解していなかったらしい。作った本人でさえそうなのだから、僕が理解できないもの恥ずかしいことではない。


 ……いやまて、もしかして形と味になにかしらの因果関係があるのか? そもそも、形を除けばこいつは普通の“すぽんじ”の類とそこまで変わらない。この形こそが“まどれーぬ”を“まどれーぬ”たらしめているものなのか?


「お姉さんはこの貝の手触り、けっこう好きだよ。柔らかくてふわふわで、いつまでも握っていたいね」


「…あの果実のように、飾りが目的なのか?」


「いえ、そういう話は聞きませんが……」


「ちょっとしたお茶目ごころじゃないですか? ただの楕円だったらちょっとさみしいですし」


「仮にそうだとして、なぜ貝なんだ? 貝である理由はなんだ?」


「おにーさん、わかってませんねぇ。それこそがお茶目ごころってやつですよ?」


「なん……だと……!?」


 迂闊だ! そうか、これこそがお茶目ごころだったのか!


 原因や過程にとらわれず、自由な心で結果に不規則性を持たせる。この自由な心こそがすばらしさの秘密だったのか!


「どうやら、僕はまた賢くなってしまったらしい」


「はぁ」


 自信満々にいった僕をシャリィは胡散臭そうな目で見てきた。無知なるもの嫉妬だろうか、いやいや、そういう穿った見方はよくない。少し前までは僕もきっとこんな顔をしていたのだろうから。


「喜べ、今の弓の問題も解決したぞ。さすが僕だな」


「…本当か?」


 そう、考えてみれば簡単なことだったのだ。“まどれーぬ”のように自由な発想をしてみればいい。結果さえよければいいのだから、この際原因や過程に捕らわれる必要はないのだ。


「矢も弓も普通のものを使う。細工するのはあいつの小手だ」


 僕はどけてあった魔法陣の写しの束からあるものを引っ張り出す。マスターの“くっきー”のデザインから生まれたこの世に二つとない魔法陣だ。こいつは確か、そう、エリオが食べていたやつを写したものだ。


「こいつだ」


「なんだいこれ……? 丸い、蛇?」


「……ウロボロス、か? 昔話で聞いたことがある」


 ふむ、どうやらリュリュは知っているらしい。


 僕が取り出した紙に描かれていたのは自らの尾を噛む荒々しい蛇。長い体を丸め、円環のようになって噛んでいる。もちろんリアルな絵ではなく、遺跡の壁画のようなデフォルメされた姿だ。


 ただし、こちらは奇妙なマークが加えられ、それそのものが魔法陣のような構図になっている。写すのは面倒だったが実用化はかなり楽だった。


「この魔法陣は魔法の効果時間を長くする効果がある。例えば通常、ろうそく程度の火を出す魔法は一瞬で消えてしまいかねないが、こいつを通せばしばらくは持つようになる」


「……それ、かなり強力じゃないか? 強大な魔法もそいつを通せばずっと継続しつづけるんだろう?」


 確かに素人ならそう考えてしまうだろう。だが、物事そううまくはいかない。


「正確には込めた魔力を霧散させずに留めさせる効果らしい。強大なのには大してはあまり効果はないだろうな。持続させるほど膨大な魔力を使うから効率的でないし実用性も皆無に等しい」


「なんだ、残念」


「…まて、だとしたらそいつを使えば」


「そう、矢そのものに魔法の付与が出来る。通常射ると霧散する魔力をそのまま纏わせ続けられるのだからな。付与はあくまで補助で普通の魔法よりかははるかに消費は少ないらしいし、付与して当てるくらいまでの時間は余裕で稼げる」


「あれ、できないって言ってませんでした?」


「今までそんな魔法陣なかったからな。僕が生み出したわけだけど」


 小手にこの魔法陣を仕込めばどんな弓や矢を使おうとオリジナルのマジックアローを放つことができる。魔力と実体を持つ強力なやつだ。魔法陣を改良して複数しこめばさらに応用の幅が広がることは間違いない。


 それにこいつはあくまで持続の魔法陣だから、エリオ自身の魔法の腕が上がればマジックアローの能力も上がることになる。道具だけの性能では大した効果はなく、使い手自身と連動して成長していく。


 完璧だ。頼りすぎることも使えなさ過ぎることもない。これ以上に完璧な案などあるだろうか? いや、あるはずがない。仮にあったのだとしたら、それはこの僕が新たに考え付いたものくらいだろう。


 ……“まどれーぬ”のように、弓そのものに形を彫りこんでもいいかもしれない。番えて魔力を込めるだけでマジックアローが撃てそうだ。


 ああ、なんだかよくわからないが実に気分がよい。これがあるから学ぶということはすばらしい。この感覚はお菓子を食う喜びに勝るとも劣らない。


「感謝するぞ、マスター。もしマスターが“まどれーぬ”の全てを知っていたら、この発想にはたどり着けなかった」


「はぁ、お役に立ててなによりです」


「もう少しで“くっきー”の魔法陣の解析も終わる。そこから実践や改訂作業も残っているが、“くっきー”の魔本の完成も遠くない。どんなに才能がなくてもすごい魔法が打ち放題だぞ。もちろんマスターでも、だ」


「たぶん、僕の場合才能云々以前の問題だと思うのですけど……」


「何を言う。この僕が作る魔本だ。撃たせてみせるさ」


 自信なさげに笑うマスターと大いなる自信にあふれる僕。話もひと段落したところで“まどれーぬ”を取ろうと手を伸ばしたが、その手はすかっと空を切った。


 どうやら話に夢中になって食べ終わっていた事に気付かなかったらしい。


「…もう一皿、頼む」


「お姉さんと、あとラズにも適当によろしく」


「はは、かしこまりました」


「僕にもだ。リュリュ、ミスティ、話を詰めるぞ!」







 僕が学ぶべきことはまだまだたくさんある。そして学んだ知識は活かされる機会をまだかまだかと待ち構えている。まだシャリィや爺さんから知識を全て学んだわけでもないし、わからないことも多い。


「せっかくですし、こういうふうにして……!」


「ほぉ。なかなか面白い着眼点だ」


 今もまたほら、シャリィのおかげで革新的な着眼点を得ることができた。なるほど、五指に対応して魔法陣を組むといのは面白いアイデアだ。これだからここに来るのはやめられない。



 この世はわからないことだらけだ。それがたまらなく喜ばしいことのように思える。



 ただ一つだけ、確実にわかっていることがあるのだとすれば。



 それはここがとても居心地がよく、お菓子がものすごくうまいということだけだ。




20140330 誤字修正

20160403 文法、形式を含めた改稿。


甘さ控えめでとってもおいしい。

粉砂糖を多めに振ってあると個人的にばっちぐー。

……ホントなんで貝の形してるんだろ?



あととあるゲームのマドレーヌ先生が大好きです。

あの人すごすぎるでしょ。

どちらかというとマイナーの類に入るからやっている人見たことないんだよなぁ。

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[気になる点] 後書き。 マドレーヌ先生って、マジバケですか?自分の周りでもやってる人いなかったなぁ。あのゲームの売りである通信が全く機能しない悲哀。 キャラ名も地名も基本食品関係だったから、プレイヤ…
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