97 桜と同じ世界に存在する者
◇
あの後も勉強だったり遊びだったりの話をしながら時間は過ぎていき、初の蓮くん宅での勉強会兼プチクリスマスパーティーもお開きにしようという話になった。初詣も一緒に行こう、なんて話しながら帰る準備をしたんだけど、ふと複数人の声と足音がこの部屋に近付いてくるのが分かった。若そうな男女の声と、この屋敷に入れてもらった際に案内してくださった使用人の声。
「咲良? ……あー、帰ってきたからか」
だよね? このお美しい声、蓮くんのご両親だよね……!? まさかこのタイミングで帰って来られるとは……と思ったけれど、そういえば私達が帰る頃くらいに帰宅予定って蓮くんが言ってた気がする。
「蓮」
「どうぞ」
「失礼。……ん? お友達か?」
「そうです。こっちから順に天宮海斗、伊島藍那、そして……」
「────はじめまして、瑠衣咲良と申します。以後お見知りおきを」
どうせ顔と名前を知られるのなら、せめて蓮くんに言われる前に自分の口で。そう思って彼の言葉に続けるようにして名乗り、不自然じゃない程度に深く頭を下げた。だって、名前を知られたなら間違いなく私が『あの』瑠衣だと分かってしまうでしょう。相手はお父さんと同業者なんだから、名乗って分からないはずがない。それなら失礼にならないよう、『瑠衣』の名を持つ者としてご挨拶しなければ。
「瑠衣、咲良……」
「申し遅れました、そこにいる蓮と姫花の両親です。皆さんいつもお世話になっております」
私の名前を聞いて一瞬瞠目し、小さく頷いたお二人は優しい笑みを浮かべて頭を下げられた。こうしてみると……蓮くんと姫花ちゃんはそっくりだけど、姫花ちゃんはお父様、蓮くんはお母様に似てるのかな……?
きっと今ので私が『瑠衣の人間』として名乗ったのだと理解してくださったと思う。そして現時点でここにいる人達が何も知らないことも。
「ちょうど今お開きにしようという話になって、帰る準備をしているところでした。ひめも途中で帰ってきたので一緒に勉強していたんですよ」
「お邪魔していました!」
「そうだったのか。外はもう真っ暗だ、車を出そう。特に女性は危ないだろう」
「いえ、お構いなく。それほど距離もありませんから」
たしかにもう冬だし、夕方でもこの時間だと外は真っ暗になる。だけど田舎で人気がないというわけでもないし大丈夫だ、と三人揃って首を振ると『それなら』と蓮くんが口を挟む。
「そっちの二人はこの近くに住んでいます。なので海斗に少しだけ遠回りしてもらって、伊島を家まで送ってもらいましょう。俺は反対方向に住んでいる咲良に付き添います」
「私は海斗さえ良ければ」
「構わないよ」
「さすがにうちまで来てもらうのは申し訳ないよ。車を出すほどではなくても、決して近いわけでもないのだし」
「咲良さん」
困ったように眉を下げる蓮くんのお母様から、あなたに何かあってはご両親に合わせる顔がありませんので……という言葉が聞こえたような気がした。お父様も頷いている。お二人の立場を考えれば、その通りかもしれない。これ以上断るのは逆に迷惑だろうな。
「……分かりました。じゃあ蓮くん、お願いしてもいい?」
「ああ。……というわけなので、ちょっと出てきます。ひめも自分の荷物回収しとけよ」
「はーい!」
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