90 蓮の心に海の意図、何も知らない桜と藍
◇
「海斗、帰るぞ」
「今日は迎えが来るって言ってなかった?」
「ああ。だがその予定はなくなった」
「そうなんだ」
俺の勘が正しければ、その予定は後日にさせられたというのが正しい気がするんだけどね。今日一日、蓮の様子がおかしかった。昼休みにご両親と電話をしている姿を見かけたし、その時にご両親も蓮の様子がおかしいことに気付いた、っていう可能性を俺は信じるかな。咲良や藍那には分からないかもしれないけど、俺の目から見れば明らかに今日の蓮はいつもと違ったから。
ずっと何かを考えている……あるいは悩んでいるみたいだった。いつからって? 今朝、俺が初めて藍那と蓮の前で『咲良』と言った時からかな。あの蓮が、いつもどんな時でも冷静で取り乱すということを知らない蓮が、本当に一瞬だけ泣きそうに顔を歪めたんだよ。あんな顔は初めて見たね。
「……それで? 咲良に告白したんだろ。どうだったんだ?」
「やっぱりフラれる覚悟で言ってみて正解だったな。まさかこうなるとは思ってもみなかったよ」
決定的なことを言わないのも、昨日のうちに結果を伝えなかったのもわざとだよ。『恋愛が分からない』なんて理由で俺のことを振ったんだから、咲良にはさっさと恋愛感情というものを理解してほしい。蓮相手なら少しは俺らと態度が変わるんだから、蓮が動けば何かしらいい影響を与えるとは思うんだよね。
「ずっと相談に乗ってくれてありがとう、蓮。祝福してくれるでしょ?」
「ああ。おめでとう」
「ありがとう。蓮は好きな人とかまだできないの?」
「興味ねえからな。正直、お前はフラれると思ってたな。あいつは俺と同じで恋愛に興味なさそうだったし」
「ひどいな。あんなに相談に乗ってくれたのに」
肩を竦めて言うと、『だからこそだろ』という素っ気ない返事が返ってきた。蓮、絶対今機嫌悪いでしょ。その感じで咲良と話してみればいいのに。間違いなく驚かれるよ。無自覚でも、絶対にしないんだろうけどね。
「……海斗お前、いきなり距離詰めすぎじゃないか? 急にあいつのこと名前で呼ぶようになったせいで、その辺の奴らも驚いてただろ。付き合えることになって浮かれてるのは分かるが、お前も咲良も『人気者』なんだから面倒なことになるぜ」
「そんなの、俺の告白がバレてる時点で今更としか言いようがないんじゃないかな?」
いい感じに食いついてきたね。蓮は俺なんかよりよっぽど頭がいいのに、今は反論の言葉が浮かばないみたいだ。本当に今日の蓮は蓮らしくない。どこまでいけるか分からないけれど、もう少し煽ってみようかな。
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