82 桜の花びら欠ける時
「このあたりの飾りは職員室に持っていけばいいんだっけ? それとも自分達で処分……?」
「来年使えるかもしれないから一旦職員室に持ってくるよう言われてたかな。俺がこの後持って行くよ」
「そう? ありがとう」
最後の机と椅子を元の場所に戻し、教室を歩いて回りながら最終確認をする。食品や食器類の片付け、掃除も他のみんながやってくれているから問題なさそう。念のため海斗くんにも確認してもらって、問題ないということで『じゃあ私達も後夜祭に戻ろうか』と声を掛け、教室のドアの方へ体を向けた時。私の後ろにいた海斗くんに軽く腕を引いて呼び止められた。
「瑠衣」
「ん? 後夜祭、戻らないの……?」
「うん、戻るよ。だけどその前にちょっとだけ時間もらってもいい?」
「いいけど……」
海斗くんがこんな風に私を呼び止めたのは初めてかもしれない。こんな、真剣な表情で……
「ありがとう。……俺、瑠衣のことが好きだよ。具体的にどこが好きかは言えないけど」
瑠衣が俺らに見せてくれてる姿は全部好きだし、隠している部分も好きになる自信があるからさ。少女漫画に登場するヒーローのようなセリフを、すごく自然な笑みで言ってくる海斗くん。だけど私の腕を掴む手が少し震えている。それだけで彼の言葉が偽りでないことくらい分かってしまった。
「先回りして言うけど、聞き間違いじゃないからね」
「……うん」
知ってる。だから他の男子に告白される時と違って、すぐに答えを返せていない。
蓮くん、たしかに言ってたよ。『海斗くんには好きな人がいる』と。そしてそれが藍那ではないこと、相手が誰なのか知っているということも。私がさっき蓮くんに言った『隠しごと』の正体はきっとこれだ。他人事として考えていた。まさかその相手が私だとは夢にも思わなかった。
「だから瑠衣、俺と付き合ってほしい。……瑠衣が恋愛に興味ないことは知ってる。俺と付き合えないかちゃんと考えてほしいから、三日後に返事を聞かせてもらえる?」
「分かった……けど、いい返事ができる可能性は低いとだけ伝えておくよ」
「それでいい。ごめん、いきなりこんな話をして。俺らも卒業間近であまり猶予がないから」
そうだね。だから私も、藍那にその恋を叶えられるよう頑張ろう、と話した。……まさか私自身が彼女を裏切るようなことをしてしまうとは思わなかったけれど。
でもこの件は藍那と切り離して考えるべきかな。海斗くんも真剣なんだから、こちらも相応の態度で向き合うべき。本当にいい答えが出せる可能性は低いけれど、私もそろそろ恋愛というものから目を逸らすべきではないのかもしれない。告白されたこと、藍那には話せるはずがないから黙っておくつもりだよ。でもよく考えて返事をしようと思う。海斗くんは私にとって大切な友人だからこそ、ね。
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