86 桜の皇子
「……っ!?」
友人だったはずの彼女達の声を聞き、立ち止まったままその場から動けないでいると突然背後から腕が伸びてきて私の口を塞いだ。思わず叫びそうになるも、口を塞がれているため声が出ない。何が起きたのかと必死で考えていると、聞き慣れた声が静かに私の名前を呼んだ。
「咲良、静かに」
もう一度繰り返し、私が頷いたのを確認してから腕は離れ、振り返ったそこにいたのは予想通り蓮くんだった。そして『静かに』と言ったのにも関わらず、彼はわざと物音を立てる。それが聞こえたのか、私の陰口を言っていた彼女達は焦ったように走り去って行くのが音で分かった。
「どういうつもり?」
「とりあえず、手を貸せ。そんなに握りしめたら傷が残るぞ」
「…………」
「睨むなって。ってか、すげえ涙目。体も震えてんじゃん。天下の瑠衣咲良があの程度の奴らの言葉に耳を傾けるもんじゃないぜ? 隣にいる奴の声だけ聞いてろ」
……なにそれ、蓮くんには関係ないくせによく私を助ける気になったね。何か見返りでも求めてたりするの?
こんな姿、見られたくなかった。私の友人達はみんなすごく優しいから、弱いところを見せれば絶対に心配される。そんなの私らしくないし情けないことこの上ない。でも正直、今はすごく助かった。
「……分かった。助けてくれてありがとう」
「気にすんな。人気者が大変なのは俺も身に染みて分かってるからお互い様だ。俺が困ってたらもちろんお前も助けてくれるんだろ?」
「さあ、それはどうかな。高みの見物をしているかもね」
「恩を仇で返すつもりか……? 酷え話だな」
そんなこと全く思ってないだろうに、わざとらしく悲し気な顔を作らないでほしい。蓮くんがこれくらいのことで傷付かないのは知っているし、そうじゃなくてもどうせ私は助けに入ってしまうのだから。
「あー……咲良、時計見てみろ」
「え……」
「やべえ、授業に遅れる。走るぞ!」
「ちょ、ちょっと待って……!」
蓮くんに言われて傍にあった時計を見ると、あと二分くらいで予鈴がなる時間だった。お願いだから私を置いて行かないでほしい。蓮くん、私が遅刻する時は蓮くんも遅刻する時だということを忘れないでね。私が巻き込んであげるから。
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