88 桜と海の歩む道
◇
「────瑠衣!?」
「あ、海斗くん。もう終わったの? お疲れ様」
「ありがとう。でも待って、もしかして俺を待ってくれてた? 遅くなってごめん……」
「大丈夫、さっきまで友達と話してたから」
放課後、約束通り海斗くんの告白に対する返事をするため、彼に声を掛けようとした。でも急遽部活の後輩に指導を頼まれたらしく、『俺から言っておいて本当に申し訳ないんだけど、練習で二時間ほど待たせることになるからまた後日返事を聞かせてほしい』と言って慌ただしく体育館へ走って行ってしまった。
だけど私としても長引かせたい話ではないし、ずっと返事を保留にするのも海斗くんに悪いから傍にいた友人……学園見学の時に囲まれていた私を助けてくれた子と話して待っていた。女の子を待たせるなんてひどいなぁ、なんて笑いながら。その子もさっき帰ったばかりだから、全然暇はしていなかったよ。
「暇してなかったのは良いんだけど、もうだいぶ寒くなってきてるのに長時間外にいたら風邪引くよ。ほんとごめん」
「うーん……じゃあお詫びに自販機で温かいお茶を買ってよ。それでチャラってことで」
「分かった」
蓮か藍那と一緒に帰らせるべきだったかな、なんて過保護なことを言う海斗くんに笑いながらお茶をもらい、冷えた手を温めるようにペットボトルを両手で包んだ。寒いのは好きじゃないけど、寒い時に温かいものに触れた瞬間感じる幸せは好きなんだよね。あと冬といえば雪だな~とか、暖房を付けた温かい部屋で勉強する自分の姿だとか、そういうことを考えたり想像するのも楽しいよね。冬は夏が待ち遠しくなるから、海や冷房を想像するんだけど。
「それで、本題なんだけど」
「うん」
「私は海斗くんとは付き合えないかな。ごめんね」
「理由を聞いても?」
「やっぱり恋愛感情が良く分からなくて。頑張って考えてみたんだけどね……」
誠実であるべきだと思い、申し訳ないと思いつつも正直に理由を話した。私の言葉を聞いた海斗くんは一瞬だけ悲しそうな顔をして、でもすぐに納得したような表情に変わる。
「実は俺、瑠衣のことを諦めるために告白したんだよ。もちろん同じ気持ちなら嬉しいに決まってるけど、そうじゃないことは分かってて」
「……え?」
「瑠衣、蓮のこと好きでしょ? 蓮に対してだけ明らかに接し方が違う。あれが素に近いんじゃないかと思ってるんだけど」
違う? と、首を傾げながらも確信に近い口調で言う海斗くんに、私はすぐに言葉を返せなかった。たしかにその通りだなと思ったから。残念ながら自然とそうなっただけで、恋愛感情を抱いているから、なんて理由ではないのだけど。
「そう、だね……たしかに素には近いかな。でも海斗くんや藍那に見せている姿が偽物ってわけではないし、蓮にんに対する恋愛感情もないよ」
「あれ、そうなんだ? てっきり蓮のことが好きだけど無自覚だったりするのかなと思って言ったんだけど……まあそれはそれで二人らしいかな。二つお願いがあるんだけど聞いてもらえない?」
「なあに?」
「俺、瑠衣に告白したしすぐにこの気持ちが消えるわけではないけど、これからも今まで通り接してほしい」
「言われるまでもなく」
というか、告白されてからこうして返事するまでの間も普段通りに関わっていた。二年以上一緒に過ごしてきて今更疎遠になるなんて嫌だし、海斗くんさえ良ければこちらからお願いしたいくらい。だからこうやって言ってくれた以上、お互いに気を遣わなくていいように遠慮なく今までと同じようにするよ。
「二つ目なんだけど、俺は今まで『好きな人を名前で呼べる自信がない』ってことで瑠衣のことだけ名字呼びしてたんだけど、これからは蓮や藍那と同じように名前で呼んでもいいかな?」
「もちろん。私もずっと理由が気になっていたんだけど、そういうことだったんだね」
「ありがとう……! じゃあこれからもよろしく、咲良」
「こちらこそ!」
これは……蓮くんと話していた、最良の結末になったんじゃないかな? 海斗くんの告白は断ってしまったけれど、私としてはこれ以上ない終わり方だと思う。
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