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盗賊とチェリークラフティー


「あー……」


~♪


 心地よい音楽。甘い香り。綺麗な花。盗賊なんかにゃ全然似合わないシャレた喫茶店。


 そんな中で俺はだらしなく机につっぷしていた。どこか遠くのほうでマスターがグラスを拭いている音が聞こえる。近くではシャリィが掃除をしている音が聞こえた。


「あー……」


「だらけてますねぇ、おにーさん」


~♪


 うっせいやい、と声を上げようとしたがその気力すらない。


 シャリィが無造作に俺の座っている椅子を押し出しその下を掃除する。どうせ勝手知ったるなんとやら、この程度なんとも思わない。つーか、こうして何もせずだらけてるやつは客と言えないだろう。


「おつかれですね、レイクさん」


「うー……」


~♪


 すこし顔をあげて“くりーむそーだ”をちびちびと飲む。たぶん、これを注文して一時間くらいはすでにたっている。よくぞまぁマスターは今まで俺を追いださないでいてくれたもんだ。それも、相変わらずのにこにこ笑顔。


 普通だったらこんな客すぐに締め出す。誰だってそうする。俺ならそうする。


「なにかあったんです?」


「いや……なんもねぇ」


 “すとろー”をがじがじと噛む。なんていうか、つい噛んじまうんだ。こないだシャリィに聞いたんだが、普通は噛まないものらしい。噛むのは子供だけだそうだ。先がつぶれているから俺の使ったグラスは一目でわかるんだってよ。


 おこちゃまですね、と笑われたが、普通噛むだろ、これ。


「何もない人がこんなにだらけるはずないですよ。おにーさん、嘘つくならもっとスマートにしてくださいよ」


「いや、本当になにもねえんだよ」


 最近、どうもマンネリ気味だ。冒険に出てもスリルも新しい発見もない。もうだいぶ長いこと遠出をしてないから当然っちゃ当然だ。


 だって、遠出したらここに来れなくなっちまうし。もうすっかりマスターに胃袋を抑えられちまったもんだから、ここに来ないとどうにも調子が出ない。


 で、ここに来るからこの周辺は探索し尽くす。つまり、飽きる。


~♪~♪~♪♪~──......


「典型的なダメ人間ですねぇ」


「ほっとけ」


 来る日も来る日も同じような依頼。ぶっちゃけ、ここに来るくらいしか楽しみがない。


 娯楽と言えば遊都マーパフォーだが、そんなところまでいくのは骨が折れる。長旅になっちまったら意味がない。どっかに都合よく移動芸人集団とかいないもんかね。


「でも、お仕事しないと生活費を稼げないのでは? 僕がいうのもなんですけど、冒険者って結構大変なんですよね?」


「ここのメシ、ありえないくらい安い。安くてうまくて腹が膨れる。食費は前と比べ物になんねえんだ。仕事減らしてもお釣りがめっちゃ出るし、ついでに古都近辺の依頼しか受けないから装備の金もほとんどかからない」


 あとはここが宿を開いてくれたら完璧だ。酒を出してくれるともっと嬉しい。たぶん、一ヶ月いつも通りに働けば二ヶ月働かなくてすむと思う。


 そうなったら俺はここに一生住むだろうな。楽だし。静かだし。いいところだし。


「マスター、宿やんねえか? 出来る限りの範囲で融資するぜ」


「はは、じいさんの気分次第ですね」


「おにーさん、本格的にダメ人間になっちゃいますよ」


 たぶん、あのじーさんならキャパシティ的には問題ない。でも、今の俺みたいなだらだらしてるやつには容赦がないはずだ。尻ひっぱたかれて冒険へと叩きだされる未来が目に浮かぶ。


 ああ、やる気ねえ。とことんまでやる気でねえ。このまま一生ここでぐうたら過ごしたい。


 俺、なんで働かなきゃいけないんだろう。働きたい奴だけ働けばよくね?


「もうっ、元気出して♪」


 シャリィがくねっと身をよじらせ、前かがみにポーズを取った。そのままにへらと笑い、俺の背中ににぎゅっと抱きついてくる。


 軽装越しに伝わる柔らかさ。上等な生地を使った給仕服なんだろう。だが、だ。


「知ってますよ、男の人はこうすると元気出るんでしょ?」


「十年早えよ」


 しっしっとシャリィを引っぺがす。ガキが珍妙なダンスを踊ってるようにしか見えなかった。色気のいの字もありゃしない。おままごとの延長でももっとマシなのがあるだろう。


 おまけにまっ平ら。悲憤の絶壁。デスウォールもびっくりだ。何とは言わないが。


 もとより、俺にはそっちの趣味はない。口を膨らまされても困る。そういうのはリュリュあたりにやればいいと思う。


「シャリィ、どこでそんなの覚えたの!?」


「え? 部長のおねーちゃん達?」


「あの人たちは……」


 珍しくマスターが疲れた顔をしていた。“部長のおねーちゃんたち”とやらは相当いい性格をしているらしい。


 しかし、一体誰のことをいってるのかね?


 少なくとも常連じゃないはずだ。自慢じゃないが俺は常連の中でも一、二を争うくらいここに入り浸っている。その俺が知らない常連がいるはずがない。


カランカラン


アオン!


「ラズちゃんにもこもこのおねーさん!」


「いらっしゃい。《スウィートドリームファクトリー》へようこそ」


「いらっしゃいませー」


 なんとなくノリで挨拶をする。意外と楽しい。冒険者やめたらここで働かせてもらうかな。給料は少ないかもしれないが退屈はしなさそうだ。


 入ってきたのは片手斧(ハンドアックス)を持った獣使いの女。初めて見る顔だ。この暑いのに毛皮鎧を着込んでいる。こいつも常連になるのかね。


「やぁ。また来ちゃったよ。彼は新しい店員かい?」


「いえ、違いますよ」


 親しげにマスターと話す獣使い。使い魔はするりといつの間にか出来ていた柵に入りこんでいた。


 ああ、こいつら常連だ。俺の知らない常連だ。世間は広えなぁ。


「……君、ずいぶんとだらけてるね」


「いいじゃねえかよぅ、だらけたって。人生たまにはそういう日もあるさ」


「ま、否定はしないけどね」


 女──ミスティはそういうとわざわざ俺の前に座った。というか、俺が柵のある席に座っていたっぽい。


 ミスティは面白そうに俺を眺めると、ぺろりと唇を舐める。あ、めっちゃ怖い。食われそう。物理的に。


「“影の英雄”様がこのざまか……。しゃきっとしないとリュリュにシャリィちゃんに手を出したって言うよ?」


「すみませんごめんなさいそれだけはごかんべんを」


 一瞬で背筋が伸びた。この女、なんてこと言いやがる!

 しかも、リュリュの知り合いだ! あの人みしり無愛想エルフの知り合いだ!


「まさかあんたが“部長のおねーちゃん”か?」


「なんだいそれ? おねえさんは“もこもこのおねーさん”だよ?」


 シャリィから貰った水をちびちび舐めながらミスティは答えた。


 でも、こいつじゃないってんなら一体誰だってんだ? さすがに他に常連がいるとは思えない。他の連中からそれらしい話も聞いたことがないし。


「ああ、あれじゃないかな? マスターのいうガッコウってやつの」


「ああ、ギルドっぽいなにかか」


オン!


 その通りです! とシャリィは答えた。


 相変わらずこのガッコウとやらも不思議な存在だ。複数の人間が所属しマスターもそこから通っているという話なのにどこにあるのかどんな機関なのかこれっぽっちもわからない。


「マスター、俺ガッコウいきたい。なんかめっちゃ楽しそう」


「おねえさんも興味あるかな。マスターの親友って人にもあってみたいね」


「はは、ちょっと難しいと思いますよ?」


 マスターは笑顔ではぐらかし、奥へと引っ込んでしまった。


 絶対何か隠してやがる。そして隠されるからこそ気になる。まぁ、マスターが答えないなら知ってそうな奴に聞けばいい。そう、例えどんな手段を使ってでも。


「シャリィ、おもちゃ買ってやるから知ってること教えてくれよ」


「えと、じいじからマスターが教える気になるまでは詳しいことは教えるなって言われているんです」


「それは残念だね。しかしレイク、今の君の言葉はまるで……」


「まるでなんだよ?」


 にやりと笑ってミスティは口を閉じた。リュリュやエリィあたりに聞かれていたら完全にアウトだったな。


「詳しくなければいいんだろ?」


「しょうがないですねぇ」


 シャリィは語る。


 ガッコウとはギルドのようなもの。近い年頃の人間を集めて訓練をする。


 ここに所属する人間を“セイト”と呼ぶ。訓練は定められた四十人単位で行われるが、“ブカツ”と呼ばれる同じ職業の者同士が組むパーティーもあるらしい。マスターはこのブカツを三つ掛け持ちしているそうだ。


 うん、わけわかんねえ。だいぶ複雑な組織っぽいな。


「じいじはいずれおにーさんたちが生徒の方々と会うことになるって言ってました。学校にいくことになるだろうとも」


「マジか。超楽しみだ」


「お願い事ってのはそれ関連なのかな」


 どうやら、ちょっとは楽しいことが起こりそうだ。











「はい、お待たせしました。《チェリークラフティー》でございます」


 ミスティたちと話しているとマスターがなにかを持ってきた。片手に盆、もう片手にはさくらんぼ。たぶんこれはラズの分だろう。


 俺もミスティも注文なんてしてねえけど、いつも通りのことだ。どうせだいたいがお勧めになるから注文をとったところであまり意味はない。マスターは気配りもできる男だ。俺が女なら惚れてるね。


 さて、マスターが持ってきたのは相変わらずみたことのないやつだった。なんか丸い“ふれんちとーすと”っぽいののなかに赤黒くて丸いのが埋まっている。それの色が染みだしたのか、そこの周りも少し赤っぽくなっていた。


 そして全体には白い粉──砂糖が満遍なくかかっている。この砂糖はいつも使っている奴よりもさらに細かくて白く、まるで白粉おしろいみたいなやつだ。こないだの“ぱんけーき”のときに聞いたが、“ぱうだーしゅがー”というらしい。


 見た目はそこまで派手じゃない。けど、どことなく素朴な感じがする。ふと、お袋の料理を思い出した。そこはかとなく懐かしい感じがする。


「うん、いい香りだね」


アオン!


 素朴な甘い香り。こういうのも悪くない。表面のうまそうな焦げ目からただようわずかな香ばしさ。どうも冷えているみたいだが、まるで焼き立てであるかのようだ。


「冷えるまでちょっとかかっちゃいましてね」


 埋まっているのはやや大ぶりな木の実、いや果物。これはさくらんぼだな。たぶん、ラズが隣で食ってるのと同じやつだろう。


 さっそく自分の分からナイフで三角に切り取り、その先端をフォークで刺す。


 うん、やっぱり柔らかい。こんな柔らかさを持つ食べ物なんてここでしか食えないんだよな。


 そして、期待の瞬間。魅惑の黄色を口の中へと送り出した。





ここでしか味わえない甘さ。


果物の甘さ。


どことなく香ばしい香り。


そう、いつだってここで食うものは──


「──うまいな!」


「それはよかった」


 ここで俺の期待が裏切られたことはない。




 “ちぇりーくらふてぃー”の甘さは“けーき”とはだいぶ違う。


 なんていうんだろうな、言葉で表現するのは難しんだけど、こう、優しいってだけの甘さじゃなくて、優しさの裏にある種のとろけるような想いを秘めたような感じだ。


 うん、自分でも何言ってるか判らない。ただ、甘さの種類がちげえってのが伝わってくれればいい。


 やわらかさの種類も“けーき”のそれとは違う。どっちかっつーと“ふれんちとーすと”に近い気がする。ちょっとぷるっとしたような感じだ。


 “ふれんちとーすと”は焼き具合で結構変わってくるから、そういった意味でも間違いはないと思う。とりあえず、これは食べたやつにしかわからない。


「いいね。さくらんぼがすっごくいい」


 ぺろりとミスティは唇をなめた。怖い。あいつの癖なのかな。毛皮鎧と相まって余計にワイルドに見える。


 それはともかくとしてこの埋まっているさくらんぼもうまい。パッと見ると萎びているように見えなくもないが、噛みしめるとさくらんぼの果汁が驚くほど出てくる。


 ぷるっとした“ちぇりーくらふてぃー”との相性は最高だ。こいつは“けーき”とはまた違った味わいがある。


「これ、“べりーたると”と同じやつかい?」


「いえ、違います。確かにタルト生地を使ってますけど、作り方やその他諸々は全く違うんですよ」


 “ちぇりーくらふてぃー”の底と縁は固くなっている。他と比べて香ばしい感じもする。


 “くっきー”っぽい見た目と味だが、食感はだいぶ違う。形を持ったまま崩れる“くっきー”ってとこだろう。


 ミスティに聞くと、これは“たると”というらしい。同じ形で“くりーむ”とベリーをたくさん載せたものを食べたことがあるそうだ。


「底と縁は一緒なんだけど、中身が全く違うんだよね。これが“くらふてぃー”なのかい?」


「ええ。タルト生地を使わない場合もあるんですよ。で、今回はさくらんぼ(チェリー)を使っているから《チェリークラフティー》です」


「《ストロベリークラフティー》とかもあるんですよ!」


 シャリィの言葉に思わず耳を傾ける。どうもこの手のお菓子はいろいろな応用が効くらしい。いつか全て食べきることはできるだろうか。


 そんなこんなしている間に最初の一切れを食べ終わり、次の一切れに手を伸ばす。


 クラフティーの中は表面より白味が強めだ。温めた濃いミルクのような色をしている。そして切った断面からは大粒のさくらんぼが丸見えだった。


 ごろっと贅沢に、それでいて多すぎない程度に使われている。さくらんぼが多すぎたら、“くらふてぃー”のところが楽しめないもんな。


アオン!


「ラズもこのさくらんぼが気にいったみたいだね」


「楠のおにーちゃんのですからねぇ」


 そいつがマスターの親友のガッコウの一員か? なんの職業についているのか。いや、考えるまでもなく農家(ファーマー)か。


 甘くとろけるような宝石を口いっぱいに含んで噛みしめる。


 “くすのきのおにーちゃん”、ありがとな。あんたのおかげで今日もお菓子がうまい。どこの誰だか知らねえけど、あんた最高だよ。


 黙々と俺は口を動かす。


 “たると”、“くらふてぃー”、さくらんぼ。この三つがそれぞれ違った歯ごたえを持っている。


 下の歯が軽く硬い歯ごたえを感じ、上の歯が柔らかいそれを押しつぶし、最後に上下一緒に絶妙な食感のさくらんぼを抱きしめる。これがなんとも堪らない。食べ応えが癖になる。


 三つの要素からなるということは当然香りも三つあるということであり、“たると”の香ばしい香りと“くらふてぃー”の魅惑的な甘い香りが合わさるともう夢のようだ。


 そして、そこにさくらんぼの果実特有のふわっとしたのが入ってくると言葉にできなくなる。ちょっと焦げ目がついているところだとさらにうまい。


「マスター、焦げ目ついてるってことは焼いたんだろ、これ」


「ええ。タルト型つくってクラフティーの生地を流して、さくらんぼ入れて焼くんですよ。簡単でしょう?」


「そうなんだ。それくらいならお姉さんにも作れるかな?」


「道具さえあればきっと作れますよ! あたしが保証します!」


アオン!


 うん、道具さえあれば誰でも作れるよな。俺が“くっきー”作らせてもらった時もやたらわけわからん測定器具と火の魔道具をフル活用してたもんな。あの厨房、見渡す限り魔道具だらけだったぞ。俺が冒険者の盗賊じゃなかったら確実にいくつか盗んでたね。


 冒険者の盗賊でも手癖の悪いやつはいるし、マスターって意外と危機感がないよな。それともそれだけ信頼してくれてるのか?


「それよりマスター、これわざわざ冷やしたみたいだけど、冷まさないと食べられないのか? 温かいのもうまそうな気がするんだ」


「どちらもおいしくいただけますよ? あったかい派と冷たい派がいますけどね。今日は暑いので冷たいのにしてみました」


 うん、やっぱり俺の勘は当たるな。冬になったらこれの温かいのを絶対に頼もう。冷たいのだけ食べて温かいのを食べないなんてフェアじゃない。


 盗賊は公正なのが好きだ。俺だけかもしれないけど。


 なんかいろいろめんどくさくなった俺はナイフとフォークを机に置いた。せっかく“たると”のおかげで柔らかいながらも崩れないようになっているんだ。手づかみでいってもバチはあたらない。むしろ、そうすべきだろう。


「おにーさんってば、だいたーん♪」


「だろ?」


 一切れ、手にとって大きく大きく口を開ける。グラスウルフもびっくりするくらい大きくあけて、思いっきりかぶりつく。


 ああ、堪らない! なんて贅沢なんだ!


 さくらんぼがごろごろ。

 “くらふてぃー”がぷるぷる。


 貪るってのはこういうことだ。バルダスのおっさんじゃないが、うまいもんはけちけちしないで一気に食べたほうが絶対にうまい。


「ふう……!」


 さくらんぼのいい香りに包まれて、少しだけやる気が出たような気がした。








「ごちそうさま。今日もうまかったぜ、マスター」


「うん、けっこうお腹に溜まるしね。おねえさんも大満足」


アオン!


 気持ちよく腹を撫でながら深く椅子にもたれかかる。この食べ終わった後の余韻が俺は好きだ。


 できることならこのままゆったりと目を閉じて眠ってしまいたい。甘い香りに、優雅な音楽につつまれてぐっすりと眠ってしまいたい。


 そして、夜中に目を覚ましてもう一度寝るんだ。最高じゃないか。ついでに可愛い女の子が薄いブランケットをかけてくれるともっといい。


「ちょっとはやる気が起きました? おにーさんやればできるんだからがんばりましょうよ」


 だがここに女の店員はシャリィしかいない。まあ、それで良しとするか。十年、早けりゃ五、六年我慢すればそこそこ見れるやつにはなってるだろ。できればそのころまでにゃ恋人とめぐり合いてえなぁ。


「なんならおねえさんと蜂蜜でも採りにいくかい? マスターに渡せばおいしいお菓子になって戻ってくるよ」


「こないだ採ったからパス」


「そういえばセインがそんなようなこといってたね」


 どうやらミスティもそれなりに常連と顔を合わせているみたいだ。リュリュ以外はもうみんな知り合いなんじゃねえか? そのうち常連同士でパーティーを組むようになるかもな。


 職業かぶってるのもいないし、みんな戦い方はバラバラだ。近、中、遠、遊、魔、全部そろっている。


 ……常連でクランが作れんじゃね? なんか割とマジでいい案のような気がしてきた。


「とはいっても冒険者たるもの、働かないとね」


「そこなんだよなぁ」


「もこもこのおねーさんは稼いでるんですか?」


「もちろん。ラズのご飯代とかもあるから稼がないとマズいんだ。ただ、収入は結構あるんだけど、支出がそれ以上に酷い」


 会計をすませながらミスティは苦笑する。獣使いは出費が激しいと聞くし、経営状態を心配するくらい安いここはあいつにとってはまさに夢のような場所だろうな。


 数枚の銅貨をマスターに渡し、俺も会計を済ませる。明日は何して過ごそうか。遠出する気はさらさらない。外に出る気もあまりない。


 そんなダメ人間の典型のような俺に、マスターが女神のような言葉を投げかけた。









「よかったら臨時バイトします? お給金は出来高次第になっちゃいますけど。今度古都の中で臨時出店するんで、人手が欲しいんです」











20150517 文法、形式を含めた改稿。


マスターが好きなのはタルトを使った冷えたやつ。

熱い飲み物と一緒に食べるのが好きらしい。


中学生くらいまでストローをかむ癖が抜けなかった。

絶対かむでしょ、あれ。かまない人間なんているの?

ヒトの本能的に噛むって、あれは。


クランは冒険者個人の集団で、パーティーより大きなチームのことです。

クラン内でパーティーメンバーの融通をしたり武器や道具の共有をしたりします。魔法特化のパーティーを組んだり、盗賊だけのパーティーを組んだり、クランの規模が大きくなればなるほど目的に特化したパーティーを組みやすくり、役割分担によって自分にできないことを気軽に仲間に頼めたりします(クランに所属する冒険者の学者が危険地帯にある植物のサンプルを同クランの狩人に採ってきてもらうなど)。気心の知れた仲間同士というのもポイントが高いです。あくまでパーティーの延長なので、クランにもよりますが公的機関であるギルドのように強制力はなく、ゆるいところが多いようです。騎士団や魔法兵団も一種のクランになります。


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[気になる点] え、レイクがアミルとラズに宣戦布告!? [一言] 単行本から来ました。
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