72 桜の絵画
今年の文化祭に向けて、私が準備しているのは教科別の展示物とクラスでの出し物。美術で絵を、家庭科で刺繍作品を。
文化部の三年生は文化祭を最後に引退になるため、毎年大きめの出し物や展示物を作っている。書道部はたしか、今年も書道パフォーマンスをするって言ってたかな? 吹奏楽部はダンス部の二年生以下と協力したもの。
「運動部は体育祭、文化部は文化祭が見せどころだからな……やっぱり忙しそうにしてるね。というか瑠衣、文化祭で刺繍作品を展示するんだろ? プロ作家が参加して色々と大丈夫……?」
「大丈夫じゃない気がするから、控えめにしてるよ。ハンカチにワンポイントで、みたいなレベル」
「それは良かった」
海斗くんも言ってるように、色々と大丈夫じゃないからね。身バレする可能性あり、主役の文化部の人達が霞む可能性もあり……
「器用すぎるのも考えものだと思わない?」
「たしかにそうだけど、自分で言う?」
「これでも売れてる作家だからね。私の手先が器用なのはたぶんお父さんからの遺伝なの。お父さん、私より刺繍上手だし」
「へぇ……瑠衣以上って相当だね。というか、瑠衣からご家族の話してくれるの珍しい。お父さんも瑠衣みたいに何か作って販売している方?」
「ううん、お父さんは違うよ」
お父さん、脳神経外科医でゴッドハンドって言われてるくらいだからすごく手先が器用なのは分かるし、一度すごく難しい図案を渡してみたことがあるんだよね。私が一日中やっても一週間くらいはかかるであろう繊細さと大きさのやつ。そしたらお父さん、仕事終わりに一日二時間を三日くらいで終わらせて、完璧なクオリティで私に渡してきた。そして『ちょうど良い息抜きになって楽しかったよ。ありがとう』だって。信じられないよね。今は実家の私の部屋に飾ってるよ……
興味深そうにしている海斗くんにこれ、と写真を見せると『え……』と口を開いたまま固まってしまった。その間も視線はスマホの画面から外れない。オーバーリアクションでも何でもなく、私も全く同じ反応をしたからこれが普通なんだと思う。
「なんていうか……想像をはるかに上回ってたよ」
「でしょう? なんでこんなに器用なんだろうなぁ……」
やっぱり医者としてのスキルを磨くうちにこうなったのかな。これはただの刺繍だから、手術と違って責任とかなく気楽にできたのも良かったのかもしれない。全国のお医者さん、刺繍作家さん、腕を磨きたいなら瑠衣凛久に教えを乞うと良いですよ。忙しいから相手にしてもらえるかは分かりませんけどね。
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