「俺達の仲間にならないか?」 その声が俺のクソったれな現実をぶち壊す、非日常の始まりだった。
「君は俺らの仲間になる素質がある」
「はぁ?」
俺は夜の散歩に行きながらコンビニに寄り、ちょっと背伸びの高級肉まんを買って家の前まで帰って来ていた。
「君には素質がある」
「ちょっと意味がわからないんで」
せっかく買った肉まんが冷めてしまうので、家に帰ろうとしても目の前の男は俺を帰そうとしない。
「ちょっ、人を呼びますよ!?」
「フッ、無駄だよ、ここら辺に居る人間は眠らせている」
「おーい、誰かー!!」
大声で叫んでみる...が、しかし、深夜と言う訳でもないのに誰も出て来もしない。
「信用してもらえたかな?」
「何をした」
「俺の仲間がちょっとね」
「何をしたってんだよ!」
怒鳴りつけて問いただすと、目の前の男は指をパキッと鳴らす。
すると家の影などから人が何人か現れた。
「っ!?」
「安心したまえ、近所の人は眠っているだけだ、それに彼らは君に危害を加えるつもりはない」
周りには10人程の人が縁日のお面を付けて立っていた。
「お前等は何者だ?」
「少年時代」
「は?」
「聞こえなかったかい?少年時代だよ」
韓流アイドルのパクリかと思い聞き返すが、何度聞いても少年時代である。
「少年時代...?」
「そう」
「何なんだよそれ」
「大人への抵抗」
「抵抗?」
俺は抵抗と聞き、家出かなにかの集まりか何かだと思った。
「あぁ、理不尽な事ばかりする大人に対して子供達からの反逆だ」
あぁなんだ、中二病的な感じの人達か。
そう思い諭すような事を言ってみる。
「んな事言ったって、お前等だっていつかそんな理不尽な大人になるだろ?」
世の中とはそう言うものだ。
いつか子供は自分が嫌っていた大人になり、そんな事を考えていた事さえ馬鹿らしく思えてしまい、思い出すと恥ずかしくなったり、黒歴史と呼ばれるものとなったりするのである。
「ならない」
「んな事ありえねぇだろ、若返りのクスリでもあんのか?」
「そんなものはない」
「だったら」
「心が子供のままで有れば、体が老化しようが子供のままだ」
「それはただのワガママだ、体が老化すれば世間からは大人としか扱われないし、そんなものも心の病気と見なされるだけだ」
「それは大人の考えだ、大人が自分の狭い視野のものさしで測ったものにしか過ぎない」
「だが、子供のお前等より様々な世界を知っている、視野が広いはずだ」
「そんな事はない、大人は大人になった途端進歩する事を辞めてしまうが、子供には様々な可能性がある、日々進歩なのだ」
「やれやれ」
屁理屈を屁理屈で返されるため、つい、ため息が出てしまう。
「このままでは、埒があかない」
「あぁ、屁理屈しか帰ってこないからな」
俺は悪態をついて返事をしてみる、すると目の前の男が皆に解散の指示を出す。
「今夜の処はこのくらいにしておこう。だが、これだけは言っておく」
「...」
「君は今の生活に不満が募っている、正直こんな生活などしたくないと日々思っているはずだ」
「...」
確かにそうだ、今の生活に不満は幾つも在る、こんなクソったれな生活とはおさらばしたいと思っている。
「だがよ、こんな生活でも楽しい事は在る、もし抜け出したいと思ってもお前等みたいに幼稚な奴らの仲間にはならない」
「そうかい、でもいずれは...」
そう言いかけて男は去っていった。
「はぁ、やれやれ」
せっかく買った高級肉まん冷めてしまった、家に帰ったら温め直さないとな。
「肉まんを食べたら寝よう、うん寝よう」
そんな事をぼやきならがら家に帰り自分の部屋に戻る。
この時の俺はこれから起こる様々な悲劇をまだ知る由もなかった。