75 それは桜を愛す者
「────足りない分は仕方ない。ミスを責めたところでどうにもなんねえだろ。最後の文化祭、楽しみたいんじゃなかったのか?」
私に自分のスマホを預けた蓮くんは、騒動の中心に向かって歩きながらそんなことを言う。この状況をどうするか意見する立場、蓮くんだから上手くいくと思うんだよね。この冷静さと的確な判断、そして『カリスマの蓮』と言われるほどの人気と信頼。このすべてを彼は持ち合わせているから。
「じゃあどうするんだ? 残り三十分切ってるんだぞ」
「足りない分は近場のスーパーに俺と咲良で買いに行く。予定より少なかったってことは、経費もまだ余ってるはずだろ。急いで行ってくるから、それまではデザートメニューを消す。ドリンクは外せないんだからこうするしかねえ」
なるほどね。たしかにドリンクはメインとも言えるから外すわけにはいかない。デザートも生クリームを使う予定だったものがそれなりに種類あるし、こちらを一時的にでも止めておけば何とかなるかもしれない。協力しろと言っていたのは買い物のことか。これくらいなら全然構わない。どうせ私達は一日遊びまわる時間があるのだから。
そしてデザート類を抜いたメニュー表を作り直せと。用意でき次第元のやつに戻すんだろうね。いい考えだと思う。ただ修正するだけなら私にでもできるよ。
「だが、」
「その申し出はとてもありがたいです、結城くん。ぜひそのようにお願いします」
「坂井! クレームでも入ったらどうするんだ!?」
「ただの学生が運営する出し物です。アレルギーが出たとか、何か異物が混入していたとか、それくらいのことでもない限り大目に見てくださると思いますよ。それでも何か言われるようなら、このクラスの学級委員である私が対応します。どうですか?」
「それならまあ……」
いいんじゃねえの? と一人の男子が気まずそうに呟いてる。でもみんな、彼の気持ちも分かると思うんだよね。せっかく準備してきたのに、こんなところで躓くとは思っていなかったんだから取り乱してしまうのも仕方ないでしょうし、ここは蓮くんと真紀ちゃんの対応がさすがとしか言いようがないかな。致命的なミスと言うほどでもないし、誰も悪くない。ただ、今後何かする際は同じようなことが起こらないように気を付けてほしいとは思うけれど。
「新しいメニュー表もできたよ! 職員室に転送して今印刷中だから、誰か取りに行ってもらっても良いかな? 間に合いそうならラミネートでもしておけばそれっぽいかも」
「じゃ、私が行ってくるね!」
「俺も行くよ。みんな、蓮と瑠衣と坂井さんに感謝しようね。急いで動こう」
これで丸く収まった、かな……? 最初のような険悪な雰囲気はもうなくなった。今度はみんな忙しそうに残りの準備を再開しながらも、安堵の表情を浮かべている。
「蓮くん、たまにはいいことするね」
「たまにはってなんだよ。このクラスの救世主だぞ?」
「はいはい、ありがとうございます救世主様。スマホも返すね。今回は仕方なく借りたけど、個人情報が入ってるものなんだから気軽に人に渡さない方がいいよ」
「お前だから貸したんだろ」
「……どういう意味?」
「咲良、俺に興味ねえじゃん。変に騒いでくる奴らと違って俺の個人情報に価値を見出さないだろ?」
それはたしかに。よく分かってるね、私のこと。でもちょっと違うかな。私は蓮くんの個人情報には興味なくても、結城蓮という人間は割と好きなんだよ? 男性として、ではなく人間として、ね。
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