61 本当の桜
「成績の話はまた後で、進路相談の時にも改めてしよう。最近悩んでいることはあるか?」
「……いえ、特には」
「あるな。その顔は絶対あるやつだろ。誤魔化す気もないじゃないか」
それはだって、橋本先生相手だからね。私がどういう人間なのか分かっているから、丁寧な誤魔化し方なんてしなくていいでしょう。面倒なだけだよ、そんなの。
「ええ。でも先生には関係ないことなのでどうぞ、次の話へ移ってください。進路相談ですか?」
「お前なぁ……まあいい、そうだ。たしか瑠衣の志望校はもう決まっていたな。東都大学だったか?」
「そうです。正確には東都大学の医学部、脳神経医学専攻になりますね」
「変更する可能性は?」
「百パーセントないです。ご存知の通り、父の仕事を継がなければなりませんので」
「そうか。瑠衣の成績ならそこまで根を詰めなくとも、普段通り試験勉強しておけば合格するだろうな。推薦で受ける予定か?」
「可能なら」
とは言ったものの、今のまま何か不祥事でも起こさない限り推薦の許可は通るでしょうね。筆記試験も問題ないと思うけど、勉強しておいて損はないからこれは無理のない範囲で続ける。
私は以前、藍那とすれ違っていた時期に海斗くんや蓮くんと『瑠衣脳神経外科』の話をしたことがある。その時に海斗くんは『瑠衣の実家だったりする?』と聞いてきた。それに対して私は『違うよ』と返した。瑠衣の病院とは無関係だと。
あれね、嘘。私はその『瑠衣脳神経外科』の経営者兼院長である瑠衣凛久の一人娘。ゴッドハンドと呼ばれる国内トップクラスどころか、世界的に有名な院長の娘だよ。
うちは代々経営、普通の診察に手術、管理等すべてをやっている家系。普通はこのすべてを院長一人が担うことって中々ないんだけど、うちはそういう家系なんだよ。だからお父さんは転勤できない仕事だし、すごく忙しい。私が手伝っていたのは医療関係の書類仕事。家を継いだ時の練習も兼ねて仕事を手伝えるよう、『医療事務』の資格取得を命じられてちゃんと取ったから助っ人になれるんだよ。専門外とはいえ、基本的な知識は身に着けているので応急処置やよくある怪我や体調不良時の最適な判断なんかもできる。体育祭の時、熱中症になった子にした対応はそういうこと。
ちなみにお母さんは今でこそただのカフェ店員だけど、お父さんと結婚するまでは五ヵ国語以上の言語が扱える、超ベテラン翻訳者として働いていた。瑠衣家の夫人は外国語が堪能だと有名だけど、実際には堪能なんてレベルじゃないからね。現地の人だよ、もはや。だからお父さんが海外出張なんかに行く時はついて行って翻訳担当となっている。
そんなにすごいのにカフェ店員をやっている理由を聞けば、『楽しそうだったから』と答えるんだから、それこそ賢い人が考えることは……ってやつだね。
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