91 恋は桜
「蓮、さっきからちょっと言葉きつくない?」
「……いつも通りだろ。ただ、一気に距離が縮まったように見えたから何か言われそうだよな、って言ってるだけだ」
蓮、完全に調子が狂ってるね。普段ならこんなこと気にするタイプじゃないし、俺が咲良と付き合えたなら長い間相談に乗ってくれていただけあって、すごく喜んでくれると思う。
それなのにこんな感じになってる。いくらでも反論の余地があるし、そもそも誰を心配しているのか分からない。咲良のことか、俺のことか。やっぱりどこを取っても今日の蓮はおかしいんだよね。俺も蓮とは付き合いが長いからそれくらい分かるよ。蓮のことに関しては咲良や藍那より詳しい。二人がお互いのことを誰より理解しているのと同じように。
「それって、蓮に関係あること? 蓮がもし咲良のことを好きなら言いたいことがたくさんあるのは分かる。でもそういうわけじゃないんだし、そんなにあれこれ口出ししてこないでほしいんだけど?」
さて、蓮はどう出るかな。ここが勝負だよ。今日一日悩んでいたのであろうことから考えれば俺の思うように事が進む。だけどそうだな……蓮が自分の気持ちに関してはとんでもない鈍感野郎だったなら、俺の作戦は失敗するだろうね。お願いだから上手くいってほしい。
「俺は……」
「ん?」
「……咲良のことが好き、だ……」
その言葉が耳に入った瞬間、心の中で思わずガッツポーズをしてしまった。俺はまだ咲良のことが好きだけど、親友には幸せになってほしいんだよ。両想いである可能性が誰よりも高いとなると、尚更応援したくなる。
口元を手で覆い、顔を真っ赤にしている蓮を見てそんなことを思う。蓮もこんな顔をするんだな……初恋を自覚する瞬間に立ち会ってしまった。
「だがお前があいつと付き合ったと言うのなら……いや、諦めらんねえな……?」
「蓮」
「お前には悪いが、」
「俺ら付き合ってないよ」
「……聞き間違い?」
「たぶんちゃんと聞き取れてるね。俺、咲良にフラれたよ」
受け入れてもらえた、なんて一言も言ってないだろ? と笑えば、少し考え込んだ後、『たしかに……』と呟いた。俺が最初に『フラれる覚悟で言ってみて正解だった』と言ったのは咲良のことを名前で呼べるようになったこと、まだ諦めきれていないけど今まで悩んでいたのは何だったのかと思うほど、気持ちに整理がついたことを意味していたのだと伝える。
「蓮、俺もまだ咲良のことが好きだよ。一度フラれたとはいえ、完全に可能性がなくなるわけではないからしばらくは変わらないと思う。でも蓮が咲良と付き合いたいと思うのなら、今日から俺らは親友でありライバルだな」
「……お前はそれでいいのか?」
「そりゃあ、俺に『諦めろ』なんて言う権利はないんだから当然」
「そうか……分かった。それなら俺も遠慮しねえ」
「うん。お互いに頑張ろう」
現時点で俺ら以外の男に取られる可能性は低い。なぜなら、咲良は特別親しい人間以外にはものすごく分かりにくい透明な壁を作っているからね。蓮は前から、『咲良に対して恋愛感情ではないが、それに至らないくらいの感情は抱いている』と言っていた。そしてそれが今日、正真正銘の恋心に変化した。それは俺にも分かるくらい、一日中咲良のことを考えて悩みまくったから。俺はそう考えているよ。
◇
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