せんとちひろの髪描くし
名作の感動を台無しにする、締め切り2時間前の奇跡——。
誰しも一度は目にしたことがある“あの感動のラストシーン”を、美術部員たちの血と汗と絶望的な画力で塗り替える、勢い100%の爆笑学園コメディ! タイトルに隠された壮大な(?)ダジャレと共に、崩壊していくハクと千尋の姿をどうぞお楽しみください。
せんとちひろの髪描くし』というタイトルの爆笑系コメディショートショートです。
せんとちひろの髪描くし
「おい、文化祭のジブリ展示、メインの壁画パネル担当だれだっけ?」
美術部室の扉が勢いよく開き、部長が飛び込んできた。締め切りまであと二時間。壁に飾る超巨大イラストは、九割がた完成している。
「僕です」と手を挙げたのは、新入部員の山田だった。
「お前か! で、進捗は? 千尋とハクのラストシーンだろ?」
「あ、千尋の体と背景の空は完璧です。あとは髪の毛を描くだけです」
「よし! じゃあ早く描け!」
「それが……」山田は悲痛な顔で筆を止めた。「僕、髪の毛を描くのだけが壊滅的に下手なんです。特にハクの髪型が崩壊します」
部長は額を押さえた。「ハクの髪なんて、綺麗な黒髪ボブにぱっつん前髪だろ! 直線と丸みを意識すれば誰でも描ける!」
「無理です! 僕が描くと、ハクの髪が全部『ちびまる子ちゃん』の永沢君みたいな尖ったタマネギになるんです!」
部室に緊張が走った。美形のハクの頭上にタマネギが乗っていたら、感動の名シーンが台無しである。
「代わってやろうか?」と副部長が言ったが、彼女は手首を痛めていて細かい線が引けない。
「じゃあ俺が口で指示する!」部長が腕をまくった。「いいか山田、ハクの髪を描くし、千尋の髪も描く。今から俺の言う通りに筆を動かせ!」
「はい! せんとちひろの髪描くし!」山田は謎の気合を注入した。
「まず前髪だ! 眉の上でまっすぐ『ぱっつん』だ!」
「はいっ! ぱっつん……あ、手が滑ってジグザグに!」
「おい! ハクの前髪がギザギザのノコギリ刃になったぞ! どんな反抗期だ!」
「修正します! 黒で塗りつぶして……あ、塗りすぎて前髪が目まで隠れました!」
「ハクが急に重度のヘヴィメタ好きみたいになってるだろ! 前髪長すぎるわ!」
山田は焦りで汗だくだ。「次! サイドの髪行きます! 顎のラインで内巻き!」
「待て、丸みが強すぎる! それじゃヘルメットだ! バイク乗る気か!?」
「うわああ、修正! 後ろ髪も繋げます!」
「おい、後ろ髪のカットラインがガタガタだ! 雑な床屋に行った直後みたいになってる!」
「じゃあ千尋! 千尋のポニーテールを描きます!」山田はパニック状態で筆を滑らせた。
「千尋のポニーテールが太すぎる! 束感がなくて巨大なエビフライが頭に刺さってるみたいになってるぞ!」
二時間後。
校内展示が始まり、美術部室の前には長蛇の列ができていた。見に来た生徒たちが、巨大パネルの前で腹を抱えて爆笑している。
そこに描かれていたのは——
見事な青空と龍の背に乗る、前髪が目まで隠れた重度メタル系のハク(頭頂部はヘルメット)と、頭に立派なエビフライを刺した千尋だった。
「なんか……めちゃくちゃ斬新で面白いなこれ」
「ジブリの新作ギャグアニメかと思った!」
絶賛の声(?)を聞きながら、山田は満足げに胸を張った。
「部長、大盛況ですね」
「……ああ。お前が『せんとちひろの髪描くし』なんて言うから、本当に歴史に残る名作になっちゃったよ」
ふたりの頭上で、ヘルメット姿のハクが、どことなく誇らしげに空を飛んでいた。
【了】
緑のペンキと養生テープの硝煙の中で
作者の〇〇です。本作『逃がさハク(把握)した、千尋の締め切り』をお読みいただき、本当にありがとうございました!
この物語は、私が学生時代に文化祭の準備で「肌色の絵の具だけが局所的に全滅し、主役の顔面が謎のテラコッタ色に変貌した」というトラウマ体験から生まれました。人間、追い詰められると「養生テープも遠目で見ればテクスチャ」などと血迷った思考に陥るものです。あの時の部室に漂っていた、絶望と謎のハイテンションをそのまま原稿用紙にぶつけさせていただきました。
作中で容赦なく犠牲となったハクと千尋には、この場を借りて深くお詫び申し上げます。ですが、




