8 八重の桜
「ここの図書室は勉強をするのは禁止だが、奥に別室があるから事前に申請しておけばそこを使える。調べものをするなり、勉強をするなり、静かに過ごすのなら基本何でもしていいのだと。まあ遊ぶのは駄目だろうがな」
「瑠衣先輩、本を借りたい時はどうすれば良いんですか?」
「本の貸し出しは図書委員の人がやってくれるから受け付けに持っていくだけで大丈夫だよ。禁帯出のシールが付いている物は借りられないからそこは注意してね」
彼は……鈴木日向くん、だったよね。自己紹介の時からよく笑う元気な子だなと思ってた。それと彼、失礼ながら男性にしては少し身長が低いけど顔立ち的にもしかして……
「ねえねえ、日向くん。学園見学と全然関係ない話でごめんね。もしかして日向くんってご両親のどちらかが外国の方?」
図書室を出て次の目的地であるカフェテリアに向かう道中、どうしても気になったので聞いてみることにした。日向くんは髪色も金髪だけど染めているようには見えないんだよね。隣を歩いている彼と目が合うと、一瞬目を泳がせた後、なぜか少し緊張気味に頷かれた。
「はい、おれは父親がアメリカ人です。これでも英語は得意なんですよ」
ハワイの別荘に良く行くのでそのおかげでもあります、と照れ臭そうに付け加える日向くん。この話に興味を持ったらしく、同じ班の子がいくつか質問をしていた。彼が言うには『別荘はあるけど資産家ではない』らしい。
一般人から見て別荘を持ってる家はどうなんだろうね。貧乏ではないだろうけど……この学園は教育がちゃんとしている代わりに学費が高いから良家の子息令嬢も少なくない。その代表的な例が私達の目の前にいる蓮くんなわけだけど、彼は規格外だから私達と比べるべきではないね。
「……英語って難しいよね」
「咲良が世界一苦手な教科だな。逆に感心するレベルで理解できてないもんな、お前は」
「成績は悪くないから大丈夫だし」
「そんなに苦手なのに好成績ってことは塾にでも行っているんですか?」
「ううん、行ってないよ」
もちろん自主勉強だけのはずはないけれど。英語だけは本当に無理だから授業で聞くだけでは二割くらいしか理解できない。だから予習と復習を徹底して授業についていけるよう努力してるんだけど、塾より何倍も分かりやすく教えてくれる人がいるからその人にお願いして一緒に勉強しているんだよ。
「────私はお母さんが多言語話者なの」
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