92 愛しき桜の目に触れる
現在の時刻は夜の八時頃。いつも通り勉強をしているのだけど、最近お母さんが忙しくて英語の勉強に付き合ってもらえていないため、そろそろ授業に追いつけなくなりそうで怖い。というわけで、事前に許可を取って今日は蓮くんに勉強を教えてもらっている。直接会っているのではなく電話なんだけどね。
『……なあ、なんかいつもよりダメじゃね? 授業聞いてたか?』
「もちろん。でもその……海斗くんのことで色々考えていまして。家での勉強が捗りませんでした、すみません」
『あー、そりゃ仕方ねえな。まあ気を抜いてるとまた俺に負けるぞ、とだけ言っておく』
「前回私に負けた人に言われたくないよ?」
『その前、俺に負けてた奴に言われたくねえな』
口が減らないね。レベルが高い場所での『どんぐりの背比べ』って感じ。今日は学校にいる間なぜか静かだったし、こうして勉強を教えてもらう間も同じかなと思っていたんだけど、予想が当たらなくて良かったのか悪かったのか……
『咲良、この後はもう寝るのか?』
「え? うーん……どうしようかな。もう少し勉強したいところだけど、最近寝不足だったから寝ようかな?」
『へぇ……そんなに海斗のことで悩んでたのか』
「まあね。海斗くんはその辺の男子と違って大切な友人だし、ちゃんと向き合うべきだと思ったから」
じゃあ他の男子にはちゃんと向き合ってないのか、と言われるとそんなことはない。でも海斗くん相手ほど悩んだことはないね。海斗くんのように返事は後日で、という人もいたけれど見込みがないのに期待させるわけにもいかないからその場で断らせてもらっていたし。
心なしか拗ねたような声で言う蓮くんにそう返すと、再び『へぇ……』と言って黙り込んでしまった。今日の蓮くん、いつも以上によく分からないね。
『海斗の告白、本当に断ったのか? あんなにいい男なのに』
「そうだけど……蓮くんに関係ある?」
『ある。その言葉を聞くのは今日だけで二度目だ』
二度目……蓮くんに関係あるのか、ってやつ? ……いや、それより重要な言葉を聞いた気がする。それは単純に親友である海斗くんの恋愛事情だから関係あると言っているの……?
『俺は咲良のことが好きだからな。もちろん恋愛的な意味で。だから関係ある。自覚したのはついさっきだが』
「あの……聞き間違い、」
『じゃねえ』
……すごく、ものすっごく混乱しているんだけど、とりあえず一つ言わせてほしい。どうして自覚してそんなに早く告白できるの? 行動力すごくない? 自分の脳だけでは処理しきれず、思ったまま声に出して聞いてしまう。蓮くんが私のことを好き……? 信じられない。もしかして、この前の海斗くんに告白された時から私は夢でも見てるのかな?
『お前、学校一のモテ男子に告白されるくらい人気だろ。自覚したならすぐにでも動かねえといつ取られてもおかしくねえ』
続けて『正直、今は絶対に好かれていないことくらい分かってる。だからこれから卒業までの間、お前を落とせるように頑張るから見てて』と、らしくない締めくくり方をした蓮くんはじゃあな、とだけ言って電話を切った。
こっちは聞きたいことも言いたいこともたくさんあるというのに、自分は言いたいことだけ言って電話を切るだなんてひどい。私のこの動悸は、頬に感じる熱は、一体どうすればいいの……!?
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