85 桜の核に刷り込まれた記憶
文化祭が終われば今度は二学期の中間試験が待ち構えている。これも一応『高校生活最後』の中間試験になるわけだけど、他の行事と違って楽しくはないから早く終わってほしいと願う。
とは言っても、当日まではまだ一ヶ月近くあるのでまずは試験範囲になるであろう場所を復習し、その後各教科ごとに苦手な部分を重点的に解いて練習、そして最後にもう一度すべての問題を解く、という流れで勉強することに決めている。
今年度の行事、私の数え間違いでなければあとは二学期の中間期末に冬休み、受験、学年末テスト最後に卒業式の六つしかない。時間が経つのは早いな……なんて思いながら廊下を歩いていると、普段はあまり人がいないはずの廊下で曲がり角の向こう側から誰かの話し声が聞こえてきた。気にすることなく普通に通り過ぎようと思ったのだけど、不意に『咲良』という声が耳に入ってしまったため、咄嗟に足を止めてしまう。彼女達は私が傍にいることを知らないから、話はどんどん盛り上がっていく様子。
「────咲良、マジで調子に乗りすぎじゃない? 天宮くんに告白されたとかあり得ないんだけど。あいつ、前も私が気になってた人を横から奪っていったんだよ? 何もせずただ笑ってるだけのくせに」
「分かる~! あいつの何がそんなにいいんだろうね。うちの学園の男子、みんな見る目なさすぎて!」
ふぅん……あの子達、藍那や海斗くん、蓮くんほどではないにしても私とはかなり親しい方だったはずなんだけど、そんな風に思ってたんだ? 何だろう……私、別に人を見る目がないってわけではないと思うんだよ。藍那達は私のことを友人として大切に思ってくれているのを知ってるし。だけどたまにこういうタイプに当たってしまう。どうしてだろうね? まあ人は性格も考え方も違うわけだし、最初から何か目的があって近付いてくる人もいれば、後から気持ちが変わる人もいるから仕方ないのかもしれないけれど。
心の中ではどこか冷めた感情であれこれ考えることができるのに、体は今の言葉を聞いた瞬間、その場から動かなくなってしまった。やめて、どんな気持ちで接されているのか分かった以上、友人としての気持ちは冷めてしまったはずなのに、これ以上私の心に踏み込んでこないで。親友である藍那にですら、許していないというのに。
「でもさ、案外咲良のことを嫌ってる生徒はいるみたいだよ? そりゃああれだけモテてたら多くの女子を敵に回すのは当たり前かもしれないけどね!」
甲高い笑い声が耳に突き刺さる。まるで周りの音がすべて消え、彼女達と私しかいない世界になってしまったかのように、聞きたくない言葉だけが耳に入ってくる。
私に聞こえるように悪口や嫌味を言ってくる生徒は他にもいる。でもそういうのは気にならない。慣れているから。でも、どうしても……こういう陰口だけは、何度経験しても耐えられなかった。
ご覧いただきありがとうございます。よろしければブックマークや広告下の☆☆☆☆☆で評価していただけると嬉しいです!




