エルフと淡雪羹
マイナー……か?
夏の和菓子です。
「ようこそ《甘夢工房》へ。おや、リュリュじゃないか」
カランカラン、といつものベル。静かな森に響き渡る心地よい音。うだるような暑さの中、この音だけはいつ聞いても変わらない。私の長い耳が自然にピクリと動くのを感じた。
扉を開いたその先。一歩踏みこめば、そこに広がるのは別世界。森に勝るとも劣らない、私を虜にした誘惑の館。鼻腔をくすぐる甘い香り。心の温まる特別な空気。
今日もまた、来てしまった。
「エルフのおねーさん……? いらっしゃいませぇ……」
「…どうした?」
いつもと同じ、華やかながらも落ち着きのある店内。シャリィちゃんがぐったりと机に突っ伏していた。ちょこんと顔だけあげ、自分の氷魔法で作った氷塊を頬に当てている。爺はその様子を苦笑してみていた。
「……」
私はシャリィちゃんの隣に座り、ゆっくりとその顔を眺めた。火照った顔、早い脈、荒い息。おでこに慎重に触れる。熱い。
氷か汗か、どちらかはわからないがじっとりとぬれている。私もあまり人の事はいえないが、今のシャリィちゃんは汗だくだ。
「おねーさんのおてて、つめたぁい……♪」
「…気にいってくれてなによりだ」
にへら、と顔を崩してシャリィちゃんは私の手に擦り寄ってきた。間違いない。暑さでバテている。
エルフの集落でも、この時期はこんなふうにばてるやつが続出する。ここはまだ川が近いからましな方だが、あちらはとにかく蒸れる。薄着になるくらいしか対策はないが、シャリィちゃんの給仕服はそういうわけにもいかない。腕まくりがせいぜいただろう。
「暑いなら汗かく前に着替えなって言ってるんだけどねェ」
「だって……あたしの唯一のアイデンティティ……!」
ううん、と唸ってシャリィちゃんは起き上がり、私のために水を取ってきてくれた。自分用のだろう、可愛らしいグラスに氷をいっぱいに創り、私のにも入れてくれる。
そこにどこからかとりだしたレモンを絞り、軽く混ぜてくれた。この時期によくやるサービスらしい。
「はい、どうぞぉ……!」
「…ん」
こくり、と受け取ったそれを飲む。なるほど、レモンの爽やかさがでて普通の水を飲むより気分がすっきりする。暑いときにはもってこいだ。
からから、と飲んでいくうちに氷が解けて軽快な音を出す。氷を入れるサービスなんて産まれて初めてだが、なかなかいいものだ。古都の他の店でも魔法使いを雇ってこれくらいやれば少しはマシになるのに。
カランカラン
ガッ!
ああ、良い音だ。この音は入口のベルの音に非常によく似ている。涼しげな音色は本当に体を冷やしてくれたかのようだ。
この手の中にある素晴らしい楽器を、できることなら持ち帰ってしまいたい。
…ところで、先ほどの音はなんだろう?
「マスター、来ちゃった!」
「お、お邪魔しますっ……!」
「……!」
「よぅ、いらっしゃい」
「シカのおにーさんにリスのおねーさん……」
元気良くあげられた声に思わず身構える。入口に立っていたのは若い獣人の男女。
赤毛の女はリス。蒼い男はシカ。その立派の角を痛そうにさすっている。
女はそれには目もくれず、きょろきょろと店内を見回し、私と目があった。最初はきょとんと。次に驚きに。最後に好奇。よくもまぁ、ヒトというのはこれほどまでに目の表情を変えられるものだと思う。エルフでここまで豊かに目で物事を語れる者はほとんどいない。
「エルフだ!」
「し、失礼だよハンナ」
「…気にしない」
若い、というかまだ子供に近いのだろう。シャリィちゃんに近い無邪気さがその少女からは感じられた。逆に少年のほうは少々引っ込み思案のようだ。見るからにおろおろしている。
私も引っ込み思案なほうかもしれないが、すこしタイプが違う。
「うわぁ、こんなで近くでエルフをみたの初めて! ねぇ、お姉さん名前は? あたし、剣士やっているハンナっていいます! こっちは相棒のエリオ!」
「よ、よろしくおねがいします。弓士です」
「…リュリュだ。狩人ということになる。弓と魔法を少々」
同じ弓を使うものとして、この少年には多少の親近感がわく。まだあどけなさの残るエリオの顔は、身長が高いぶんかえって逆にその幼さを際立たせていた。
「……」
「……あ、の」
しばらくじっとみていると、エリオは顔を赤くしてへらっと顔を崩した。こいつも夏バテか?
がっ!
「い、痛い!?」
「ふん!」
鈍い音。痛がるエリオ。頬を膨らませるハンナ。おろおろとハンナを見るエリオはどうにも頼りなさげな印象を受ける。
森に真っ先に呑みこまれるタイプだ、これは。
「おにーさん、ダメですよあれは」
「え、ボクなにかした?」
「…なにかしたのか?」
「おねーさんもですか……」
シャリィちゃんが呆れたように私を見てきた。あちらから見えない位置でくいくいとハンナを指され、ようやくその意図を理解する。
なるほど、つまり、そういうことだ。
ヒトではそういうことがあるらしいというのは事前知識として知っていたが、生で見るのは初めてだから気がつかなかった。エルフ同士ならもっとストレートに伝えるのに。ちょっと面倒だ。
爺もにこにこと笑いながらエリオとハンナに水を渡す。ハンナはもらったそれを一口で一気に呷ってしまった。
「なんでエリオはいつもこう……!」
「許してやってくれんかね。男ならべっぴんに見つめらるとああなっちまうもんさ」
「おじーちゃんもそうなの?」
「……はっはっは」
「…私は美人に入るのか? …一応弁明しておくが、そんなつもりは全くなかった」
「……それはそれでなんか悔しいわね」
「え、なになに? どういうこと?」
「おにーさんにはまだ早いお話ですよー」
和やかな談笑。心地よい空気。やはり、この店に来る人間ならば普通に喋ることができる。
古都の食堂はいまだに慣れない。ガサツなのが多すぎる。この少年たちみたいに無邪気な心が足りないんだ。なぜ人は子供の純真な輝きを忘れていってしまうのだろう。
「そういえばマスターは? あたし、そろそろ何か食べたい!」
「あいつは今日はちょっといないよ。鍛え直してくるって修行中さね」
「修行中? マスター、戦えたんですか?」
「…そういえば、どうなんだ?」
先日、私が見たのは拳を血に濡らしたマスターだ。戦えるらしいという感じこそわかったものの、実際に戦ったところを見たわけではない。
おそらく、またあのような事態になった時のために備えているのだろう。いつか手合わせを願いたいものだ。
「試合形式でなら……バルダスに勝てるくらいかねェ? ま、それももうすぐ追い抜かれると思うが」
「バルダス?」
「常連の一人さ。レイクと同じくらいの力はあるよ」
「え? それじゃ、マスターってもしかしてボク達よりも強いの?」
「何でもありならおにーさんたちのほうが絶対強いですよ。マスター、戦うのとか基本的に好きじゃない人ですし」
そういえば、いつだったかマスターが事故で常連相手に大暴れしたと聞いたことがある。実力はあるが優しい性格だから荒事には向かない、と言ったところだろう。
爺もそのバルダスに稽古をつけられるほどの腕前があるから、森の中とはいえここでの安全は保障されているようなものだ。
「ま、マスターは置いときまして。ご注文はどうします?」
例えマスターが不在でも、この喫茶店には頼りになる店員が二人もいる。運営そのものにはあまり影響は出ない。
「えーっとね……暑いから、なんか涼しげなもの! いいわよね、エリオ?」
「うん、ボクもそれでいいかな」
「…私も、それで。…“あいすきゃんでー”?」
先日食べた冷たいカラフルな棒をふと思い出す。涼しげなもの、といえばアレだ。食べると腹の底から冷えてくる。
エルフの集落にも持っていきたいと思ったのだが、この暑さではすぐに溶けてしまうから無理だとあきらめた。ティティはこっちに来れると思うが、チュチュ婆様の脚じゃここまで来るのは難しい。なんとか食べさせてやりたいものだ。
「それもいいが、別なのも食べてみたいと思わんかね?」
「…うん」
爺がにこりと優しく笑った。その笑顔を見てどことなく安心する。たぶん、私は一生かかっても爺には逆らえないのだと思う。
任せておくれよ、といって爺は奥へと引っ込んでいく。爺の時はあの不思議な音色の箱をあまりやってくれない。ちょっと残念だが、きっと毎回やっていたら感動も薄れてしまうのだろう。身近過ぎるものは、なんだってその偉大さを忘れ去られてしまうものだ。
「はいよ、おまたせ。《淡雪羹》だ」
エリオたちと話すことしばらく。ちょうど、爺が悪の黒フードの首を取ったクライマックスのあたり。
私の話に熱中していた二人は爺の言葉にも気づかなかったらしい。目の前に風流な平皿を置かれて初めて爺の存在に気付いたようだった。
「どうしたね?」
「おじーちゃん……最強なんでしょっ!?」
「長距離狙撃にナイフ一本の乱闘……。権力に屈することなくマスターたちのために戦う常連……! カッコいいなぁ…! ボク達もその中にいたかったなぁ……っ!」
「……ちょっと誇張しすぎじゃないかねェ?」
「ウソはいってませんよ? ね、おねーさん」
「…うん」
「そうかい。でもま、お前さんたちはあの場にいないほうがよかったね。死ぬこたぁなかったかもしれんが、手加減できずに殺してたかもしれん。さすがに人死にを起こす必要はなかったからねェ。あせらずゆっくり力をつけな」
「うんっ!」
キラキラと目を輝かす若人に爺がそれとなく注意をいれる。ハンナはともかく、エリオは弓士だから乱闘じゃ厳しいだろう。魔法もあまり使わないそうだし、誤射の可能性もぐんと上がる。今度、鍛えてやるべきか?
され、それはともかくとして今日のメインに目を向ける。どことなく落ち着く、雅な不思議な材質の平皿。見た目は石のようだが、ガラスのようなつややかさもある。
そこには一輪の花がポツンと描かれていた。後に知ったが、これは陶器と言うらしい。
「……」
「あ、なんかちょっとかわいいかも!」
「……ボク、未だにハンナの可愛いの基準がわからないや」
そんな平皿の上に直方体が四つ。白いの、ピンクの、空色の、仄かに黄色いの。どれも無機質ともとれる均一で滑らかな見た目で、柔らかそうではあるが
“けーき”のそれよりも“ぜりー”のそれに近い。
大きさとしては短剣の中でも小型のものの持ち手くらいだろうか。シャリィちゃんの手でも軽く覆ってしまうことができそうだ。
それらが斜めにちょっとずらして綺麗にちょこんと並べられている。その隙間からのぞく花がなんとも愛おしい。
「“ぜりー”みたいなものかしら?」
「うん、あれを四角に切りだしたらこんな感じだと思う」
どうやらエリオとハンナも“ぜりー”を食べたことはあるらしい。平皿に一緒についていた木の棒を見ると、食べ方は“わらびもち”に近いのだろう。爺が進めてきたことから考えて、おそらくこれは和菓子というやつだ。
「…いただこう」
「「いただきます!」」
まずは白いのに、そっとスティックを滑らせる。滑らかな心地よい抵抗と共にそれは切り取られ、私の前で美しい身を震えさせた。
ああ、この感じ、たまらない。食べる直前のこの瞬間が、私は堪らなく好きだ。
目を閉じ、心を落ち着けて、ゆっくりとそれを口に入れた。
あまい。
ふわっとする。
涼しげで。
初めての。
「…うん。おいしい」
「そいつぁよかった」
やっぱり、どうがんばっても爺には勝てそうにない。
私が食べた白い“あわゆきかん”はほんのりと甘かった。いつものよりもさらに繊細で、注意しなければそのすべてを理解することはできないと思う。風邪をひいたり味の濃い物を食べた直後で舌がバカになっていたらこの“あわゆきかん”の魅力の半分もわかりはしない。
「すっごい! エリオ、これすっごい!」
「うん、わかったからちょっと落ちつこうね、ハンナ」
ハンナが目を輝かせている。それもそのはず、“あわゆきかん”の食感は私も生まれて初めての感覚だ。
柔らかい? いいや、そんな陳腐な表現では決して表すことはできない。口に入れた瞬間、それこそ淡雪のようにすぅっと溶けてなくなってしまう。もう少し待ってくれと切に願うも、儚くそれは散り、後には甘さの残滓が残るだけ。
先ほどまで確かに近くにあった大切なものが、どこか遠くへ行ってしまう。そんな感覚だ。
それがなんとも愛おしくて切なくて、形容しがたい、悲しみのようなものを覚えずにはいられない。さらに困ったことに、この悲しみは決して不快なものではなく、むしろ何度も感じたいと思ってしまう類のものだ。
「すごいでしょ? あたしも初めて食べたときびっくりしましたよ!」
シャリィちゃんがにこっと笑っている。
儚く散りゆくそれは、歯触りを楽しむことすらむずかしい。繊細な香りと風流な味だけを残して消え去ってしまうのだ。入ったと思ったらもう溶けて消えてなくなってしまう。どうして、どうしてなくなってしまうのだろう。
味も、風味も、舌触りも、歯触りも。これにつまっている全てを私は感じ、楽しみたい。
だというのに、ずるい。卑怯だ。こんなのってないだろう。反則だ。
悔しさをにじませ、私は白いのをさらに口に入れた。
「わぁ、ピンク色のはイチゴだね。すっごくおいしいや」
「イチゴもけっこういけるだろう? なんだかんだで一番人気なんだよねェ」
あっという間に白いのがなくなってしまい、私はピンク色に狙いを定めてスティックを伸ばした。すっと全体の三分の一ほどのところを切り取る。
あまり小さすぎると全く楽しめずに消え去ってなくなってしまうし、大きすぎるとすぐに楽しみの回数が減ってしまう。とてもとても悲しく難儀なことだ。
三分の一ほどのこの場所は大きさ、及び回数的にもっともベストなポジションなのだ。
「……ん」
ゆっくりと、一瞬も逃すまいと集中してそれを口に入れる。じわぁっと、イチゴの豊かな風味があっというまに口に広がり、そして余韻をバラまいて、はじめと同じようにあっという間に消えてしまった。
ああ、おいしい。和菓子の甘さに、果物の甘さが見事にかみあっている。
強すぎず、弱すぎず。互いを高め合うその様は芸術に等しい。まるで夢のようなそのひと時。心がとろけるようなイチゴの甘さだけが、私がそれを食べた唯一の証拠だ。
「こっちの薄黄色のはなにかしら? 風味も味も、すっごくいいの! こんなのはじめて!」
「んー……こないだの“もざいくぜりー”にもちょっとあったような?」
「お、おにーさん正解です。よくわかりましたね。あれにはほんのちょっと、アクセント程度にしか使わなかったのに」
「こいつは梅さね。こっちにゃ見かけない果物……かねェ?」
「…なぜ疑問形?」
「いや、定義的には果物なんだが、イメージ的にはそうでもないのさ。まぁ、些細の事さね。梅は梅さ」
薄黄色のそれを、恐る恐る食べる。ふわっと、特徴的な甘味。ああ、最高だ。
この甘味の奥には、果物の中でも珍しい種類の酸味が感じられる。柑橘の酸味とは全く違う、未知の領域だ。
この甘味と酸味が、刹那に散りゆく“あわゆきかん”をさらに昇華させている。切ない甘酸っぱさ、とはまさにこのことだろう。うん、この『梅』は私のお気に入りに決定だ。
どこからかエルフの笛の音でも聞こえてきそうなほど、これを食べているとなにか心の奥深くにある懐かしさを揺さぶられる。エルフの樹笛の高い音と川と森の音は、この和菓子によく合うんじゃないだろうか。
これが、梅なのか。ぜひとも持ち帰って集落のものに見せたいものだ。
「あれ、最後の一個、ボクのはイチゴだけど、ハンナのは空色だね」
「…私のもそうだな」
「ああ、そいつはミントリキュールを使ったやつだ。す──っとして気持ちいいんだが、エリオはこいつは苦手なんだろう?」
ミントというのがエリオは苦手らしい。ありがとうございます、と礼を述べ、エリオはイチゴのそれに取り掛かる。お子様ね、とハンナはエリオを笑いながら、空色のそれを食べていた。
いつもと同じことだが、私もミントとやらは初めてだ。ちょっとわくわくしている自分がいるのが頭の隅で理解できる。
「……あ」
すぅっとした初めての感覚。見事な清涼感。じわっと溶けたそれが残していったのは、けちのつけようのない爽やかさ。
なるほど、暑い時期にはぴったりだ。舌が空気に触れるたび、どことなく冷たく感じる。ちょっとクセがあるかもしれないが、なかなかのものだ。
「リュリュは大丈夫かね? こいつは好みが別れるんだ」
「マスターも苦手なんですよね、これ」
「…大丈夫、とってもおいしい」
「やっぱり! リュリュさんならわかってくれると思ってたわ!」
「…たしかに、これのよさがわからないのはちょっともったいない気もする」
「うう、なんでみんな大丈夫なんだろう……?」
最後の一口を、私は名残を惜しむようにして胃の中へと送った。なにもない平皿が、余計に寂しさを掻きたてる。
儚い淡雪のように、それはこの場からはなくなってしまった。いつも、この瞬間は悲しさと満足感で奇妙な感情に支配される。ただ、何故だか今日はそれが特に際立っていた。
「…ごちそうさま」
「はいな。お粗末さまでした」
シャリィちゃんが皿を片づける音。この食べ終わった後の余韻も私は好きだ。
ゆったりと、悠久の時がそこに流れているような気がする。この空間で、ずっと椅子に体を預けることができるのならばどれだけいいことか。
いつの間にか汗も引き、気分がすっきりしていることに気付く。ずっと椅子に体を預けるのもいいかもしれないが、やはり人は立ち上がって進むべきものなのだろう。
ちょっと休憩したのなら、次は歩きださなくてはいけない。自然と活力が体に満ち溢れ、がんばろうという気分にさせてくれる。ここは、そんな場所だ。
「そうだ、リュリュさん。セインさんとは知り合いなんですよね?」
「…そうだな」
ゆったりとこの空気を楽しんでいるとハンナが唐突に聞いてきた。私の答えを聞いて嬉しそうに笑う。エリオがどうしたのかとハンナを見つめ、それに気付いたハンナがエリオに言い聞かせるように話した。
「もしよかったらですけど、一緒に冒険に出かけませんか? あたし、セインさんに少し剣を習っているんですけど、ここ、常連で弓を使っている人を他に見たことなくて…」
「…なるほど、構わないぞ。みっちり鍛えてやる」
「やったぁ!」
エリオよりも、ハンナのほうが嬉しそうに笑う。どうも彼女の行動の優先度の最上位にエリオは存在しているらしい。
全く、幸せなことだ。そして、エリオはそれに気づいていない。身近にあるからこそ、わからないのかもしれない。
「…ふふっ」
思わず笑みが零れる。こうして年下の面倒を見ると言うのも悪くない。爺もこんな気分なのだろうか。私はまだまだ若いが、それもエルフでの基準。
たぶん、爺とは同じくらいの年代のはず。ある種のシンパシーを感じているのかもしれない。
「…どこへいく? 四人で大丈夫か?」
「えーっとリュリュさんは他に知り合いいます?」
「…うん、こないだの件でだいぶ増えた。…レイク、バルダス辺りで時間のとれそうなのを誘うか。このメンツなら前衛か遊撃が欲しい。ハンナが守りに徹するのならアミルを誘って遠距離特化でもいい」
「わぁ、なんかすっごい冒険者っぽい会話! かっこいい!」
「まぁ、冒険者だからね」
シャリィちゃんの言葉にエリオが照れたように返す。
どうでもいいが、エリオは会話に参加しているといってもハンナの相槌を打ったり無茶なことを止めたりするだけで、あまり自分の意思を通そうとしない。欠点を埋め会うコンビとしてはハンナとぴったりだが、この性格についても少しなんとかしていかないといけないな。
「…そうだ、爺達は何か欲しい物とかないのか? 冒険者の修行なんだ。依頼主からの目標があったほうがためになる」
「そうかい? それじゃあね──」
メンバー、武器、戦い方。爺のだした目標をどう達成するか三人で話し合う。
実力的にはこの二人に勝っているとはいえ、私も冒険者としては新米なのは変わらない。こうした作戦会議もためになる。あまり人と組むこともなかったし。
賑やかに進んでいく時間。こんな和やかな時が永遠に続いてほしいと願ってしまうのは、果たしてそれは本当に悪いことなのだろうか。年を重ねれば、わかるのかもしれない。
20160401 文法、形式を含めた改稿。
口どけふわっとしていて見た目もいいかんじ。
あ、ちょっとしたお知らせを活動報告に書きました。




