80 嵐の始まりは桜の音
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桜華学園の文化祭には後夜祭がある。桜華学園の場合、この時間はキャンプファイヤーをしながら昼間に自由時間がなかった人も含め、ゆっくり話をしたり事前に購入しておいた屋台のご飯を食べたりしながら過ごす。そしてキャンプファイヤーの周りでは常に音楽が流れていて、その曲に合わせて踊る生徒も少なくない。
「……で、なんで俺らが踊ってんの?」
「さあ? 私もみんなの押しに負けちゃっただけだから、別に蓮くんと踊りたかったわけではないんだよ」
でも一度踊り始めたら、一曲が終わるまではその場を離れられない。まさかこうして蓮くんと手を繋ぎ、体を近付けて踊る日が来るとは思わなかった。昼間のように食べ物をシェアして食べている時点で、そんなことは今更かもしれないけれど。
パチパチと炎が爆ぜる音を傍で聞きながら、音楽に合わせてゆらゆら揺れる。まだ夏の暑さは終わっていないけれど、夜は肌寒くなってくる時期。キャンプファイヤーの火があると適度に温かくて気持ちがいい。
「なんか俺ら、踊り始めた時からすげえ注目されてねえ?」
「だよね。なんでだ、ろ……あー、分かってしまったかもしれない。この学園、『後夜祭のキャンプファイヤーで最初に踊った人と結ばれる』なんていうジンクスがなかったっけ?」
「……あったな、そういや」
「だからあんなに私達で踊るように言ってきたの? それ、私が蓮くんを取っちゃうことになるんだけど、彼女達はそれでいいのかな? ……もしその言い伝えが本当なら、私達は結ばれるのに」
「それはねえだろうな」
「だね」
普段対立しがちな二人でも、ここは意見が完全に一致する。お互いにあり得ないと考える相手なのだから当然でしょう。ただ、私達以外ですごく視線を浴びている二人組を見つけて前方を見ると、そこには海斗くんと藍那がいた。二人はたぶんこのジンクスを知らない。私も偶然聞いただけだから。海斗くんに好きな人がいてそれが藍那ではないって話、聞いた後だと普段なら藍那の成長に喜べるであろう光景でもすごく複雑な感情になってしまう。
「蓮くん」
「ん?」
「何か私に隠しごとをしているでしょう」
「俺がお前に隠したいことなんかねえのに?」
「うん、でも勘。なんか今日いつもと違う」
決定的に何かがおかしいということはない。『かわいい』と言っていた話については別人かと疑ったけれど、私が言っているのはそれじゃない。具体的に何がとは言えないけど、少しだけ何かが違う気がするんだよ。丸一日一緒にいたから気付けたのかな、程度の話。
「私に隠しごとをするのは好きにすればいいよ。でも、お願いだから本気で怒らせるようなことはしないでね」
「絶対とは言えないが、それは大丈夫だろうな」
「そう」
やっぱり何か隠しごとはしているんだね。開き直るのが早すぎて面白くないよ、蓮くん。もうちょっと駆け引きをしようよ。素直な言葉は信じるのに苦労するから。
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