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新人剣士&弓士とモザイクゼリー

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「今日はなぁ~ににしようかな~♪」


「ま、まってよハンナ」


 古都の近くの、いつもの森。ルンルン気分でぴょこぴょこと動くハンナの耳を追ってボクは進む。


 今日のハンナはいつにもましてご機嫌だ。ここのところ依頼は成功続きだし、簡単な採取だけじゃなく討伐だってやった。レイクさんとセインさんと一緒だったとはいえ、あの奇蜂(ファニーホーネット)も狩ったんだ。


 最初こそちょっと怖かったけれど、レイクさんとセインさんがサポートしてくれたから二人で戦う時よりも動きやすくて、面白いように攻撃が決まった。あまりにもうまくいった戦闘だったから、正直、ボクもちょっと浮かれている。


 だって、セインさんが盾で弾き、レイクさんがおびき寄せた奇蜂をボクの矢が三匹まとめて串刺しにしたんだよ!


 自分がまるで物語の主人公になったみたいで、その日の夜は興奮してなかなか眠れなかった。


 翌日、寝不足でクマが出来た顔をハンナに笑われてしまったけれど、ハンナだって髪はぼさぼさの上にボクより酷いクマがついていたのをボクは忘れない。


「ほら、エリオも早く!」


 ハンナがご機嫌な理由はそれだけじゃない。とうとうボクたちも、昇級試験が受けられるようになったんだ。


 今のボクたちは九級。次の試験に受かれば八級冒険者。まだまだ低級冒険者だけど、一歩ずつ進んでいくことが大事なんだと思う。


「今日は景気づけにパーッとやるわよ!」


 振りかえったハンナがにっこりと笑う。その笑顔にしばらくぼうっとしちゃって、あわてて首を振って走り出す。今日は、ちょっといつもより贅沢しちゃおうって二人で決めたんだ。


「『勝負事の前には贅沢するとうまくいく』……だよね」


 レイクさんから教えてもらったジンクスだ。最近、レイクさんはジンクスに興味をもったらしい。影の英雄がやっていることなんだから、きっと効果はあるんだと思う。


 そんなことを考えながら、ボク達は内緒のすてきなあの場所へと向かっていった。








カランカラン


がつっ!


「お、その音は……シカのおにーさんにリスのおねーさんですね!」


「やぁ、いらっしゃい。《スウィートドリームファクトリー》へようこそ」


「……エリオ、あなた何度目よ?」


「……い、痛い」


 気をつけてはいるけれど、毎回ボクはここの扉に角をぶつけてしまう。ハンナは呆れたように言うけれど、これはけっこう痛いんだ。


 もうマスターも気にしていないし、シャリィちゃんにいたってはぶつけた音でボクが来たことを察知している。ちょっと悲しい。


「あの扉の傷、そういうことだったのか。……みたところ、新人ルーキーか?」


 痛む角をさすりながら店内を見ると、そこには動きやすそうな鎧を着た女の人がいた。


 たぶん戦士かな? ハンナが使うのよりもずっと大きな剣を持っている。情けないけれど、ボクにはとても使いこなせそうにないほどの大きさだ。あの女の人、きっとボクなんかよりずっと力持ちなんだろうなぁ。


「少年、ちょっと失礼なことを考えてないか?」


「あ、すみません。こいつデリカシーなくて。ほら、あんたもはやく謝りなさい!」


「ご、ごめんなさい!」


 こう見えてもけっこう傷つくんだぞ、とその女の人は笑っている。男の人っていつもこーですよねぇ、とシャリィちゃんがひやかす。なんだかちょっときまずい。


「私はエリィという。もしかして、君たちがレイクが助けたっていう獣人か?」


 女の人──エリィさんから出た言葉に一瞬ドキッとする。この人とは初対面のはずだ。なのに、どうしてボク達の事を知っているのだろう。


「ばかねぇ、ここにいるってことはレイクさんと知り合いでもおかしくないでしょ? それに、マスターだっているんだし」


「あ、そっか」


「レイクさんは結構顔が広いですからね。常連さんのほとんどと顔見知りですよ」


「顔見知りっていうか、もうお友達ですよ。盗賊のおにーさん付き合いやすい性格ですし」


 さすがはレイクさん。ボクたちなんて未だに知らない人とパーティーを組めないのに。


 新人だから、実力が近い人くらいしかボクたちと組んでくれる人はいないんだよね。それにここらへんには新人はあまりいないから、必然的に組める人も少なくなる。


 ハンナのえり好みが激しいのも原因のひとつだ。下心がありそうな男の人を弾くのはいいんだけど、なぜか普通の可愛い女の子とかともパーティーを組みたがらないんだ。なんでだろう?


「もしよかったらこっちの席にこないか? ちょっと君たちの話を聞いてみたいんだ」


「ハンナ?」


「もちろん、こちらこそお願いします!」


 一応聞く。けどボクに選択肢はない。まぁ、いいんだけどね。昔からこういうやり方だったし。


 席に着いたハンナはシャリィちゃんから差し出されたお水を受け取り、マスターに注文する。


「ねぇマスター。今日はちょっと景気よくいきたいの。あたしたちの懐が痛まない程度でパーッと豪華なのお願い!」


「はは、また難しい注文ですね……。じゃあ、ちょっと珍しいのをお出しします」


 ハンナのムチャクチャな注文にも、マスターは嫌な顔一つせずにこにこと笑って奥へとひっこむ。ボクもいずれはああいう風な対応ができるようなれるだろうか。






「なるほど、八級への昇級試験か……」


 お菓子が出るまでの間、僕たちは向かい合って話していた。驚いたことにエリィさんはすご腕の戦士で、あのアミルさんの親友だった。普段はソロで活動することが多いけれど、最近はアミルさんと組んで依頼を受け、帰りにここに寄るようにしているらしい。ボクたちも依頼の後にここに寄るから似たようなものだと思う。


 ものすごいベテランの冒険者の先輩だったので参考までに試験について聞くと、

頭を捻りながらゆっくりと答えてくれた。


「私のときは……《ゴブ大将》の討伐だったかな?」


「《ゴブ大将》?」


「ああ。ゴブリンは普通は群れないというのは知ってると思うが、稀にものすごく頭の悪い個体を少しだけ頭の良い個体が支配することがあるんだ。それが《ゴブ大将》って言ってな。だいたい子分を含めた五匹くらいで行動する」


「ご、五匹で行動するの!? ゴブリンが!?」


 ゴブリンはバカだ。おまけにものすごいゲスだ。


 共食い裏切り当たり前、味方同士の殺し合いだってざらだ。だけれども、腕力や体力だけはバカにできない。単体行動しかできないから新人でも討伐できるのだけれど、それが群れて統率した動きをするのなら、かなり手強い──いや、正直なところボクたちの手には余る。


「は、ハンナ」


「ああもう、やる前から情けない声ださないでよ!」


 でも、そんなにたくさんいるんじゃ、絶対ボク達だけじゃムリだ。みすみすハンナを危険な目に合わせるわけにはいかない。ハンナは猪突猛進なところがあるから、ここはボクが止めなきゃいけない。


 ……止められたこと、一回もないんだけどね。


「そうだぞ、エリオ。たしかに言葉で聞けば恐ろしいものだが、実際はそうでもない」


「え?」


「ほら、あいつらはクズだろう? だからすぐに終わるんだ」


「えと、エリィさん、どういうことですか?」


「そのままの意味さ。その、私と会うまではしぶしぶながらも子分は大将に従っていたようなんだが、私と目があった瞬間、子分が後ろから大将を殴り倒して、ご丁寧に大将の足の骨を折って逃げていったんだよ。

 後に残ったのは動けず奇声をあげて腕を振りまわす大将だけだ。それの首をすぱんってやって終わりさ」


「うわ……」


 ハンナが絶句する。シャリィちゃんも驚いた顔をしていた。


 この方法ならば敵からも逃げられるし、気にくわない大将も始末できる。ゴブリンは頭が悪い癖に、こういう知恵だけは人間以上のものがある。


 だからやつらは群れられないんだ、とエリィさんは言った。


「それに、さすがに新人をみすみす潰すような試験をギルドが出すはずないさ。せいぜい大けがってところだろう。この試験は、標的に対するリサーチと普通のゴブリン程度なら倒せる腕前、そして勇気を試すものだったんだ」


 なんでも、実力がないと《ゴブ大将》に出会った瞬間に攻撃を喰らうらしい。ただ、連中も好きで従っているわけではないので、ちょっと剣を振れる程度の腕を持つ──動けない大将を確実に仕留められるだけの腕を持つ相手だと認めると、すぐさま大将を犠牲にするそうだ。


「でもでもおねーさん、今回の試験までそれとは限らないでしょう?」


「そこなんだよな。でもまぁ、レイクと仕事ができたっていうのなら、それだけの実力はあるってことだ。自信をもって臨むといい」


 隣で話を聞いていたシャリィちゃんが当然の疑問を口にする。ハンナはすでに受かった気でいたらしい。想定外だ、と言わんばかりに驚いている。


「できれば、前衛をもう一人と魔法使いが欲しいかな。そうすればまず間違いなく突破できるだろう。バランスもいいし」


「あたし、魔法使えますよ! しかも氷です!」


 しゅたっと手をあげて立候補するシャリィちゃん。確かにその年で使い手の少ない氷魔法を使えるのはすごいけれど、さすがに子供を連れていくわけにもいかない。


 昇級試験は自分より上の級の人とはできないから、やっぱり二人で頑張るしかないかな。


「まぁ、なにかあったら力になるさ。剣だったらすこしは教えられるよ」


「はい、そのときはお願いします!」


 ふふん、と鼻を鳴らしてハンナがボクを見る。この喫茶店の常連に、弓を使っている人はいないのかなぁ……?










「はい、お待たせしました。《モザイクゼリー》です」


 ボク達が話しこむことしばらく。あの武器がいい、あそこに行くときはあれを持っていったほうがいい、あの魔物の弱点はあそこだ……などと、話の内容はそんなかんじだ。


 相談するというよりかは、一方的にボク達がエリィさんから教わっていただけだけど、身近に先輩冒険者なんてあんまりいないから、こうしてここでゆっくりと話せるのはとってもうれしいしためになる。今度から冒険のうちあわせはここでやるのもいいかもしれない。


 そして、今日のおいしいものがマスターによって運ばれてくる。きらきらした、とってもきれいな透明なものだ。


 ……ん? 透明? 食べ物なのに!?


「きれい……!」


「そこの窓と同じ色だな。しかし、なんともまぁ……」


 赤、白、緑に黄色。うっすらとコハク色になっている透明なそれのなかに、さらにカラフルな透明なのが入っている!


 窓からの光をきらきらと反射して、宝石みたいだ! いや、宝石なんかと比べちゃいけないほどきれいだ!!


「マスター、これって……?」


「はは、きれいでしょ? ちょっと手間がかかるんですけどね」


 そういってマスターはことりとそれをボクたちの前に置く。その衝撃で、そいつはぷるりと光を撒き散らして震えた。みためはぷにぷにで、スライムみたいだ。でも、スライムのような不快なぷにぷにじゃない。


「そういえばレイクが“ぜりー”を食べたと言っていたっけ。これも、そうなんだな?」


「ええ。いくつか種類があるんですよ」


 改めてその輝くぷにぷにの中をみる。まるで水槽の魚のように涙型や球、菱形のカラフルな何かが閉じ込められている。対象的に配置されているそれはまさに芸術のよう。


 それも、透明なものだからうっすらとその先が見えて、なんだかみているだけでワクワクする。


 白いのだけは透明じゃなくて先が見えないけれど、これがいい具合に立体感? を出してこの“もざいくぜりー”をただカラフルなだけの塊から、美しさ閉じ込めて彫刻にしたような……うん、自分でも何を言っているのかわからなくなってきたけど、ともかくまるできれいな風景を全部この中に閉じ込めたかのような迫力みたいなのがあるんだ。


 これは、実物を見た人じゃなきゃわからないんじゃないかな。ボクの言葉じゃこれをどう表現していいのかわからない。


「最近ゼリーいっぱいつくりましたからねぇ」


「暑くなってきたからね。果物類もいっぱいもらってるし」


 マスターとシャリィちゃんの会話を聞く限り、“ぜりー”は暑いときに食べるものらしい。まだ食べていないけど、ハンナだったら暑くても寒くても食べるだろうな。


 早速、シャリィちゃんからスプーンを受け取りそっとその塊にスプーンをいれる。思っていた以上にぷるぷるだ。ボクの指がちょっと震えるだけでコハク色はうねうねと踊る。


 ぱくっと、一口で言った。





あまい。


ぷるぷる。


独特の食感。


わかりきっていたこと。


やっぱり、ここのは──


「「おいしいっ!」」


「それはよかった」


 たぶん、今の僕はハンナに負けないくらいのいい笑顔だったと思う。


 “もざいくぜりー”は見た目がすっごいきれいだ。今まで十七年間生きてきた中でもこれ以上にきれいなものをボクはみたことがない。


 そしてそのきれいな見た目通り、すっごくおいしい。なにがどうおいしいって言われてもちょっと困るんだけど……。ひんやりと冷えていて、食べていると涼しくなってきもちいい。


 スプーンをいれた切り口もきれいだ。なめらかになっているのは当然として、そこでさらに光が乱反射している。揺れる水面を固め、色をつけて陽にかざしたらきっとこんな感じだろうな。


「このぷるぷるの食感、最っ高!」


 この薄いコハク色みたいなぷるぷるの甘さはなんだろう? 果物にちょっと近い気がするけれど、なにか違うと思う。


 たぶん、これが“ぜりー”の甘さなんだろうな。口に入れただけでちゅるっと喉の奥までいっちゃうんだ。


 しかも、ただぷるぷるだっていうわけじゃない。ごくん、と喉を動かすとそれがお腹の中に落ちていくのがわかる。程よく弾力があって食べたって感じがする。口いっぱいに頬張ると、なんだかすごく幸せな気分になれた。


「すごいな、中のきれいなのも“ぜりー”なのか!」


 エリィさんの言葉にはっと気づく。宝石みたいに光っているからてっきり固形物だと思っていたけど、中にある菱型や丸いカラフルなのもぷるぷるしている。


 これも“ぜりー”だ。しかも──


「コハク色のやつと味が違う?」


 試しに赤いのを口に入れたボク。スプーンをいれたとき、ちょっと手ごたえが違ったけど、味はそれ以上に違った。


 これは……さくらんぼ、かな? さくらんぼのあまぁい独特の風味が“ぜりー”とよく合っている。コハク色の甘さとあいまって、もう最高だよ!


「白いのは……ミルク?」


 ハンナがうっとりした顔で呟いた。他のよりもちょっと固めなそれは確かにどことなくミルクの味がする。それも、高い上等なミルク。安宿で出てくる乳臭いそれとは決して違う。はっきりした感じじゃなくて、ふわっと、漂ってくるような感じだ。


 優しい甘さだけれど、それでも舌に確かに残る印象的なこの感じ。なんかうまく言い表せられなくて、すっごくもどかしい。


「なんか、エリオみたい」


「あ、なんかわかる気がします!」


「どういうこと?」


「エリオ、君はハンナとの付きあいは長いんじゃないのか? 私でもわかったぞ」


 ううん、よくわからないや。女の子が考えること、正確にはハンナが考えることって突拍子もないことばかりだし。


 まぁでも、エリィさんもシャリィちゃんもわかっているってことは、きっと女の子特有の感覚なんだろうな。


 それより、今は“もざいくぜりー”だ。さっきから気になっている緑色に輝くそれに目をつける。


 この緑はレイクさんが頼んでいた“くりーむそーだ”によく似ている。レイクさんがすっごい恐ろしげで泡がしゅうしゅうしているものを笑顔で飲むから最初はびっくりしたっけ。ハンナなんて魔獣の体液だと思っていたみたいだし。


「……あれ?」


「どしたの、エリオ?」


 この緑色……なんだろう。悪くはない。まずくはない。


 だけど、特別おいしいというか……。そう、クセがある。すーっとするような、ハーブみたいな感じだ。


「この緑色さ……」


「あ、それ? すっごく爽やかでいいわよね!」


「うん、私もけっこう好みだな。なんかすっきりする」


 あ、あれ……?


 エリィさんもハンナも緑色のをけっこう気にいってるみたいだ。なんかちょっとこう……いや、悪くはないんだけどね。


「はは、それはペパーミントっていうハーブを使ってるんですよ。ちょっと苦手でした?」


「い、いやそんなことは!」


「あはは、大丈夫ですよ。……僕もちょっと苦手なんですよね、それ。きれいな色が出るから便利なんですけど、その妙にすーってするところが慣れないというか……」


「え──っ!? そこがいいのに! マスター、絶対損してるよ!」


「まぁそういってやるな、ハンナ。マスター苦いのだめらしいし、これもちょっとその気があるしな」


「実際、これって結構好き嫌いがはっきりわかれるんですよ」


 この“もざいくぜりー”の見た目をよくするために入れたらしいけど、マスター自身が食べるときは入れないらしい。もう十分にきれいだから緑色がなくてもいいとボクは思うけどな。


「味もそうですけど、見た目もけっこう重要ですからね。中のゼリーもうまく形を作らなきゃいけないし、何回かに分けて作っていかないと中で全部混ざっちゃうし」


「だから、これってすぐにたくさんできないんですよ。マスターってばあたしがおねだりしてもなかなか作ってくれないんですから!」


 ふんす、と鼻をならしてシャリィちゃんは“もざいくぜりー”をぱくつく。てっきり従業員だから食べ放題だと思っていたんだけど……。


 まぁ、こんなにすごいものなんだもの。きっと、そう毎日食べられるほどのお値段じゃないんだろうなぁ。


「エリオ、なにぼーっとしてるの? いらないならあたし食べちゃうわよ!」


「だ、だめだよハンナ!」


 あわててハンナからボクのを遠ざける。“ぜりー”が大きくぷるるんと揺れた。悔しそうに耳がピコピコ動いているのが見える。


 油断の隙もありゃしない、と思う。口には出せないけど。


「さすがにそれやられたら傷つくなぁ」


「やだ、エリィさん。いくらなんでも本気じゃありませんよ」


「私とレイクが初めて会ったときは最後の一切れを争ったぞ? あいつ、大人げなく本気で来たからな」


 さすがレイクさん。ボクだったら絶対にハンナには逆らえない。やっぱりそれくらいできないと英雄にはなれないのだろうか。


 にぎやかに話しながらそれを食べていく。ずっとずっと食べ続けていたかったけれど、悲しいことにボクの目の前からもうそれはなくなってしまっていた。


 ふう、と一息ついて軽く口を拭う。今日も、おいしかった。


 この心地よい満腹感。思っていたよりも、お腹に溜まる。ハンナもエリィさんも名残惜しそうにマスターが皿を片づけるのを見送っていた。


「今日のはいつも以上に華やかだったな。……そうだ、試験に受かったらここで奢ってあげよう」


「え、いいんですか!?」


「ああ。だから、絶対に受かれよ?」


 にこりとエリィさんがハンナとボクに向かってほほ笑む。がんばるぞー、とハンナはやる気だ。ボクも負けないようにしなきゃ。


「試験か……どこへいっても試験はあるんだよなぁ」


 そんな中、マスターが感慨深そうにつぶやく。マスターは冒険者じゃないみたいだし、それに公職についているわけじゃないから試験はないと思うのだけど。


 そんなボクの不思議そうな顔を見たからだろうか。マスターは苦笑いして話してくれた。


「僕も、年に五回は試験があるんですよ」


「そんなに? マスター、なにか他にお仕事してるの?」


「いえ、あの、学校のほうで」


「ああ、あのギルドっぽいなにかか。なんの試験だ? 料理の腕か? それともあの体術か?」


「いえ、学力試験ですね。計算とか歴史とか、読み書きですよ。おまけにうちの学校はイベント事多いせいで試験、けっこう厳しいんですよ」


 あはは、とマスターは疲れたように笑う。……ちょっとガッコウに興味を持ってたんだけど、なんだか大変そうだ。そもそも、ガッコウってどこにあるんだろう? このへんにそんなものがあるとは聞いたことがない。









 それからしばらくしてボク達は店を出た。豪華なお菓子だったけど、やっぱりいつも通り経営状態を心配するくらいのお値段だった。いったいどうやってやりくりしているのかわからないけれど、マスターもがんばっているんだ。ボクたちもがんばらないと。


「エリオ、絶対試験合格するわよ!」


「うん!」


 気合いを入れて、確かめるように弓をなでる。どんな敵が来ても、今なら射ぬける気がした。


 きっとハンナも同じ気持ちだろう。エリィさんは、そんなボク達を温かい目で見守っていた。








 二日後受けた昇級試験。討伐対象はエリィさんと同じ《ゴブ大将》。ボク達を目にした途端、子分は粗末な刃物で大将の首を掻っ切り、そして一目散に逃げていった。


 せっかく気合十分だったのに、ボクが弓を使うことはなかった。無言で剣を納めるハンナは、なんだかやるせない表情をしていた。









20150501 文法、形式を含めた改稿。


ようはゼリーinゼリー。透き通っていてきれいなものはめちゃくちゃきれい。


マスターの試験は前期後期の中間期末と夏休み明けテスト。

氷の魔法はクラスで三、四人が使えるくらいの割合。

雷の魔法は学年で四、五人が使えるくらいの割合。

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